表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/242

178

(´・ω・`)ニコニコ静画コミックコロナにて凡骨マンガ更新しております。

https://seiga.nicovideo.jp/comic/53755?track=official_trial_l2

 手から滑り落ちた日記を拾う。

 これの重要性は決して高くはない。

 だが果たしてこれを持って帰るべきなのかどうかは迷っている。

 この日記を持ち歩く俺という存在。

 そして俺以外のこれを必要とする誰かがここに来る可能性。

 理由としては前者が強いが、帝国の中にもこんな考えを持っていた研究者がいたことを知ってほしいのも本音だ。

 しかし、同時にこのどうしようもない結末を自分と同じ誰かに知らせたくないという気持ちもある。

 持っていることで潰える可能性と生まれる可能性を天秤にかけ、俺はこの日記を持ち出すことを決めた。


「……名前は『サーリャ・レントストン』か。貴女の名は私が覚えておきます。だから、貴女の想いが宿るこの日記を持ち歩くことをお許しください」


 何時振りかの帝国式の礼。

 前回は不要だと言われたが、それでも敬意を払うべきだと思う相手には尽くすべきである。

 状態はまだマシな方だが、二百年も前のものとなれば扱いには気を遣う。

 知識はなくとも密封した空間の中で保存しようと試みる。

 都合良く部屋の中で金属製の箱が手に入り、サイズも丁度良かったのでそちらに収納。

 その辺りに散乱している紙を使って隙間を埋めて衝撃にも備えれば、俺が思いつく限りの対処はできた。

 ここにはもう用はないだろう、と次の部屋を探そうとした時にある考えが俺の頭を過った。


「他にもいたんじゃないか?」


 思わず口に出たその言葉をもう一度頭の中で繰り返す。


「他の研究施設にも、彼女と同じ考えを持った研究者がいたんじゃないか?」


 そして出てきた疑問に失われた希望の光が再び灯る。

 現在本拠点としている施設にはなかった。

 あれだけ探して見落としているという可能性もないわけではないが、現実的ではないのも事実だ。

 蜘蛛男がいた最初の拠点は崩壊している。

 だが、少なくともあと一人分は確かに存在している。

「森林の悪夢」と恐れられ、完全に自我を失ったキメラ計画と思しき被験者の研究所。


(位置的に西側にまだ施設は残されている)


