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(´・ω・`)暑さにやられ気味
そんなわけで久しぶりにエイルクゥエルまで行ってお買い物。
道中に何かないかと探しながらでの移動となったので少し時間はかかったが、無事何も発見することなく到着。
その後は適当にショッピングモールや書店巡りに時間を費やし、古い新品のタオルや布と多めの本を持ち帰ることとなった。
冬の間、拠点から出ることができない可能性を考慮に入れると、どうしても本は欲しくなる。
たとえ半分がエロ本だったとしても、退屈を紛らわせるには十分だ。
他にも汚れが気になり始めた鉄板や金網といった調理器具などを新しいものに取り換えている。
予備のリュックなどがあればよかったのだが、こちらの方は今使っているものと同サイズのものは見つからなかった。
さて、十分な収穫を得てお昼過ぎに戻ってきたのは元拠点。
そこで俺は一人のエルフと対峙していた。
どうやら年齢不詳の見た目青年の彼が、ここを探っていた人物でよさそうだ。
姿を隠し、ゴソゴソと瓦礫をどうにかしようとしている彼を見つけたときは、思わず声が出そうになった。
珍しく思い描いた通りに事が進んでいる。
(ちょっと時間をおいて戻ってきたら誰が来てるか判明するかな、程度のものだったんだがな)
正直に言うと「こんなところで思い通りになってもなぁ」と少しがっくりとしていた。
しかし鉢合わせてしまったものは仕方がないので、姿を晒したところ……男は俺に気づかず瓦礫の山を相手に奮戦している。
それで肩を叩いてみたところ、振り返った彼は凄い勢いで後退り、俺と対峙する状況が出来上がったというわけである。
しばし無言で観察してみたが明らかに怖がっている。
足が恐怖でガクガクと震え、この場から逃げようとは思っているようだが体が言うことを聞かないようだ。
このままでは埒が明かないので俺は一歩踏み出す。
「く、来るな! こ、こここここ、この、この紋所が、目に入らにぃか!」
男は震える声でこちらを静止させようと取り出そうとしたものが手からすっぽ抜け、それが俺に向かって放り投げられたかのような軌道を描き、キラキラと光を反射する金属製の何かを華麗に二本の指でキャッチする。
摘まんだそれを見てみると犬っぽい動物が描かれた大きなメダルのような何か。
恐らく家紋のような何かが彫られているのだと思われるが、それがどこの氏族を表しているかなど俺には知る由もない。
しばし黙って男とメダルを見比べる。
「すみませんでしたー! 自分は末端も末端、正真正銘の下っ端です! 身内のメダリオンをこっそり無断で貸してもらっていただけです!」
俺が何か言葉を発する前に男は地面に額をぶつける勢いで土下座を開始。
あっけにとられた俺が僅かな時間放心していると、男は「なのでそれを返しては頂けないでしょうか?」と側頭部を地面につけ、両手をこちらに差し出しメダルの返却を願う。
「なんだこいつは?」と思いながらも、彼の目的をまずは聞き出すべく、空いた手で喉を抑えてエルフ語で話しかける。
「オ前ハ何者ダ?」
いつもよりほんの少しだけ流暢になるよう意識する。
カタコト過ぎると威圧感が増すかもしれないとの理由からの調整だ。
「うわ、ほんとに喋ってる」
しかし返ってきたのが真顔に戻ってのこの言葉。
ちょっと痛い目を見せた方が良いのかな、とスッと構えると即座に土下座へと移行。
コントをするつもりはないし、どうやら俺が何者かは知っているようなのでさっさと本題に入ってしまおう。
「ココデ何ヲシテイル? イヤ、ココデ何ヲシテイタ?」
お前がここに来て何かしてるのは知ってるぞ、と手にしたメダルを彼から遠ざけつつ尋ねる。
彼は黙して語らない。
どうやら何かを企んでいるか、それとも人には言えない事情があるのか?
