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(´・ω・`)まだちょっと頭痛が残ってる。治ったと思ったが油断はできんねぇ。
施設の入り口前――つまり受付がある広間で俺は座り込んでいた。
自分の体の臭いが気にならない程度まで取れたことで「一息付いた」といったところだ。
タオルを結構な枚数ダメにしてしまったが、ここで手に入れたものもあるので差し引きはないに等しい。
むしろ手を付けていない分がまだまだ残されていると思われるので、ここは良い倉庫にもなるだろう。
あの肉塊がいた施設を利用することに抵抗がないわけではないが、電力が使用できるここを放棄するのはあまりに惜しい。
同様の理由で、ここをエルフに教えるのも却下だ。
今は関係の改善を急ぐ必要もない。
何より、ここは冬場を凌ぐには良い条件の物件である。
現状の問題を一つ解決できたのだから手放すという選択肢はない。
一歩前進といったところだが、問題はまだまだ山積みだ。
その最たるものが「ネメシスコード」であり、現在知り得た範囲で重要な部分をまとめてみるとこんな感じになる。
・ネメシスコードとは、キメラ計画から始まる遺伝子改造技術によって生み出された兵器となった人間に搭載された自爆システム。
・最終的に人としての理性が崩壊し、姿そのままのモンスターとなる。
・それを回避するための手段として、同じ遺伝子改造計画にある兵器となった人間を食うことで得られる情報を辿る必要がある。
・但し、同じタイプの遺伝子改造兵は段階を進めることはできない。
ではなんのためにそのような機能があるのか?
憶測の域は出ないが、同型の被験者からのコード獲得を無効とする理由があるとすれば、それは恐らく「ネメシスコード」を知っている者が情報を提供する、もしくは漏洩や協力を警戒してのことではないだろうか?
未だ情報不足で不確定ではあるが、ネメシスコードを搭載するに至った経緯がラークの語った通りであるならば、その人物像からあり得なくはない話である。
問題があるとすれば、コードの管理が個体別ではなくタイプ別であったこと。
これのお陰で俺は三回目がなかったことになってしまった。
姿形は全く違えど、あの肉塊とエンペラーと呼称された彼は同型の遺伝子強化兵。
たとえ変異していようが同じコードとして扱われるため、既にオーグルと呼ばれるタイプのコードを手に入れている以上、あの肉塊を食ったところで変化はない。
状況等一切考慮に入れず不正扱いはどうかと思うのだが……もしかしたら遺伝子強化兵計画自体、数を用意できる代物ではなかったということだろうか?
だとしたらよく成功側に入れたものだと己の幸運になんとも言えない気持ちになる。
「……状況が悪くなったわけではない。新たな情報が手に入っただけだ」
膝をポンと叩き立ち上がる。
温泉探しも良いのだが、まずはここを拠点化だ。
あの肉塊が残っているとは思えないが、それでも念を入れておくことに越したことはない。
そんなわけで作業を始める。
時間にして凡そ二時間――黙々とあっちこっちに行ったり来たりしながら手を動かし続けた。
まだ使えそうなものをかき集め、完成した寝床や雑に作られた物置部屋を見て満足気に頷く。
天井や生活区域、寝床の周囲には物音が鳴りやすいようにガラクタを配置しており、肉塊が残っていた場合の警報器として期待している。
魔法で咄嗟に火を出せるので凝った装置が必要ないとの判断である。
取り敢えず区切りの良いところまで拠点化が進んだので本日の作業はここまでとする。
昨日から色々あって流石に精神的にそろそろ限界が近い。
(知り得た情報が多すぎる。整理するにも休息は必要だ。いっそ今日はもう寝てしまおうか)
そう思ってからは早かった。
仮眠室などから引っ張ってきたマットレスの山に体を預け、俺は「あー」とだらしない声を上げて目を瞑る。
するとあっけないほどに簡単に俺は意識を手放した。
目を覚まして最初に見たのは散らかった寝床とその周囲。
「いや、どんだけ寝相悪かったんだよ」
手の届く範囲にないマットレスを見ればわかる通り、どうやら転がった際にここまで移動した挙句、その周囲を散らかしてしまったようだ。
それにしても限度があるようにも思えるが、それだけのストレスがあったということなのだろうか?
「気づかないうちに感情抑制機能がはたらいていたか」と溜息を一つ吐く。
自分の精神状態を正確に把握しにくいというのも考えものである。
ともあれ、まずは片づけだ。
折角作った寝床である。
作成して早々に散らかってしまうのは気分が良くない。
片付けをしながらふと時計を見ると昼はとっくに過ぎていた。
「十時間くらい寝ていたのか」
こうして時間がわかると長く寝ていたと実感が湧く。
もっとも、二日分で十時間と考えればそうでもない気もするが、この肉体スペックを考慮すれば十分すぎる睡眠時間と思える。
そんなこんなで片づけを終えた俺は、荷物を置いたまま外に出る。
時計の示す時間通りに伸びる影と太陽を見て頷くと、陽の光を浴びながら体を伸ばす。
準備は整った。
さて……随分と時間がかかったようにも思えるが、いよいよ試す時が来た。
俺という遺伝子強化兵――タイプ「ゴライアス」はステルスモードとアサルトモードを使い分けることで、単騎での敵拠点の攻略を可能とした帝国の技術の結晶である。
ステルスモードは言わずもがな。
ではアサルトモードとは何か?
そう、それを今、ここで試すのだ。
「……いざ! アサルトモード――起動!」
俺はビシっとポーズを取って宣言。
しかしなにもおこらなかった。
しばらく待っても何も変化がないことで、俺は黙ってポーズを解除する。
「うん、知ってた」
さて、何処から試していこうかな?
(´・ω・`)前話が少々わかりづらいようだったので若干の修正を検討中。でも大きな変化はないと思うので、上手いことこっちと合わせて読んでみて。




