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(´・ω・`)暑くなってきたのでアイスを食べたらお腹を壊した。なんか毎年この時期にこれやってる気がする。

 再びラークのターンとなったことで特に知る必要もない貴族界隈のアレコレを聞く羽目になったが、俺が一番欲しい情報である研究施設関連のものは「以前暇潰しで地図上に色々書き込んだものがある」との一言で終わってしまう。

 それが何処にあるかも教えてもらったので突然目の前で息絶えても安心だ。


「あ、そうだ。重要なことを言い忘れていた」


 いつ終わるとも知れないラークのお喋りに、そう言って差し込み中断させる。

 一瞬眉をひそめたものの「重要なこと」と聞かされれば黙って続きを待ってくれる。


「実はな、色々調べてみたんだが……どうやら当時の帝国は戦争には負けたが、残存兵力を集めて南へと侵攻したらしく、レーベレンとハイレを滅亡させ、その土地でフロン評議国と名を変えて国家として存続していることがわかった」


 それを聞いたラークの目が大きく見開かれる。

 相当驚いているらしく、口が半開きのままじっとこちらを見ていたので、頷いて本当であることを伝える。


「そうか、滅亡したと思っていたが……」


 しばし顔を伏せて考え込むように呟いたり頷いたりしていたが、俺を見上げると笑みを浮かべる。


「良いことだ。それはとても良い話だ。ありがとう」


 若干涙目になりながらも、うんうんと頷くラークにもう一つお話を投下する。


「ちなみに、うちの姉と瓜二つの軍人さんを発見している。話をしてみたが、性格からして完全にうちの女です」


 それを聞いたラークが一瞬呆けるような顔をしてみせ、その後に「ほんとに?」と笑いながら疑いの目を向けてくる。


「びっくりするくらいそっくりだった。おまけに声まで似てるから思わず『姉さん』とか呼びそうになった。あ、スタイルもかなり近いけど、軍人だけあって少し筋肉質かもしれない」


「それはそれで見てみたいね」と本気で悩ましいらしく、腕を組んでまた唸る。

 そのまましばらくの間、考え込むように目を瞑り口を閉ざす。

 何か思うところがあるのか、先ほどまであんなに口を動かしていた彼が黙っている。


「そう言えば、ここは電気が使えるんだよな? データディスクを再生できるようなものはないか?」


 尋ねてはみたものの返事がない。

 腕を組み、俯いたまま動かなくなったラークに手を伸ばすと同時にあることに気が付いた。

 血の匂い――閉じられた唇から一筋の赤い線が引かれ、顎から雫となって零れ落ちる。


「おい、無理はするな!」


 思わず語気を強めてしまったが、ラークは近づく俺を手で制して口の中の血を吐き出すと大きく深呼吸を行う。


「いや、今日は妙に体調が良かったので油断した。ああ、安心したまえ。吐血自体はよくあることさ」


「……何処が悪いんだ? 手持ちにポーションがある。使うか?」


 そう言ってリュックから青と緑の瓶を取り出そうとするが、ラークは首を横に振って答える。


「残念だが、量産の薬でどうこうなるようなものじゃない。遺伝子改造という手段を取った上で、専用の薬を用意してようやく完治の可能性が生まれるほどだ。時間稼ぎができるかも怪しい」


 血に塗れた手を振りながら「もう慣れたよ」と強がりながら白衣で拭う。


「さっきも言ったが、言葉通り『明日をも知れない命』なんだ。正直、よく今まで持ったなと感心しているくらいだ。それもこれも君と出会い、帝国の行く末を知るためのものだったのかと思うと、神に感謝をしたくなる」


 まるでこの時のためだけに生き永らえて来たかのような言い方に、俺は複雑な気分になり何と声をかけるべきかわからなくなってしまう。


「そんな顔をしないでくれ……と言いたいところだが、表情変わらんなぁ、君は」

 

