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(´・ω・`)お待たせ
何事もなく施設に戻ってきた俺はそのまま冷凍睡眠装置のある部屋を探す。
どうせなら向こうで位置をしっかり把握して置けばよかったと後悔しつつ「確かこの辺だったような」と三つ目の違う部屋へと入っていく。
「ここでもないか……」
電気が付かない部屋は目的の部屋ではないので、軽く見渡すだけで終わらせ次へと向かう。
幸いと言うべきか、この辺りは被験者が移動することも視野に入れているらしく、俺の巨体でも問題なく歩くことができる。
通路が広くて天井が高いのは良いことだ、とやって来たのは両開きの如何にもな扉。
(うん、間違いなくここだ)
扉を押し開き、中に入った瞬間にそう直観した。
暗い部屋の中にある八つの大きなカプセル型の冷凍睡眠装置。
俺が入っていたのと細部が微妙に異なる気もするが、その数はつい先ほど見た点灯するランプと同じであり、稼働中である一つが薄っすらと光を放っていることからも、ここが目的地であることは明らかである。
ともあれ、俺は壁にある部屋の照明のスイッチを入れ、稼働中のものへと近づきながらその間にあるカプセルの中を覗き込む。
中にいたのは辛うじて「人型」と呼べる干乾びた何か。
目と鼻の位置が不明であり、首と頭部の境目が全くわからない。
「どこのホラーゲームだ」と言いたくなる。
リアルすぎて全く笑えない。
次のカプセルなど見なくてもわかる。
中を見るための円形のガラス部分にあるひっかき傷にしか見えない無数の線。
(目覚めたは良いが中から開けることができなかった系は想像するとぞわっとするな)
ホラー要素てんこ盛りで最早この一室だけでお腹いっぱいになる。
そして辿り着いた先にあるものを見下ろす。
そのガラスの先に見える光景を一言で表すと「蠢くピンク色」である。
変異して膨張を続けた肉塊がカプセルの中にぎっちりと詰まっているのだ。
このパッケージ詐欺などあるはずもない大容量には奥様もにっこり。
俺様はげっそり。
お子様もギャン泣きして逃げ出すであろう酷いビジュアルに「うへぇ」と泣き言を漏らす。
「これ、開けたら中身がデロンと飛び出すタイプかね?」
しかもこれが「生きている」ときたもんだ。
脈動している、というよりは行き場を失った肉塊がうにょうにょしている感じだ。
鮮度が抜群にも程がある。
ディナータイムを開始すると悲鳴が上がるとかあったら泣くぞ。
取り敢えず、今はこの見た目最悪な蠢く肉塊にかぶりつかなくてはならない勇気が必要だ。
覚悟を決めようと深呼吸をしたその時――俺はあることを思い出した。
(そうだ。一度目と二度目は「噛みつき」という攻撃の結果だった)
つまり、食べることを意識せず、ただ噛み千切るだけで良いのだ。
後は勝手に体が取り込んでくれるはずだ。
そう考えると幾分気が楽になった。
なのでカプセルを開けようと周囲の機器を操作――しようとしてパネルが人間用のものであることに気が付いた。
注意深く人差し指で一つ一つ操作するが、高さもあってか難儀する。
おまけに認証に引っかかった。
どうやら俺が持っているカードではカプセルを開けることはできないようだ。
「またホラゲー要素を出してくる」とキーアイテムの探索を強要してくる施設に文句を言う。
そんなわけでブツクサ言いながら周囲を探してみる。
壊して解決するという選択肢もあるのだが、それで中の被験者が死んでしまえば元も子もない。
これで今抱えている最大の問題が解決するならば、多少の遠回りくらい許容できる。
そう思っていたのも過去のお話。
意外なほどにあっさり別のIDカードが手に入ったので、そちらのコードを入力したところ、ある事実が判明した。
どうやらこのカプセルを開ける――つまり遺伝子強化兵の強制開放には最上位権限を持つコードが必要となるらしい。
