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(´・ω・`)ニコニコ静画にてコミック3話更新しております。
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突然現れた闖入者――その姿を捉えたものが見せた反応は二つ。
動揺と威嚇。
新手の出現に逃げ出す機会を失った二人は状況を処理しきれなくなりただ震えている。
特に警戒するようなこともなく、散歩をするように真っ直ぐ自分に向かって歩いてくる俺に、レッドオーガが威嚇の声を上げている。
(前に見た個体と比べると少し小さい?)
近づくにつれ視覚で得る情報が正確になっていく。
距離にして凡そ二十メートル――互いの図体を考えればいつ戦闘が始まってもおかしくない距離だろう。
荷物は走りながら木の上に置いてきたので、傍から見ればモンスター二匹が見合った形に見えていそうだが、実際は俺が一方的に圧をかけているだけである。
自分を全く警戒することなく距離をどんどん詰める生物など、人型モンスターの中では最上位に位置するレッドオーガからすれば信じられない話だろう。
陸上生物という分類でもかなり上位。
でも俺は既に単騎で、それもほぼ一方的に倒している。
おまけにあの頃に比べて俺は間違いなく強くなっているので、尚更恐れる必要はない。
そんなズンズンと近づく俺に対し、レッドオーガの取った行動は――投擲。
しかも捕まえた女魔術士を投げてきたのだから驚いた。
大きく予想から外れた動きに若干ではあるが俺の反応は遅れる。
それでも投げつけられた女魔術師を勢いを殺すようにして華麗に左手でキャッチ――四号。
そのまま手を緩めて彼女を落とし、安否を確認することもなく近づいてやると、レッドオーガは咆哮を上げて俺に向かって走ってきた。
俺と同等の体格の突進である。
普通ならばその勢いと正面からぶつかるのは愚かしい行為であるが、生憎とパワーで負ける気はしない。
レッドオーガのぶちかましを真っ向から受け止め、僅かに下がった足に力を込める。
これで最早一ミリとて動かすことは叶わない。
俺にぶつかり、このまま押し切ろうとするレッドオーガに組んだ両手を落とす。
背骨を砕いた感触が確かに伝わりレッドオーガが崩れ落ちた。
これで脅威は排除できたと恐怖で動けなくなった少女たちの元に近づく。
そして十分に距離が縮まったところで確信した。
(うん。違うわ、これ)
確かに背丈や髪型はほぼ一緒。
顔立ちもどことなく似ているけれども髪の色や目の色も違う。
何より――立ち向かう意思を、力を微塵も感じない。
うちの家系の女とは思えない。
そう感じてしまった途端、そこにいるのは逃げ出そうとしている年相応のただの少女に見えた。
自分がこの少女に妹の姿を重ねたことに深い溜息を吐く。
何故間違えたか?
その問いが既に誤りだ。
(俺は何から逃避している? 何に不安を感じている?)
改めて自問すればすぐにわかる。
何でも良いからすがるものを欲した自分の弱さが生み出した過ちだ。
かかわる必要のないことに首を突っ込んでしまった。
俺は少女を見ながら一つ息を吐いた。
怯える彼女たちを放置してこの場を去ろうとしたその時――倒したと思っていたレッドオーガが復活し、その拳が俺の頭部を的確に捉えた。
思考に意識が行きすぎたが故の失態。
たたらを踏むように一歩、二歩とよろめくがそこまでだ。
若干の痛みはあれど、復活したての攻撃ではダメージなどないに等しい。
背骨を砕いたと思ったが、それでもこの短時間で動けるまでに回復する治癒能力は人間からすれば確かに脅威。
討伐に軍を要すると言われるだけのことはある。
敬意を表してその心臓に拳を叩き込むとレッドオーガは大量の血を吐き絶命した。
破裂しないように手加減はしたが、ここまで上手くいくとちょっと得意気になってしまう。
ともあれ、これで俺が東側に来ていることがセイゼリアにばれることとなった。
(流石に助けておいて口封じするのもなぁ)
甘いとは思うが、これくらいの子供と言って差し支えない年齢の少女を殺すのは抵抗があるのも事実。
帝国軍人として武器を持たない未成年を、しかも戦意のない相手を手にかけるのはよしとしない。
若干センチメンタルな気分も影響しているだろうが、今日のところはそちらを本命に添えて退散するとしよう。
悠々と立ち去る俺を彼女たちはただ見送る。
そのまま何事もなく荷物の元へと辿り着いた俺はリュックを背負って探索再開。
あの出会いが悪い方向へと結びつかないことをただ祈る。
どれだけ時間が経ったか?
「……やっと、やっと見つけた!」
と言っても見つけたのは施設ではなく墜落した飛行船。
だがここまでくれば見つけたも同然……だと思う。
流石にちょっと記憶が怪しくなっているが、ここを起点に探せば必ず見つかるはずである。
(待てよ? そもそもどうやってこれを見つけたんだっけか?)
