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(´・ω・`)短め

 口を濯ぐ。

 一度、二度と水を吐き出すが、気持ち悪さがまだなくならない。

 というか口の中に何かいる、そんな気が全く消えない。

 文明レベルの低い国では風呂なんて滅多なことに入ることはなく、水浴びすらほとんどないという壊滅的な衛生環境なのは知識としては知っていた。

 だが200年経って尚そのままだと誰が予想したか?


(あー、何か虫がいる感じがしてならん。こんなことなら噛む場所他にするべきだった!)


 適当に苦しんだフリをするつもりが本当に苦しませてくれるとは……あのオッサン今度あったら絶対に殴ってやる。

 結局、瓶2本を費やしどうにか落ち着いた。

 水の残りを考えると一度補給したいと思わないでもないが、いちいち川に行っていては埒が明かない。

 ここは予定通りちょっくらカナン王国領内にお邪魔して、街を拝見させてもらう所存である。

 カナンの街を知ることで俺が眠っていた200年間で技術水準がどの程度変化したかを推測できるようになるはずだ。

 というわけでルークディル跡を抜け、そのまま北上。

 明らかに人が通るために伐採され、道らしきものができている。

 恐らくではあるが、ここを通ってあの傭兵団はやってきたのだろう。

 この道自体は何年も前からあるように見受けられるので、飛行船を南に飛ばしたことがあるカナンが領土拡張のためにこの辺一帯は調査を行ったことは想定するべきだ。

 となれば、ここは既にカナン王国の勢力範囲であると思って行動した方が良さそうである。


(ただ森を切り開いただけの道とは言え、他にも通る人間がいるかもしれないと考えれば、道から外れた方が良いな)


 下手に見つかって騒ぎを起こすのも面倒なので、道を外れて森の中をひっそりと進む。

 視界に映るものに人工物は未だなく、人影も気配も今の所はなし。

 念には念を入れて音や臭いには気を配っておくが、歩きながらとなると実は結構神経を使う。

 気が付けば周囲を気にせず走っていた。

 いや、だって本当疲れるんだって。

 どうせあれだけわんさかゴブリンがいる拠点がすぐ近くにあったんだし、こんな場所に来る人間なんて余程のモノ好きでもない限りいない。

 そうしてしばらく走り続けたところ、右手に人工物が見えた。

 よく見てみたところそれが城壁であることがわかったのだが、一つ疑問がある。


(こんな場所に町なんてあったか?)


 俺が眠っていた間にできた町と考えるのが自然だろうが、また随分と国境近くに作ったものだ。

 いや、既に国境がなかったからこの位置に作ったと言うべきか?

 脳内マップに町を書き込み観察を開始する。

 このまま北に向かうと森が途切れるので、この辺りは完全にカナンの領土となっているようだ。

 城門は北と南に存在し、北門の道は北西と北東に分かれている。

 恐らく北西に行けば俺の記憶にある町に辿り着き、北東に行けば恐らく国境を守っていた砦があるはずだ。

 ちょこちょこと移動を繰り返し、見る角度を変えたりして町の様子を見ていると南門から数人の男女が出てくると、そのまま南へと進路を取る。


(見た感じ斥候っぽい? 森の調査員か、それともゴブリン退治の確認か?)


 俺は彼らを見送るとどこかに高所はないものかと辺りを見渡すが、あるのはここよりずっと北。

 時刻は昼過ぎとあって、見通しの良い街道を突っ切るのも考えものである。

 擬態能力を使えば次に姿を隠せる場所まで移動できるとは思うが、その隠蔽能力も完璧ではない。

 それならいっそ、北西にある町「グレンダ」に向かうのもありである。

 記憶が確かならば、山の上から一望できるような地形だったはずなので、現在のカナン王国はどのような暮らしぶりなのかを知るならば悪い選択ではないだろう。

「悩むな」と顎に手をやり町の観察を続ける。

 そもそもこの新しい町の規模は小さくはないが、大きいとは決して言えない。

 それならば当時賑わっていた町が200年の間に発展を遂げていると考えた場合、そちらの方が参考としてはより多く物を得ることができる。

「この町に拘る理由もないな」と北西へと進路を取る。

 北部と違って発展が遅れているであろう地域なら、森林が十分に残っているので移動にも不都合はない。

 というわけで街道から少し離れた森を移動していたところ、血の匂いが進行方向の先から漂ってくる。

 擬態能力を使用し、音をできるだけ立てないようしつつ森を進むと、街道に6人ほど死体が転がっていた。

 全員が武装していたと思われるが、その周囲に武器はなく回収されたと思われる。

 また、わだちが森の中に入っており、ここで何が起こったかを示してくれている。


(賊が馬車を襲った、というところか。それで馬車が森の中に逃げ込んだ、もしくは誘導されたか、捕獲された)


 護衛と思しき男達が死んでいる以上、掴まったと見るべきか?

