145
(´・ω・`)二巻予約が始まってるよ、とこっちでも宣伝を入れておく。
その日をほぼ丸々探索に費やした結果、手に入れたのは以下の物。
・壊れた警報器
・小さな宝石が入った高級懐中時計
・雑貨
はっきり言ってしまえば碌な物が見つからなかった。
何かしら有用な情報でもあれば違ったのだが、電力が使用可能なポイントも発見できず、そもそも荒らされていない無事な場所を見つけることすらできなかった。
ちなみに雑貨というのはペンやメモ帳のような消耗品がメインである。
(やっぱり時間が経ちすぎてるのが大きいな。せめて二百年じゃなくて百年くらいだったなら、まだ色々残っていた可能性はあっただろうに……)
泣き言を言っても始まらないのでトボトボとオークの死体が散乱する道を戻る。
最後に電気が使用可能な部屋を封鎖がちゃんと機能しているかを確認して出立だ。
結局、テーマパークを出る頃にはすっかり夜が明けており、朝食と火を使える場所の確保をしなくてはならなくなっていた。
遅くなった原因が時計の時間合わせを忘れていた挙句、場所がわからずしばらく迷っていたことなのだから何とも締まらない。
現在の時刻は八時三十分――壊さないよう懐中時計の蓋を閉め、リュックの中へと仕舞いこむ。
森の中を南西に進みながら朝食をどうするか考えていると、視界の中に気になるものが映った。
「……ん、何これ?」
思わず口に出た自然に侵食された人工物。
植物に埋もれたそれを興味本位で調査したところ、これが乗り捨てられたであろう車であることがわかった。
軍用車かどうかまでは原型をほぼ留めていないので不明だが、残されたフレームが確かに車のそれである。
つまり、ここは元道路か何かであったと思われる。
地面に手を付いて周囲を調べることしばし……俺は目的の物を発見した。
砕けたアスファルトとその破片。
そして自然に埋もれた建造物の残骸が、ここに人が住んでいたことを示していた。
(位置と幅的に高速道路か? やはり西側の地理に疎いと現在地の把握には繋がらないな)
取り敢えず適当な建造物に爪で×印を付け、ここを発見済みのポイントであるとわかるようにしておく。
わかりにくいポイントにはこうして見やすい場所に目印をつけておけば、何かの役には立つかもしれない。
何の役に立つかはわからないが、こうしてフラグをそれっぽく立てておけば何かに繋がる可能性だってあるはずだ。
そんなこんなで西へ西へと移動をしていたところ、不意に木々の隙間から見える緑の配分が変化した。
山に近づいたことで徐々に傾斜を実感できるようになり、直に生態系も変化していくだろう。
木々の隙間からは未だ見上げることさえできないが、最大で三千メートルを超える標高の山岳地帯である。
頂上まで行く必要はないが、道中から見下ろす景色を堪能するのも悪くはない。
主に地形の把握を含む情報面での意味だ。
誰が好き好んで毎日毎日視界から消えない大自然の緑色を場所を変えても見たがるか。
まだ日は高いので急ぐ必要はないが、時間に余裕はあった方が良い。
なのでいつもより速度を出して自然豊富な山道を駆け上がっていると、ようやく斜面と呼べる傾斜を確認。
徐々に岩肌も見えてきたので山らしくなってきた。
そんなわけで山の麓を抜けて登山の真っ最中。
振り返れば森が見えるもまだまだ見渡すには高度が足りない。
「何か山らしい生物でもいないか?」と気配を探りながら登るものの、生憎と俺の鼻や耳にもそれらしいものは感じ取れない。
サイズが小さすぎてわからないか、もしくはいないか……俺の感知能力では見つけることができないだけという可能性もあるが、そのような野生動物はそうはいない。
いるとすれば大体モンスターだ。
ちなみに動物とモンスターの区別の仕方は国によって異なっており、例えば帝国であるならば「科学的に考えられない構造、能力や特徴を持つ生物」を「モンスター」として規定している。
