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(´・ω・`)体調を崩して治ったと思ったらまた体調を崩した。これだから暑くなり始める季節は好きじゃない。
取り敢えずキーワードを口にすることから始まった新機能「アサルトモード」探しは難航した。
考えられることは一通り試したのだが、未だ見た目の変化が一切ない。
かれこれ一時間は経過しており、流石に「これは違ったアプローチが必要なのではないか?」と考え始める。
これまでの経緯から「意識すれば簡単にできる」か「非常に高い集中力を必要とする」のどちらかであると思われるのだが、如何せんアサルトモードによってどのような変化が起こるかがわからない。
ステルスモードを発見した時は、何気なく「隠密行動をどのようにするか」と思考を巡らせた際に、僅かな変化を感じ取り、試行錯誤の末に手に入れている。
かかった時間は短く、ある程度方向性さえわかっていれば然して苦労せずに見つけることができると踏んでいたのだが……見ての通り思惑は外れてしまった。
(試す方向性が違う? それとも何かが足りない?)
望遠能力の強化の際には相当な集中力を要したことはよく覚えている。
つまり最悪は監視任務で望遠能力の拡張を得た時と同じレベル集中力が必要となる可能性がある。
「できるか、そんなもの!」と俺は地面に拳を叩きつける。
目の前に吊り下げられたエサもなしに、あの時の集中力を発揮しろ、などと無茶ぶりにもほどがある。
それこそめちゃくちゃ強くて勝てそうにもないエロイ恰好の美人エルフが「私に勝てたらイイことしてあげる」とか言われない限り無理そうだ。
人間の場合は流石に相手にならないだろうから除外するが、兎に角それくらいご褒美がなければあの時の集中力の再現は難しい。
「……見た目に変化がないだけで、実は何かが強化されている?」
この可能性も否定できない。
試しにその辺の岩を殴ってみるが……違いがわからない。
次に反復横跳びを行うも、やっぱり変化があるようには思えない。
それから更に一時間ほど試し続けてみたのだが、体感できる変化は確認できなかった。
「前提が違うのか? それともやはり通常時がアサルトモードということなのか?」
残念なことに答えはでず、どうやらパワーアップイベントではなかったようだ。
一先ずこの件はこれで終了として、腹に何か入れるとしよう。
そんなわけで狩りに出かけて仕留めた獲物がこちら――山羊である。
人間時代に食べた記憶はあるが、こちらは野生のもの。
別物と考えておいた方が良いだろうと、血抜きを終えたところで解体を開始。
手際よく食事の準備を済ませ、適度な厚さに切った肉を鉄板で焼く。
味付けは塩のみとシンプルなものであったが、まあまあ満足の行く食事となった。
評価としては頻度が一番高い鹿肉より好みといったところである。
見つけたら積極的に狩っても良いくらいには気に入った。
「もうこんな時間か」
かなり遅い昼食だったこともあり、夕日が後片付けをする俺を照らしている。
冬季が近づいていることもあって陽が落ちるのが早くなってきている。
流石に今から夕食の準備をしようなどとは思わない。
夜が明けるまでは拠点の方で時間を過ごそう。
ということで翌朝。
結局、魔法の訓練と施設の探索に時間を費やしていたのだが、思わぬ発見があった。
それがこちら――保存状態が極めて良い家庭菜園について書かれた本と、開封されていない各種野菜の種、である。
この施設の職員が持ち込んだもので間違いないだろうが、こんな場所で働いている人物の趣味にしては随分とまともなものである。
ともあれ、これらを上手く使えば食事に彩りが生まれる。
問題があるとすれば、土地の確保と時期である。
家庭菜園と言えど他の生物に荒らされない土地が必要だ。
以前も農業について考えた時に問題となった部分がやはりここでも付きまとう。
「プランターでもあれば」と思ったが、俺は良いことを思いついた。
「そうだ、植物に詳しそうな知り合いがいるじゃないか」
あれから時間も経っているし、訪問する理由も今ここにある。
最近肌色成分を接種していなかったので、疎かにしていた監視任務の方にも勤しみたいところである。
思い立ったら行動は早かった。
リュックの中を整理し、必要なものだけを詰め込むと装備品を倉庫に置くと、最後に忘れ物がないかの確認を行う。
最後に戸締りをしっかりして準備万端。
いざ、エルフの住まう地へ!
と意気込んだものの、俺は川に沿って気配を消しながら進んで行く。
何があるかわからないからね、念には念を入れて身を隠しながら川の向こうまでチェックしながら下っていく。
目的地に着くまでにエルフを見かけたのは二回だけ。
最初は男女混合の一団で、どうやら川で何か調べ物をしている様子。
隠れて会話の内容を聞いていたのだが、どうも周辺の生態を調べていたようだ。
その理由は「悪夢」と呼ばれた被験者と俺という存在を確認したことで、森に何か異変が発生している可能性があるとのこと。
若干推測が交じるが、多分そんなことを言っていた。
次は単独の女性エルフ。
年齢は不明だが、見た目が若いので大した問題ではない。
どうやら休憩でもしているのか、岩の上に寝そべり靴を脱いだ足を水に浸けてリラックスしている。
気が緩みすぎているのか、足が大きく開かれていたので下着が見えないものかと角度調整をしていたのだが、しばらくすると十分な休息で満足したのか、小さな掛け声と共に跳ねるように逆立ちをするとゆっくりと足を岩の上に下ろす。
見惚れるほど奇麗な姿勢と白だった。
道中はこんな具合であったが、ここからが本番だ。
馴染み深い観察ポイントへと到着した俺は、早速周囲に気を配りながら時間を確認する。
そろそろ夕暮れ時である。
以前と変わっていないならば、六号さんとそのお仲間たちがここらにやってくる時間帯だ。
俺はステルスモードで待機しつつ、前方の音に意識を集中させる。
目的を忘れたわけではない。
ただ物事には優先順位というものがあるのだ。
来るべき時に備え、俺は身を隠してじっと川の向こうを眺めていた。
153の説明部分に少しだけ手を加えました。
本格的に手を加えるとすれば書籍版になると思われます。