 茶化すように笑うラークはきっとこんな空気は好まないのだろう。

 ならば、と俺は口を開く。


「そうは言うがな、初めはこうして喋ることもできなかったんだぞ? それこそ口を開けば『がおがお』しか出てこない。お陰で人間と接触した時は苦労した」


 無理をさせないようにと、今度は俺が話し続ける。

 地下で目覚め、地上に上がるのに苦労したこと。

 森でサバイバルを開始して徐々に体に馴染み始めたこと。

 人間と遭遇して裸の巨乳美女を助けたこと。

 同じ被験者と遭遇して戦い、そして殺したこと。

 これまでの経緯を順を追って話していくと、遂に話はエルフへと移る。


「――で、それはもう見た目からして完璧でな。俺は彼女を六号さんと命名し、最優先観察対象として見続けたわけだ」


 そして遂に出てくるダメおっぱい。

 あのダメさ加減は口で説明しても伝わらないだろうが、それでも理解できたことがあるらしく、息の切れ目にこんなことを挟んできた。


「何と言うか……君はその姿を随分と楽しんでいるようだね?」


 確かに否定はできない。

 だがそれもこれも、数々の苦難を乗り越えた結果であって、ただ能天気に生きているわけでは決してないことはご理解いただきたい。


「調子が少しは戻ったみたいだな? で、早速で悪いんだが、さっきの質問だ。データディスクを再生できるものが残ってないか?」


 俺の質問に考え込むような素振りを見せ、出てきた言葉は期待に応えてはくれなかった。


「ない、な。そもそも、通常の手段では二百年という時を耐えられない。あるとすれば……」


「魔法的手段、か」


 頷くラークを見て疑惑が確信に変わる。


「やっぱり貴族は知っているのか」


「当然だよ。敵を知るためには必要だし、なければ困ることも多々ある。しかしデータディスクか……」


 中身が無事とわかっているからこその質問か、と何やらこちらの事情を勝手に察してくれた模様。

「家族との会話は大体こんな感じだったな」と少し懐かしく思う。


「この近くにテーマパークがあっただろう? そこで魔力的な処置で保存された戦闘データの入ったディスクを発見したんだ。その中身を知りたいんだ」


「戦闘データ……ああ、精霊武器とかいうトンデモ兵器のか」


「いや、中身は遠距離からの狙撃で戦車が貫かれているものだ」


 どうやら精霊剣のデータもどこかにあるらしく、ラークはそちらと勘違いした――そう思っていたところに新情報が突き刺さる。


「うん? 精霊弓のことだろう?」


「……え?」


「ん?」


 顔を見合わせる人と怪物。


「待って。精霊弓って何だ?」


「だから精霊武器、だよ」


 剣以外にもあるのかよ、と頭を抱えた俺に、容赦なく追撃が入る。


「剣の他に、槍と弓があるね」


 俺が精霊剣しか知らなかったことを察し、青白い顔で笑いながら情報を追加してくるラーク。

 しかもこれ全部エルフが持っているらしく、まだ続きがあるのか再び彼が喋り始めた。


「私が知っている限りだけど、帝国が確認した精霊武器は全部で五つ。剣が三本に槍と弓が一つずつ。剣は大きいのが一本あったはずだけど、片手剣か両手剣かくらいの違いだから……そこまで細かく分ける必要はないだろうね」


 知っている分を合わせて四つだと思ったら五つもあった。


(最強生物とか己惚れてたけど、俺を殺せるものがこんなにあるのかよ)


 しかも確認できているだけでこれである。

 これからは調子に乗らないように注意した方が良さそうだな、との結論を出したところで更に爆弾が投下された。


「エルフにはさ『三大氏族』と呼ばれるものがあるんだけど、その三つの氏族がそれぞれ剣、槍、弓を所持しており、その使い手を輩出している。その氏族の名前は、帝国では一番有名なものは精霊剣のコーナーだけど、他はほとんど表には出てきていないから知ってる人は存外少ない」


 何処かで聞いたフレーズの三大氏族――そう、あれは誰から聞いた話だったか?

 

「剣のコーナー、槍のアステリオ、そして弓の……」


「フォルシュナ」


「そう、フォルシュナだ」


 ラークは「よく知ってるね」と遮られたことで少しばかり不満気な顔を見せる。


「確認しておきたいのだが、その精霊弓ってのは……」


「あのビームというかレーザー兵器みたいなやつのこと? 正しく反則だよ、あれは」


 わかっているだけでも戦車すら平然と打ち抜く貫通力を有し、その射程は最低でも一キロメートル以上。

 おまけに使い手が姿を隠すことに秀でており、終ぞ帝国はその所有者を見つけることが叶わなかったとかいう酷い説明を聞くことになった。


(そんな化物が六号さんと同じフォルシュナにいる……)


 二百年も前のことなので既に鬼籍に入っている可能性もあるが、あの爺さんみたいに年老いてはいるが存命していることだってエルフならあり得る。

 どうやらかなり危険な綱渡りをしていたことに今更気づいた俺は己の幸運に感謝しつつ、六号さんを怒らせすぎないよう配慮しつつセクハラを続けることを誓った。

 そんな俺の様子を見て何かを察したのかラークが声を出して笑い――血を吐いた。


「おい!」


 咳き込む度に吐き出される血液。

 その量が先ほどのものとは比べ物にならない。

 ラークを両手で抱え、彼の指差す方へと進み一つのドアを潜る。

 そこにあったベッドへとラークを寝かせ「できることはないか?」と尋ねるも、彼はただ黙って首を振る。

 容体が急激に悪化した。

 いや、これまで支えていた壁が決壊したのだ。

 俺が来たことで、俺が教えたことで、彼の生き続ける理由が壊れてしまった。

 歯を食いしばって耐える日々に終わりを迎える理由を作ってしまった。


「気に、するな。言ったろ『明日をも知れない命』だ、と」


「そんなのを、有言実行にするなよ」


 力なく笑うラークは最期の力を振り絞るように口を開く。

 まだ喋り足りないというのだから、真正のお喋り貴族である。


「この病気はな、魔力に、適合できなかった、者に……症状、なんだ。徐々に、感覚を失って……今じゃ……も、なくて、ああ……目が霞んで……」


 もう喋るな、という声が出ない。

 ただ黙って彼の手を自分の指の上に置く。

 咳き込み、血を吐きながらもラークは喋り続けるが、次第に声は小さく、か細くなっていく。

 そして口が僅かに動くばかりで声が聞こえなくなった。

 でも彼はまだ生きている。

 だから俺が代わりに喋ることにした。

「喋ることができないなら、返事の代わりに指を握ってくれ」と前置きし、先ほどの続きを話し始める。

 他の被験者を知らずに食ってしまったこと。

 カナン王国で戦闘を行ったことや、傭兵団をからかって遊んだこと。

 それらを話す度に、俺の指をラークの手が弱弱しく触れる。

 そして話が三人目の被験者である彼――イノスへと移った時、俺はほんの少しだけ視線をラークから逸らしてしまった。

 話は続く、されど俺の指には彼の手が載せられたまま動くことはなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後に「義兄さん!」くらい言ってやれよ
[一言] メルエムの最期が頭に浮かんだ(ノд`)
[一言] おやすみラーク(´;ω;`) なーんてね、普通に寝ただけでしたぁ!って続いたら笑うけど(。>﹏<。)
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