おかげで他国との扱いが異なる生物が多かったらしく、この辺りにも衝突の原因があったのではなかろうかと考察する。
「モンスターとも共生は可能だ」とするお隣さんと「モンスター? よし、殺せ」と有無を言わさぬ隣国に挟まれれば不和の原因にもなるだろう。
そんなこんなで特に見所もなく、山を登っていると傾斜が少々厳しくなってきた。
「まあ、山道を通っているわけではないからこんなものだろう」と後ろを振り返る。
空と大地を埋め尽くす緑を感動もなくただ見下ろす。
人工物かそれの跡地はないものか、とその景色をじっくりと見渡す。
最初に見つけたのはつい先ほどまでいたテーマパークの外壁とそこから見える建造物。
「この高さでも見えるものだな」
そう呟くが高度が足りていないので見えている部分は本当に極僅か。
もう少し上に登ってみようかと思ったが、この巨体では足場が崩れる危険がある。
まずはこの高さから周囲を見渡し、そのついでに登るためのルートも探すことにしよう。
ゆっくりと慎重に移動しながらも、眼下の森を眺めて「何かないか」と目を凝らす。
しばしその繰り返しできつくなり始めた山の斜面を歩いていると、明らかに場にそぐわない物を発見する。
しかも森にではなく山にだ。
(……目印? 随分と新しいな)
それは地面に突き立てられた木の棒。
ただの棒であれば無視しても良かったのだが……生憎とその上に何かの生物の頭蓋骨が引っ掛けられており、風に煽られた骨がカタカタと音を立てる。
「推定蛮族がこの山にいる」と溜息を一つ吐く。
ゴブリンやオークにこのような風習があるとは聞いたことがない。
となると別の生物、モンスターとなるわけだが……残念ながら俺の記憶にはこのような趣味の悪いことをする存在はない。
近づいてみると思いの外大きな棒で、そこにある頭蓋骨もまた相応の大きさである。
鳥が獲物を枝に刺して保存する、という話は聞いた覚えはあるものの、流石にこれは鳥類がどうにかできるサイズではない。
頭蓋骨の大きさから推測するに、この頭部の持ち主は恐らく二メートルは超える体躯の生物である。
「……縄張りを示すにしては、ちと物騒だ」
そして人間がやるには原始的にも程がある。
まさか自然にできた代物ではないだろうが、確認は必要だろうとその粗末なオブジェクトに顔を近づける。
すると距離はあるが何かの鳴き声が聞こえてきた。
続けて何かがこちらに向かって来ている音も察知した。
どうやらこれの製作者がお出ましのようだ、とそちらを見るも地形の関係で姿は全く見えない。
少しその場で待っていると、俺が見上げる形でそいつは姿を現した。
全身毛むくじゃらの人型に限りなく近い生物――そう、猿だ。
ただデカい。
ひたすらにデカい。
まだ距離がある上に全身が見れないので正確なサイズはわからないが、俺よりデカくないか、と思わずにはいられない規格外の大きさの猿である。
「キィエェヤァァァァァァ!」
こちらに牙を見せて吠える猿。
だから何だと鼻で笑う俺。
そんな俺の反応が気に食わないのか、口を閉じた猿が高所から飛び降りた。
その時、俺はあり得ない物を目撃した。
着地した大猿の手にしたそれを俺はよく知っている。
俺がそれに見とれていると、大猿は手にした武器を振りかぶる。
速度もなく、技術もない――そんな一撃ですら、俺は飛び退くことが遅れたことで腕を傷つけられる。
薄っすらと流れ出る血を親指で拭い、大猿の持つ大きなサーベルに視線を戻す。
「似ている」では済まされないその形状と俺を傷つけることができる材質。
「ヘイ、モンキー。ちょっとそいつを何処で手に入れたか聞かせてもらおうか?」
俺が持つ同じ遺伝子強化兵用に作られた特殊合金製サーベル――それを何故見たこともないような大猿がその手に持つのか?
返答に言葉はなく、ただ再び剣が振り下ろされた。
(´・ω・`)寝違えて首が痛い。




