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(´・ω・`)ただいま。ようやく落ち着いてきたので投稿再開。漫画の方もよろしく。
思わず出たのが帝国語でなかったらヤバかった。
咳払いをして誤魔化す俺を胡乱げな表情で見つめる男から目を逸らし、さも興味がなさそうにしながら読書に戻る。
黙ってじっと俺を見る男の視線が辛い。
「ソレデ、ドウスルノダ?」
沈黙と視線に耐えかねた俺が、本から目を離さずに喉を抑えて片言のエルフ語で尋ねる。
だが男は何も言わず、疑いの目をこちらに向けたままである。
しばしページを捲る音が夜の静寂に溶けていく。
光源が俺の指に灯された小さな火だけだったならば相手の表情を見ずに済んだのかもしれないが、男の隣に浮かぶ光球がしっかりとその疑惑に満ちた顔を映し出している。
これは流石に誤魔化すのは無理なのではないか?
そう諦めかけたその時、目の前の男は「まあ、いい」と大きな溜息を一つ吐く。
「貴様にどのような目的があるかは知らん。だが我らに害をなすのであれば覚悟しておくがいい」
それだけ言って立ち去る男の背を一瞥し、視線を本へと戻す。
どうやらギリギリ根競べに勝つことができたようだ。
ともあれ無用な疑惑を持たれてしまったのはよろしくない。
普通に話せることを知られたところで、そこまで大きな問題はないが、それを隠していた理由について問い質されるのは目に見えている。
ただ単に「練習中だった」と返してもよいが、それを信じてもらえるかどうかは別の話だ。
そしてその返答を行った場合、間違いなく六号さんの中で俺の価値が上がる。
メリットとデメリットを天秤にかけ、少ない脳みそで考えれば彼女とは一定の距離が必要なのは明白。
エルフ同士のいざこざに巻き込まれる危険性は、精霊武器と呼ばれる俺を殺し得る兵器を共和国が複数所持していることからも言うまでもない。
(何より、彼女は三大氏族とされる「フォルシュナ」で高い地位にいることには違いないが、氏族の長でもなければまとめ上げている立場の者でもない)
彼女の意思が何処まで通用するのかを考えれば、ルシェル・フォルシュナ一人の都合を優先するのは分の悪い賭けと言える。
「しかし……」
小さな呟きが漏れる。
カナン王国が俺を討伐するためにエルフの力を借りようとしていた。
これを押し留めるためには、共和国内で発言力のある人物を味方につけるのが最も良い。
彼女はそれに該当するか?
仮にそうでなかった場合、彼女は適切な人物との仲介を引き受けてくれるか?
(恐らくは大丈夫だが……問題は六号さんにそれだけの力があるかどうかが問題だ)
互いに互いを利用する関係と認識している現状、多少の無茶はしてくれるだろうが、それが原因で彼女が権力を失えば元も子もない。
しかし企み事があるちょっと危険なスタイル抜群の美女からただの巨乳エルフへとダウングレードした場合もこれはこれで、と邪念が浮かんでくる。
とは言え、今の俺の最優先の目的は生き残ることであり、そのためには彼女にはある程度の権限を持ってもらっている方が都合が良いのは確実だ。
この一件、彼女を頼るか否かが分岐点であるように思えてくる。
(結論を出すのはまだ早い。エルフがどう動くのかを見た後で決めよう)
夜が更ける。
指先に灯る小さな火が風に吹かれ消えてしまった。
どうやら俺の魔力がそろそろ限界のようだ。
魔法の使い方はかなり上手くなったと思うのだが、魔力の総量が少ないというのが如何ともし難い。
ふと「外付けの魔力とかないもんかね?」と思い浮かべたが、少し考えた後に実際ありそうなアイテムであると思い、明日にでも聞いてみることにした。
そんなわけで翌朝――魔力回復、読書、魔力枯渇の順に二度ほど繰り返したところで夜明けとなるが、読むものがなくなり、魔法の修練に切り替える。
基礎的な部分は仕上がってきたと思うので、そろそろ別の魔法も視野に入れたいところである。
きっと明かりの魔法など難易度が低そうなので狙い目だろう。
さて、姿を隠して俺を見張っていた誰かが消え、同時に屋敷の中で人が動く音を捉えた。
中々早起きな住人たちである。
庭にある木に背中を預け、日陰の中でいつもと同じように魔法の練習をしていると漂う匂いを俺の鼻が嗅ぎ分ける。
(お、これは……)
何度も味わった人間時代の思い出が蘇る。
「ミソスープだな、間違いない」
まさか帝国の専売特許と思われていた調味料がエルフの里でも作られていたとは思わなかった。
となれば醤油もあるのだろうか?
ソイソースがあれば大きく味の幅が広がる。
何とかして分けてもらえないだろうか、と真剣に思案していると、いつもよりも上着が一枚増えた六号さんがやってくる。
「確かに肌寒くなってきたな」とこの体でもわかる気温の変化に少しばかり雲の多い空を見上げる。
「おはようございます。昨晩からずっとこちらで?」
「中々ためになる本だったのでね」と紙に書き、それを見せると立ち上がる。
「朝食をどうするか」と聞かれたので問題がないようであれば是非、と頷く。
必要とあらば獲物の一つや二つ捕ってこようかと提案したが、昨晩の手土産で十分とのこと。
順調に食いしん坊モンスターの階段を駆け上がっている気もするが、懐かしの味のためにもここはその汚名を甘んじて受け入れよう。
ということで俺の前に配膳された朝食を見る。
(うん、ちっさい)
エルフはやっぱり少食なのか、品数は七品と朝食にしては多いがその量が少ない。
人間だった頃の俺でもペロリと平らげられる量である。
だがそれでも目当てのミソスープはちゃんとあり、比率的にショットグラス程度のサイズになってしまっているが、その香りは俺の知るそれと実によく似ている。
椀を手にそっと一口口を付けると、若干の違いがあるように思えるのは家庭の味か、それともダシが違うのか?
ともあれ、久しぶりの味に目を瞑り思い出に浸る。
「そうだ、こんな味だった」とつい頷いてしまう。
「随分と気に入った様子ですね」
そう言って少し笑って見せる彼女に「実は匂いが気になっていた」と嗅覚で事前に興味を覚えていたと誤魔化す。
その言葉を疑うことなく「なるほど」と俺の嗅覚ならばそういうこともあるのか、と六号さんは納得したような素振りを見せた。
折角なので「これを少し頂けないか?」と交渉してみたが、産地はここではないらしく、量も少ないので無理だった。
どうやら北側の氏族が味噌を作っているらしく、時折こちら側にも流れてくるのだそうだ。
「現地で交渉できないものか」と相談するも、流石にそれはどうしようもないと六号さんも困り顔。
ならば仕方ないとすっぱりとこの場は諦める。
下手に未練がましくすれば、彼女がこれ幸いと貸しを作りに動いてしまう。
拠点放棄という大きな貸しがまだ返されていない現状では、優先順位の低いことにそれを使いたくはない。
だが態々ここまで来て家庭菜園の知識程度の返済では、向こうも何かを強引に付け足してくるかもしれない。
なので先ほど考えていた新しい魔法がこの枠に収まるというわけだ。
朝食のために戻った六号さんを見送り、ゆっくりとこちらも食事を再開。
彼女ならきっとまた俺に会いに来るだろう。
その時にでも提案するとしよう。
(´・ω・`)そろそろ定期更新にしようかどうか考え中。あとバナーの方はもうちょっとかかりそう。