 その結論に至ると俺は顔を上げる。

 だが、今やるべきはこの施設の探索だ。

 そして新たな施設の発見ならば東側の探索を終えてからだ。

 俺は気持ちを切り替えるために自分の頬を叩く。

 外皮の硬さ故に思っていたような音は出ず、ゴツゴツした感触が手に伝わったが、目を覚ますには十分だった。

 次の部屋へと移動する。

 この明かりの魔法が続く限りは探索は止まらない。

 そんな風に格好を付けていたのは大体五分くらい前。

 どうやら日記を読む際に必要以上に魔力を消費して明るくしていたらしく、早くも底が見えてきている。

 ということで一度休憩を挟むことにする。


「魔力量本当に少ないんだな、俺」


 効率的な魔力の運用についてもしっかり学んでおくべきだった、とエルフの里にいた頃を思い出す。

 しかし休憩するにしても何もしないというのも落ち着かない。

 なので次の部屋に移動して適当に探して手にした紙束を持って地上に戻る。

 夜はまだ明けていない。

 それでも、火を点ける道具があるので明かりには困らない。

 瓦礫で作った簡素なかまどに適当に集めた枯れ葉や枝を投げ込み、何度も点火に使った道具の先を押し付け集めた燃料を燃やす。

 適当な場所に腰を下ろし、手にした紙束の一枚目を見るとそこには指で隠れているが「ゴライアス」から始まる一文があった。

 あれだけ探して見つからなかったものが、今度は何気なく手にしたものの中に存在する。

 何となく納得できない気分はあれど、魔力が回復するまでの間に読むものとしては最適と言える。

 早速、紙束を持つ指の位置をずらしその内容に目を通す。


「ゴライアス……リザード?」


 しかしそこに書かれていたのは聞いたこともない生き物の名前。

 そのまま視線を滑らせ内容を確認すると、どうやらこの「ゴライアスリザード」とやらが俺の遺伝子強化に使われたモンスターの名前らしい。


「リザード……トカゲだったかぁ」


 うん、まあ爬虫類っぽさがあったのは自覚していた。

 思わぬところで知った新事実。

 今更ではあるがこれも新情報なので収穫であることには違いない。

 もうちょっとカッコイイモンスターとかだった方が個人的には良かったが、キメラ計画の被験者を思い返せば結構マシな部類に入る。

「贅沢はいかんな」と自分を納得させて続きを読む。

 一枚目に書かれていた内容は簡単に言えば「ゴライアスリザードの遺伝子を使う利点」について書かれていた。

 その利点についてはこれまで俺のスペックを見れば今更な話である。

 取り敢えずこのゴライアスリザードには擬態能力や望遠能力、再生能力まで備わっていることが判明した。

 ただアサルトモードに該当する能力は書かれていなかった。

 特に欲しいわけでもない情報ばかりが手元に集まり、真実という名のパズルの肝心なピースだけがないような状況になりつつある。

 ともあれ、読み進めていくうちにわかったことがある。


「これ、どうも実験前の資料っぽいな」


 内容を完全に理解できたわけではないが、少なくともこれはゴライアスリザードを用いた遺伝子強化兵が生まれる前のものであることは確実と言い切れる。

 キメラ計画のデータから候補となるモンスターを並べており、様々な利点をいろんな角度から推測し、完成系の予想されるスペックなどが書かれていた。

 その中にあるゴライアスリザードのところに「採用」の赤い丸が付けられており、俺の予想が当たっていたことを示している。

 となるとこれには重要な情報はなさそうである。

 魔力が回復するまでの読み物なのでそのまま読み続けるが、大した情報はないだろう。

 そして予想通り欲しい情報はなく、魔力が十分に回復するだけの時間を費やしたので再び地下へと戻る。

 探索を再開――まずは先ほど入った部屋だ。

 あんなものがあったということは、他にも資料が残っていてもおかしくはない。

 照明の魔法を立てた指先に浮かせ、道を間違えるようなこともなく部屋に到着。

 早速部屋の中を探し始めたところ、見つけたのは魔物図鑑。

 寄り道すべきではないことはわかっている。

 だが気になるものは気になるのだ。

 手を伸ばして図鑑を本棚から取り出し、ゴライアスリザードの項目を見る。


「……色褪せててわかりにくい」


 字を読むのに結構苦労しているのだから写真だってそうなる。

 あまり意味はなかったな、と本棚に戻したところで別の本に書かれた文字が目に入る。

 思わず二度見することになった本の著者――ゼータという文字が目に入れば嫌でも手を伸ばしてしまう。

 手に取り中身を見てみるが、これが俺の欲しいものではないことはすぐにわかった。

 専門知識がなければ理解のできそうもない遺伝子改造技術に関する論文だろう。

 俺は大きく息を吐くと本を戻す。

 その際に本と本の間に一枚の写真があることに気が付いた。

 周囲の状態からは浮いているほど真っ白状態の写真に思わず手を伸ばす。

 写真に触れた時にその硬さから保存のための加工処理がされていることがわかった。

 恐らくは家族の写真か何かだろうと裏返しのそれをひっくり返す。

 するとそこには姉の水着姿があった。


「……しかもサイン入りときたか」


 どうやらうちの姉のファンのようだ。

 相変わらず大したスタイルである。

 六号さんと並んでも負けることはないだろう、と思ってしまうのは身内贔屓か?

 ともあれ、俺はこれを確保する。

 貴重な家族の写真である。

 何処の誰かは存ぜぬが、ありがたくこの写真は頂いておこう。

 思わぬ収穫にちょっとだけ気分が良くなった。

 ちなみにうちの姉のサイン入りのポスターやブロマイドは結構な値段で取引されていた。

 それを知った当時の俺が小遣い稼ぎに一枚頼んだところ、それはそれは見事なショートアッパーで顎を打ちぬかれた。

 以降、その手の頼み事をするような真似はしなくなった記憶がある。

「懐かしいな」と思い出に浸っていたところで、次に手にしたバインダーに気になる文字を発見。


「……ゴライアスレポート」


 既にタイトルが如何にもなバインダーを捲るとしっかりと挟まれた書類の束。

 非常に期待ができるのはよいのだが、少々状態がよろしくない。

 一枚一枚を慎重に捲る必要があるものは神経を使う。

 そして最初の一枚を捲り、その内容を目にして後悔した。


「まあ、こういうものがあることを想像できていなかったわけじゃない」


 そこに書かれていたのは遺伝子改造段階において、耐えきれなかった者たちの最期とその過程が書かれていた。

 ただ淡々と書き綴られた無数の死。

 気分が悪くなる。

 しかしそれもすぐにスイッチが切り替わるように平静に戻る。


「怒るな、という方が無理だろう」


 言い訳のように聞こえた自分の声に苦笑する。

 多分これには俺が求める情報はない。

 それでも最後まで手にしたバインダーに挟まれた書類を読み続けた。

 帝国は何処で道を間違えたのだろうか?

 その疑問に答えてくれる者は、恐らくもうこの世には残っていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 冬越えの準備中だった気がするけど季節はどうなってるんだろう 全く気にする様子がないのは寒さなんかどうでも関係なかったってことかな?
[一言]  帝国は何処で道を間違えたのだろうか? ↑ 強いて言うならエルフがマッチを擦った時から(´・ω・`)
[一言] 喋れる様になった時に、ふと思ったんだけど食べれば食べるほど人間に近づいていくのかと妄想してた。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