そのどちらかだとは思うが、追及を止めてやる理由もない。
「話シテモラオウカ?」
一度遠ざけたメダルを彼の目の前で弄ぶ。
圧倒的なまでの己の不利を悟ったか、悔しそうに端正な顔を歪めるエルフ。
しばしの逡巡の後、男は意を決したかのように静かに話し始めた。
「……ここには、本を目的として訪れました。」
(本が目的、ね。つまり、帝国の知識――即ち科学に興味があると)
なるほど、確かにこれはエルフである彼が隠れてこっそり動く理由としては十分だ。
だが、彼が本当のことを言っているかどうかは不明だ。
その辺りをどうしたものかと、考えていたところで、彼は押し殺したかのような声で続きを語った。
「……衝撃を受けたんです。彼らが持ち帰った本の中に、あんなにも精巧な絵があったことに……あの女性の裸体が素晴らしすぎたのがいけないんです!」
か細かった声が一転して大きな声となった。
俺の予想は大きく外れ、彼が何を目的としていたかは理解できた。
(……エロ本欲しさにこんなところまで来て何やってんだこいつは?)
性に飢えた中学生か何かだろうか?
脱力する俺と、ヌードモデルの素晴らしさを力説するエルフとの温度差は酷いものであった。
「――だから僕は思ったんです。知っての通り、エルフは歳をとっても体が老いるまでには時間があります。そんな女性にこう囁くのです。『若い頃の自分の姿を正確に、そして奇麗な形で保存しませんか?』と」
いつの間にか始まった彼が熱く語る未来図はそれはそれは酷いものだった。
「年齢を重ねたエルフは精神こそ相応ですが、見た目だけは若い。つまり見る分には問題がないんです! 直接触れ合うことなく、鑑賞だけを楽しめるこの技術は革命です。春画も良い物ですが、あれには遠く及ばない。彼女たちは、もっと己の価値を正確に知るべきです! そして後世に残すべきであると僕は思うのですよ!」
「わかる」と思わず言いそうになってしまうが、ここは「そういうものなのか」と相槌を打つ。
実際、これまで見て来たエルフの裸体は素晴らしいと言わざるを得ない。
それを後世に残すべく写真とその技術が欲しい、との主張を声高に行う青年。
聞けばまだ年齢は二十となったばかりという。
ほぼ同年代とはなんとも運命めいた話である。
取り敢えずここはよくわかっていないフリをしつつ、彼にエールを送るべく荷物を探す仕草を見せる。
最初に数冊学術書を見せ、その後しばらく荷物を漁る姿を見せた後に、一冊の本を取り出した。
「それは……!」
メモにペンを走らせ、書いたものを下着姿の色っぽいお姉さんが表紙の本と一緒に手渡す。
「おお、これは!」
「まずメモを読めよ」
メモを無視してページを捲る青年に素のツッコミを入れてしまう。
だがヌードモデルに夢中の彼は気づかなかったらしく、メモを視線の先にある裸体を隠すように滑り込ませてる。
「女の裸体が描かれたものが必要なのだな?」と書かれたメモを見た青年が「その通りである」と大きく頷く。
それからしばらくエロ本に集中している彼に質問をし続けたところ、彼の名前が「クラーゼ・フォルシュナ」と判明した。
まさかの六号さんと同じ氏族に驚いたが、彼が見た本が何処から持ち帰られたものかを考えれば納得はいくものだった。
三大氏族といっても変な奴はいるものだな、と一つ溜息を漏らした。
「ほらほら、これなんか素晴らしいと思わないか? ルシェル様より大きいのにこの腰の細さ! ポーズも良いね、まさに芸術だよ!」
俺は「わかる」と心の中で返事をしつつ、よくわかっていないフリを続ける。
そんなやり取りは彼がエロ本を見終わるまで続き、本を閉じた青年は一息を入れると冷静さを取り戻したのか、それはそれは奇麗な所作で地面に手を付き額を擦り付け「メダリオンを返してはいただけないでしょうか?」と嘆願した。
全く以て変な奴と知り合ってしまったものである。
(´・ω・`)エルフの20歳は人間でいうところの中二病が発症する前後。エロ方面に花開いたダメなエルフ。