 このまま進めば間違いなく鉢合わせるか視界に入る。

 賊が襲う理由と言えば積荷。


(その積荷に食料がある可能性は普通にあるし、俺にとって有用な物があるかもしれない。行き先を考えるのであれば、南部開拓の最前線が必要としているもの……魔法薬とかもありそうだな)


 少し考えてみたが、積荷の横取りというのも悪くない。

 目撃者?

 消せばいいさ。

 相手は賊なんだから死んだところで誰も困らないし、俺も一応軍人として心痛まず殺せる相手だ。

 やっぱり新兵とは言え……いや、新兵だからこそ民間人に手を出すのは躊躇われるのだ。

 というわけで荷物を置いて――「ヒャッハー! 賊狩りだー!」と擬態を解除し「ガッガー」と臭いを辿って馬車に突撃。

 視界が悪い森だろうが、嗅覚と聴覚に意識を集中すればいともたやすく発見可能。

 思った通り賊がいた。


(んー、全部で11人か……いや、馬車の中にも何人かいるな)


 幌があって中は見えないが4,5人はいそうな感じがする。

 多少増えたところで変わりはないので気にせずそのまま馬車に近づくと、ようやく俺に気づいた賊が声を上げて周囲に呼びかける。

 俺の登場に賊は面白いくらい狼狽えながら各々が武器を取る。

 だが3人ほど逃げ出しており、一人が何か叫んでいる。

 ある意味では非常に賊らしい行動なので、その潔い逃げっぷりに免じて見逃してやろう。

 残った8人が武器を構えるが、これには俺もがっかり。

 見た目でわかる何の変哲もない鉄の装備なのだから、俺を傷付けるとかどう考えても無理である。

 だが一人が馬車に向かって叫ぶと、出てきた身なりの良い太った男が持っていたのは大きなクロスボウ――所謂「アーバレスト」というものだ。

 威力、射程が従来のクロスボウに比べ向上しており、賊が持つには少々不相応な武器である。

 金属製の弦を用いる物もあり、200年前は一部の国が戦争で使用しており、俺も訓練時代に注意喚起を受けていた代物だ。

 今となっては「だからなんだ?」というレベルの話なので気にせず前進。

 奇声を上げて切りかかってきた男を裏拳で木のシミに変え、手斧を振りかぶった奴も強めに叩くと首が270度くらい回転して崩れ落ちた。

 指示を出している奴がいるのでそいつは後にとっておき、武器を捨てて逃げ出した者にはお仕置きの投石。

 胸に穴が空いたので絶命。

 それを見ていた一番手前の槍持ちも武器を捨てて逃げ出したので跳躍して踏みつける。

 背骨が折れたような感触と血を大量に吐いたので、こちらもまあ死んでいるだろう。

 一気に距離が縮まったので尻尾で弾いてその辺の木に叩きつけ、振り向くと同時に拳で追加で仕留める。

 これで残りは3人。

 アーバレストを持った太っちょはまだ用意ができていない。

 大剣を担いだ男が何か言いながら前に出てくる。

 顔に傷があり大物感を醸し出しているが、相手の踏み込みに合わせて拳を繰り出し武器ごと人体を破壊。

 木にシミを作ったところで飛んできた矢を手でキャッチ。

 アンドリリース。

 残り一人となったところで指示を出していた男が何か喋ってるけど、早くて聞き取れない。

 賊が何を言っていようが「どうせ大したことは言っていないだろう」と頭を掴んで適度な力で捻る。

 首を360度回転させて後ろに放り投げて殲滅完了だ。


(さーて、お荷物を確認するとしましょうか)


 むせ返るような血の匂いの中、馬車の後ろに回ると中が見えた。

 だが期待した物はそこにはなく、女性5人が怯える目で俺を見ていた。

 しばし彼女達を見る。

 年齢は10代後半から20代後半で、服装は派手で非常に薄く肌が薄っすらと透けて見える。

 年長と思しきスケスケの赤いドレスの女性が、他4人をかばうように前に立ち両手を広げてる。


(5,3,4、1に3だな)


 これだけボディラインがしっかり見えるのなら俺の計測も正確なはずだ。

 積荷があるかと思ったが、どうみても娼婦のお姉さん方が乗っていた。

 どうしたもんかね、これ?


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