周囲を見渡し、飛び跳ねて発見した自然の高台。
記憶が確かならば、高所からこの飛行船を発見したはずである。
これで俺が目覚めた施設へと一歩近づいた。
早速高台へと向かい、ロッククライミングの要領で登っていく。
「おお、この景色には見覚えがあるぞ」
登頂して見下ろす森にではなく、聳え立つ長く尖った不自然なオブジェクトを見て声を出す。
見渡す限り緑、緑、緑で何処に施設があるかはさっぱりわからない。
まずは見覚えのあるものがないかと望遠能力を用いてじっくり探す。
人工物を見つけることができれば楽だったのだが、結局は見つけることができず、高台から降りて足で探すことになった。
そんなわけで再び森の中を歩く。
地味ではあるが確実に目的地へと近づいている。
そう信じて進んでいると、不自然に表面が削れた木を発見。
もしかしたらこれは俺が「汚染地区」の看板を見つけて猛ダッシュしている最中に付いた傷ではなかろうか?
確認のためにしばしその場に留まり検証をしてみたところ、どうにもそれっぽい傷跡が周囲の木にもチラホラ見受けられる。
(あの頃はまだ自分の体に慣れなくて走るのも大変だったよなー)
コールドスリープから目覚めてみればモンスターで体を十全に動かすには訓練が必要だ、とか考えていた頃の俺の頼りない動きが何となく想像できる傷の付き方に苦笑する。
その痕跡を頼りに進んだ先に目に留まる金網に植物が絡まったような壁。
「見つけた」
あの日見たかすれて読めない「重度汚染地区により立ち入り禁止」の看板。
ここまでくれば後は早かった。
即座に見つかる人工物に俺が出てきた施設跡。
地上部分はそこそこ念入りに調べていた記憶があるので、早速地下へと向かう。
半開きの昇降機の扉をこじ開け、下を覗くとそこにはただただ暗闇が広がっている。
俺は壁の凹凸を使って慎重にゆっくりと降りる。
籠の天井部分に足を付け、魔法で小さな光球を生み出し光源を確保。
やってて良かった光魔法。
下の扉は開いているが、落ちた昇降機の籠が大きく跳ねた上に変形したお陰で足元が少々頼りない。
体重のかかり方を気にしながら下の扉をくぐり、俺はゲートが見えるこの場所へと帰ってきた。
「問題は、この先が埋まっているかどうか……なんだよな」
確認作業がちょっとどころではなく怖い。
だがその前にゲート前で何かないかを探しておく。
前回気づけなかったものでも、今なら気づける可能性は十分ある。
何より今は光源もあるので、俺のための装備がこちら側で見つかることだって考えられる。
そうして見つかったのがこちら、明らかに人間サイズのものとは違う靴。
「なんで靴?」
サイズがピッタリだったので俺のためのものであることは間違いない。
しかし何故靴なのか?
見た目がただデカいだけの普通の革靴だが、素材が明らかに革ではない。
無駄に革っぽい光沢や質感を再現しているが硬さが違う。
ひょっとしたら防具にでもなるんじゃないかと思える硬さだ。
ただ二百年物の靴を誰が履きたいか、という問題が立ち塞がる。
俺はこの靴を見なかったことにした。
そして次にジャケットと思しきものが見つかった。
こちらは時の流れに身を任せた結果ボロボロだった。
原型が何となく察することができるので言わせてもらう。
「何を考えて作った?」
ただのジャケットならばまだ良かったのが、どう見てもファンシーなデザインにしか見えない。
祖国の考えがわからない。
今に始まったことではないが、ちょっと自由すぎやしないか、帝国の研究者諸君?
それからしばらくの間探索を続けてみるも発見はなし。
てっきり俺用の武器とかあるんじゃないか、と期待したが……やはりイノスとはコンセプトが違うからダメだったようだ。
言い訳のように聞こえるが避けていたわけではない。
もしも、これから行う自殺に等しい行為に対し、有効な何かを見つけることができたなら、と僅かな可能性を求めただけだ。
俺はゲートの前に立つ。
脱出時に掘った横穴は崩れ、土砂がゲート付近まで流れてきている。
専門的な知識はない。
当然それに類する技術もない。
ゲートをすんなり開ける手段はなく、できることは最後に力業を試すのみ。
前回との違いは少なからず俺の力が増していること。
俺は大きく息を吸う。
「……はあああぁぁぁぁぁぁっ!」
叫び、渾身の一撃をゲートへと叩きこむ。
轟音が響き伝わる衝撃が痛みとなって腕を走る。
拳の外皮が砕け、骨すらも折れたかのように思えるほどの全力の一撃。
痺れる右腕を引く――そこにあるのははっきりと写し取られた拳の跡。
その頑丈さと分厚さを理解した。
「破壊は現実的ではない」と結論を出すには十分だった。
再び横穴を掘る。
結局こうなるか、とわかっていたように呟いた。
さあ、生き埋めにならないことを祈るとしよう。




