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ありがたいことにレビューをいただきました。

 なんやかんやで三台目の馬車で塩を確保。

 現物を前に「しまった。リュックに空き容量がない」とオデコをペチン。

 両手に塩の壺を抱えて去る俺の背中にオッサンの泣き声が刺さるが気にしない。

 手にしたものを保険を置いた洞窟へと運び、次の獲物を見つけるため街道に沿って進む。

 するとエメリエード側から一台の馬車を引き連れる武装集団を発見。

 咄嗟に姿を隠して集団の観察を開始。


(数は十八……予想通りとは言え傭兵団か)


 しばらく彼らの話に耳を傾けていると、どうやら俺を討伐するために傭兵たちが集まっているらしく、今更ではあるが向かっているらしい。

 傭兵団の運営資金が心許ないという嘆きが聞こえてきたが、一芸に秀でる者の厄介さは身に染みて理解している。

 魔術師がいるようならば、ここで排除することも辞さない。

 そう思って通り過ぎる傭兵の一人一人をチェックしていたのだが、あまりにも貧相な装備に警戒する必要を感じなくなった。


(魔術師はいない。どの武器からも魔力反応はなし。使い込まれていると言えば聞こえは良いが、普通の金属じゃ脅威とはならない)


 おまけに馬車が随分とボロい。

 正しく「金のない傭兵団」を絵に描いたような集団である。

 俺の記憶が正しければ、この手の連中は賊になる一歩手前の状態だ。

 治安の悪化は俺とカナンの対立において優位にはたらく。

「なら放置でいいか」と俺は彼らを見送った。

 余談ではあるが、この周辺には既に野盗が潜伏しており、つい先ほど塩を頂いた小規模な隊商は彼らに襲われ壊滅している。

 それをエメリエード側からやって来て、その隊商と遭遇していなかったと証言したことで犯人扱いされる。

 結果、この傭兵団は本当に野盗となってしまう。

 時系列を考えると何かしらのアクシデントがあってのことだと思われるが、それで疑われるとは何とも運のない傭兵団である。

 後日、そんな話を討伐隊を奇襲すべく森に潜伏していた俺の耳が彼らの口から出た愚痴を拾った。

 そして「アルゴスが街道に出現した」という情報が広まることはなく、俺はポツンと一人……もとい、一匹取り残され寂しく干し肉を齧っていた。




「このままではいけない」と決意したのが最初の襲撃から五日後。

 潜むだけでは埒が明かない。

 おびき寄せるのが目的なので騒ぎを起こさなくては始まらない。

 そこで俺が取った行動は二度目の襲撃。

 順当な選択ではあるが、特に欲しいものもなく、これといった収穫のない結果に終わる。

 隊商の人的被害が護衛数名程度なので問題はないだろう。

 これで討伐部隊をおびき寄せることができればよいのだが、少々時間がかかりすぎている気がする。

 そんなわけで更に三日を待機に費やした。

 何度か気配を消して討伐部隊がいるであろう前線拠点を見に行ったが、特に動きがなかったのですごすごと引き返すこと数度――ようやく動きがあったのだ。


(集中すれば精霊剣の気配も感じる。間違いないな)


 明け方に討伐部隊が出陣したことを確認した俺は襲撃予定ポイントへと戻る。

 俺が戦闘場所として選んだのは森に面した曲がりくねった街道。

 傾斜はなく、大きな岩を避けるために作られたこのカーブが実に分断に都合が良いのだ。

 夜襲をすることも考えたが、下手に光源確保のためにあっちこっちに火を付けられても堪らない。

 自然破壊は望むところではない。

 ただでさえ冬が近づき乾燥した空気が漂っている気がするのだ。

 森の広範囲が火災に巻き込まれるのは勘弁願いたい。

 そのような理由もあってか、色々思案した結果がこのポイントでの襲撃である。

 この高さは成人男性にも満たないが、横に長く大きな岩は視界と移動を確実に阻害する。

 自分の選んだポイントを眺め、満足気に頷くとリュックから投擲用の瓦礫や石を取り出し岩の上にばら撒いた。

 次に軽くなったリュックを隠せる場所を探し、水分補給を済ませて最後の干し肉を口に入れる。

 後は荷物を隠せば準備は完了だが、ここで俺は新装備を取り出した。

 それはベルトを繋いで作ったポーチ。

 戦闘時にリュックを背負ったままでは邪魔になる。

 しかしすぐにポーションが使えないのもなんだか怖い。

 そのジレンマを解決したのがこの布が詰められたポーション専用ポーチである。

 エプロンを作る際に閃いた新装備――お披露目の時はまさに今である。

 破壊される心配があるのは相変わらずだが、面積が減ったことで被弾の確率自体は減るはずだ。

 加えてポーチは盾を持つ左側にあるので守ることは容易い。

 後は待つだけである。

 そう思っていたのだが、俺は肝心なことを忘れていた。


「……しまった。人の足だとここまで来るのに結構時間がかかる」


 おまけに百を超える規模の集団移動である。

 下手をすれば半日はかかるかもしれないと己の迂闊さに頭を抱える。


(まあ、暇を持て余すだけなんだが……)


 なんだかんだで小さなミスをしてしまう。

 仕方なく俺はリュックを背負い周辺をブラブラすることにした。

 太陽が真上を通り過ぎるまで探索をしたところ、白骨死体が幾つか見つかった。

「やだ、ここ治安が悪い!」などとふざけていたら思いの外時間が過ぎるのは早かった。

 そして再び準備を済ませて待機する。

 森の木陰で木の葉を纏い、ボーっと街道を眺めていると何かが見えた。

 即座に望遠能力を使用するも、俺が捉えた動く何かは姿を消した。


(斥候か? それとも賊か?)


 近くに人がいる可能性があるなら擬態能力も使っておく。

 音や臭いにも集中力を割り振り、視覚に頼らず消えた何かを探す。

 しばらくそのまま意識を向けていたが、何も捉えることができず首を傾げる。

「まさか俺の存在がバレたのか?」と少し不安になってきたところで再び動く何かが見えた。


(あれは……馬か)


 馬車ではない。

 馬に乗った誰かが街道を走っている。

 しばらくそれを眺めていると引き返して見えなくなった。

 恐らく斥候だとは思うが、ただ走るだけで仕事になっているのだろうか?

 念のために魔力を感知してみるも反応なし。

 まだ討伐部隊が見えるまで時間はある。

 考えながら待つことにした俺は息を潜めてじっとしていた。

 それからどれだけ時間が経ったのか、とつい時計を探して今はない背後のリュックに手を伸ばす。

 空を切った手と同時に解除されていた擬態能力に気が付いた。

 そこまで時間が経過したとは思えないが、少々気を抜きすぎていたことには違いない。

 俺は一つ息を吐き、体に覆い被さる枝や葉を払い、再び擬態能力を使用する。

 それから少しして街道の先で再び何かが動いた。

 その姿を確認した瞬間、俺は「また馬か」と呟く。

 しかし先ほどと違い現れた馬からは覚えのある圧を感じる。

 そして姿を現した集団――先頭を行くは馬に乗った精霊剣の使い手。


(ああ、やっと来たか!)


 待ちわびたとはまさにこのこと。

 はやる気持ちを抑えただ待つ。

 討伐部隊は着実に俺との距離を縮めている。

 最早望遠能力を用いずとも確認できるほどに近づき、先頭はもうじき俺の前を通るだろう。

 だが油断はしない。

 彼らの表情に違和感はないか?

 視線をこちらに向ける者はいないか、と注意深く観察する。

 遂にその時が訪れた。

 精霊剣の使い手が乗る馬が俺の前を通り過ぎる。

 距離にして約十五メートル。

 一度の跳躍で襲い掛かれる距離にいる。

 しかし奴は俺に気づいていないのか、こちらに視線を送ることもなく通りすぎていく。

 隊列は進み、丁度真ん中辺りと思しき前後に守られる形となっている見た目でわかる魔術師の集団――馬車で運ばれている物資もあり、襲うならばここしかない。

 俺は擬態能力はそのままにゆっくりと立ち上がる。

 僅かに葉と葉が擦れる音がするが、この程度は雑音の中に消えていく。

 地面に落ちている石を拾い、それを街道の反対側へと高く放り投げる。

 同時に隠したサーベルと盾を掴み、そのままの状態で討伐部隊の意識が逸れるのを待つ。

 枝に当たった音で何人かがはっと顔を上げた。

 石が落ちる音でほとんどの者が得物を手に俺に背を向けた。

 直後、俺は地面を蹴り跳躍する。

 サーベルを構え、着地と同時に横薙ぎにすることで複数の魔術師を葬る。

 最初の一撃で厄介な連中を潰すことで戦況を確かなものにすべく飛び出し――その声を聞いた。


「バレバレじゃの」


 杖をつく老人は静かに笑った。

 俺の足は、まだ地面に着かない。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 序盤の  余談ではあるが、この周辺には既に野盗が潜伏しており、つい先ほど塩を頂いた小規模な隊商は彼らに襲われ壊滅している。  それをエメリエード側からやって来て、その隊商と遭遇していなかっ…
[一言] 人が生きるのに必須な塩を奪うとはまさに害獣
[一言] 魔法じじい生きてたの?!ビックリ 続き気になるぞぉ
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