成功例のように適当に設定されているであろう時間経過で開くようなことはなく、ここにいる彼らが「失敗作」としてここに安置されていたことがなんとなくわかってしまう。
そんなわけで現在は「開けて死ぬ前に噛みつく」に大きく傾いている自分がいる。
そもそも最上位の権限を持った人間など真っ先に逃げ出しているイメージがある。
もしくは頭に問題を抱えた天才科学者であった場合、その結末は得てして「食われる」か「殺される」だ。
正義の潜入捜査官とかいた場合も多分アウト。
物語の話とは言え、あの手の連中のしぶとさは人間を止めているとしか思えない。
それはさておき、決断できずにいる俺はカプセルの周りをウロウロと落ち着きのない様子で歩き回る。
チラチラと視界に入る他の装置の中身が俺から食欲を容赦なく奪い去っていく。
(これを逃せばもうチャンスはないかもしれない。でも今を逃せば、この中身が息絶えてしまう可能性もある)
どちらにもリスクはある。
「……即死することはないはずだ」
失敗とは言え仮にも遺伝子強化兵。
その生命力を信じた俺はカプセルの破壊に踏み切った。
当然、力業で殴って壊すとかではなく、慎重に蓋の部分をこじ開けるという意味だ。
かなり頑丈にできていると想定していたので苦労するかと思ったが、思いの外あっさりとカプセルは変形し、蓋を取り外すことができた。
そしてその直後、膨れ上がったかのように見えた肉塊が俺に襲い掛かってきた。
咄嗟に手にしたカプセルの蓋で殴りつけ、ピンクの蠢く塊から距離を取る。
解放されたことで蠢く肉塊がカプセルから流れ出るように溢れてくる。
見た目が最悪すぎる上に漂う悪臭に俺のやる気がゴリゴリ削がれていく。
「フレッシュな腐肉とか勘弁しろよ」
俺がげんなりと肩を落とし、元気いっぱいに蠢く肉塊の膨張を見守っていると、不意に視線を感じた気がした。
それは本当に何気なくだった。
正面に見えるそれから目を逸らすためだったか?
それとも現実の方だったか?
理由ははっきりしないが、俺は肉塊から視線を外し天井を仰ぎ見た。
そう、俺は天井を見たはずだった。
だがそこにあったは薄く広がった肉塊と、そのピンク色の絨毯の中にある人間サイズの眼球が一つ。
目が合った、と同時に粘液が擦れ合うようなぬちゃりという音が部屋に響く。
視線を下ろすとそこには肉塊を刳り貫いたかのような大きな穴。
(いや、これは穴ではなく――)
「これは口だ」と直感的に判断するや即座にその場から飛び退いた。
同時に覆い被さるようにピンク色の肉塊が天井から降って来る。
俺は咄嗟に魔法で作った火の玉を投げつけると、それを避けるように肉の波が割れた。
やはり生物的に火を嫌がるのかとテンプレに忠実な肉塊に背を向け入り口へと走る。
あれにどのような能力があるかわからない以上、口に入れた後の状態は危険と判断せざるを得ない。
「これは、想定外だ」
ここでもホラーゲーム的な展開が用意されているとか誰が予想できるだろうか?
パニックホラー系の映画にだってできそうな見た目と設定に、俺は小さく悪態をつくと何かないかと通路を見渡す。
一先ずこの入り口を塞いでしまおうとの目論見なのだが……碌なものが見つからない。
「場所が悪かったか」と己の選択が間違いだったと悔やんだところで大きな音がした。
何かが破壊された音――具体的に言えば、冷凍睡眠装置のカプセルが壊されたような音。
どうしてそんな具体的なものが出てくるのかは、俺が扉を少し開けてその隙間から中を覗いたのが理由である。
俺の視線の先には宙吊りにされたカプセルの中身――いや、天井にへばりつく肉塊の穴の中へと呑みこまれる被験者のなれの果ての姿があった。
そして次々とカプセルが破壊され、そこで眠っていたかつて人だった者たちを口へと運ぶ蠢く肉塊。
「……え、これどーすんのよ?」
祖国よ、国を爆破した次はこれなのか?
(´・ω・`)猫の抜け毛を収集中。毎年やってるけど、結局何もせず捨てるのよね




