162 とある英雄の決意2
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手を取り合い互いの目的のために協力することを確認する。
それから色々と聞きたいことがあったのだが、その前にシーザと名乗ったエルフの男は話をするつもりがないのか、早々に退出するようなことを言い出した。
「そちらの準備も未だ万端には遠いと見受けられます。我々はしばしここに留まるつもりなので宿を紹介してください」
あまり深くこちらにかかわるつもりはないような雰囲気だが、来てもらっておいて宿に泊まらせるわけにはいかない。
このまま領主館に滞在を願うと彼らは一度顔を見合わせた後、控えていた二人が頷くとシーザが了承してくれた。
早速使用人を呼んで彼らの案内を願うと、エルフが珍しいのかただ見ているだけですぐには動いてくれない。
「大切な客人だ。粗相のないように頼む」
領主の許可は事後承諾でよいとして、たった三人とは言えエルフが参戦することには違いはない。
この事実を上手く使えば動かせる人数が増えることは間違いない。
彼らの実力がどの程度のものかは知らないが、少数で戦いに来るからには腕に覚えがあるはずだ。
部屋から出ていく彼らを見送り、扉が閉まると同時にソファーへと身を投げた。
「エルフの参戦はないって話だったのにな」
立ったままのオーランドが扉を見ながら呟く。
「恨みというのは人もエルフも変わらないんだろうさ。未知のモンスターとの戦いで数十人が死んでいる。あのエルフがそれだけの犠牲を出す相手なんて、あのアルゴス以外考えられない」
「ああ、仇討か」
「まず間違いない。殺しすぎたのさ、アルゴスは」
僕の言葉にオーランドは納得したのか頷いた。
「彼らが来てくれて本当に助かった。これで領主に言い訳しなくて済む」
やれやれと腕を額に乗せて安堵の息を漏らす。
共和国を巻き込むことで承諾させたアルゴス討伐である。
その肝心なエルフが参加しないとなれば、諸々の準備が無駄になることだって十分に考えられた。
(一先ずは第一段階はクリアできたと見るべきだ。後は彼らがどの程度こちらに協力してくれるかだが……)
先ほどの態度を見る限り、戦闘以外の協力は難しそうに思える。
逆を言えば、戦闘ならば頼りにしてよいだろう。
魔術に長けた種族であれば、求めていた強力な魔術師枠を彼らだけで埋めてくれる可能性は十分ある。
「だが、数が足りないんじゃねぇか?」
オーランドのその言葉を沈黙で肯定する。
たった三人、されど三人と言えればよいが、そうでないのはエルフ自身が証明している。
突き付けられた懸念に何も言い返すことができず、無言で立ち上がると部屋を出た。
やることは山積みだ。
今は兎に角時間が惜しい。
翌日、共同戦線とは言え、ただ互いに好き勝手に戦うわけにはいかないとエルフの三人との打ち合わせを行う。
彼らは何処まで被害を許容できるのか?
その確認を含め、情報のすり合わせや役割の分担をどうするかなど決めなければならないこともあり、こうして顔を合わせている。
そして無難な話から始まり、こちらが画策している戦術への協力を願いながら切り出した。
「こちらとしてもあなた方の協力は非常に嬉しい。しかしながら、一つだけお聞かせ願いたい。何故、我々に力を貸してくれるのか? あのモンスターがどれほどの強さなのかはあなた方も知っているはずだ」
言葉巧みに彼らの感情を引き出し、そこに共感することでより良い関係となる。
それからならばこちらの多少無茶な頼みも引き受けてくれるだろうとの魂胆だ。
傭兵たちを前に演説するならば、印象の悪い自分よりもエルフの方がずっと良い。
あわよくば、アルゴスというモンスターの危険性をエルフが語ることにより危機感を高め、どうにか「この機会を逃せば、取り返しの付かないことになる」との認識を共有したい。
そこまでいけば、如何に発案者が傭兵を踏み台にしたドラゴンバスターと言えど、彼らは全力で戦ってくれるはずだ。
そんな期待を裏切るように、三人の代表となっているシーザは事も無げにこう言った。
「簡単な話です。あの新種……アルゴスを邪魔と思う者も里にはおります。フルレトス大森林を管理下に置くには、あのモンスターは排除しておく必要があると考えたからです」
「……そうですか」
予想とは違う答え――あのエルフが権力争いを目的とした他勢力への干渉を行うとは思ってもみなかった。
「あのアルゴスを利用しようとする者が多いことは正直信じられません。知能が高かろうが所詮はモンスター。何かあってからでは遅いのです」
僕は「わかります」とだけ口にし同意を示すが、心中は穏やかではなかった。
(まさかこんな理由での協力とは……嘘の可能性は否定できないが、本当ならばエルフの争いにかかわることになってしまう)
だが、優先すべきはアルゴスの討伐だ。
目の前に置かれたのが劇薬であったとしても、これを飲み干す以外に選択肢はない。
幸運なことに彼らはなんとしてでもアルゴスには消えてもらいたいらしく、かなり強力な武器を使用するつもりのようで、こちらに対しては足止めのみを要求した。
こちらにも聖剣があるので互いに切り札があることになる。
なので互いにその切り札を最大限生かす方向に協力するという形に収まった。
「悪くはない結果だ」と彼らに貸し出された部屋から出た僕は安堵の息を漏らした。
部屋の外で待機していたオーランドがそれを見て上手くいったのだろうと察してくれる。
無言で歩き出す僕の後ろに付いた。
領主館の廊下を歩いていると後ろからぼそりと「殺しすぎたのさ、アルゴスは」と半笑いで呟くのを僕は聞き逃さなかった。
「言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「何もありませんとも、指揮官殿」
聞き耳を立てていたこの野郎をどうしたものかと考え、肩の力が少し抜けるのを感じた。
だからというわけではない。
「……オーランド。その首輪、外していいぞ」
そう言って振り向きざまに鍵を投げた。
「いいのか?」
片手で鍵を受け止めたオーランドが確認するが、こいつを巻き込むためには首輪付きという状態は間違いなくマイナス要因だ。
「あなたのこと、やられっぱなしで逃げ出すような傭兵ではない、くらいの評価はしてますよ」
それだけ言うと歩き出す。
後ろで金属製の何かが床に落ちる音がした。
「そんなところに捨てるなよ」と言いたくなったが、こいつに育ちの良さを期待する方が間違っている。
「もう一回だけ確認しとくが……いいのか?」
「……信じられないのも無理はありませんが、僕としてもこうでもしないと色々問題が片付かないんですよ」
外した後で確認してくるのは信用されていない証拠。
だが、それでもこいつには役に立ってもらわなくては困る。
「ああ、傭兵相手に演説しなきゃならない。領主様の御威光が使えるのもここまで、だ。だから、あんたの協力がいる」
「正気か?」
言いたいことはわかるが、正気を疑ってくるとは思わなかった。
「言っとくが、傭兵連中でお前を恨んでいない奴の方が少ないぜ?」
「わかってるよ。だけど、そうする必要があって、説得する材料もある。後は成功率を少しだけでも上げる何かが一つでも欲しい」
そのために首輪を外させたのだが……オーランドはわかっていなかった。
早まったかもしれないな、と僕は立ち止まって天井を見上げる。
何も言わないこちらの態度が気に食わないのかオーランドが後ろから肩を掴んで揺らしてくる。
僕は一つ溜息を吐くと肩を掴む手を振りほどき、こいつを動かすために最も簡単な言葉を選ぶ。
「アルゴスを討つ。協力しろ」
(´・ω・`)今年はまだアブラゼミ見てない。




