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(´・ω・`)最近虫が出てくるようになったね。
情報というものは非常に重要だ。
正確であればあるほど、物事の推測は確かなものとなり、精度が落ちれば誤った情報を基に選択をする羽目になる。
それがどのような結果を齎すのかは言うまでもなく、人はいつしか「情報」に大金を惜しむことはなくなった。
人の得た経験をなぞるように、俺は何度も雑音の多い音声データを繰り返し聞いた。
何か見落としはないかと雑音の混じった音声を聞き続けた。
その結果、一つ疑惑が浮かび上がってきた。
「……これ、単騎じゃないだろうな?」
エルフの武器と言えば真っ先に「弓」を思い浮かべる。
実際、彼らは森というフィールドを弓を持って縦横無尽に駆け回ることを知っており、魔弓と呼ばれる精霊剣に似た圧力を感じさせる兵器を彼らが所有していることも判明している。
その上でこう考えた。
「複数人で弓を撃っているにしては間隔が長すぎる」
このことから残された戦闘記録が「エルフ単騎によるものではないか?」という疑惑が浮かんできたのだ。
(そう言えば、少数で姿を消して後方を荒らしてくるおかげで砲兵が機能しなくなり下がらせた、って話をどこかで聞いた覚えがある)
圧倒的な物量差すら覆したエルフの戦闘力を甘く見ていたつもりはない。
だが単騎で部隊を強襲し、大きな被害を齎すというのは想定外だ。
今はまだ疑惑だが、それでも共和国に対する脅威度を引き上げるには十分な憶測である。
「……できるなら映像で確認しておきたかったが、ないものねだりをしていても仕方がない」
俺は大きく息を吐き出し、このデータを部屋に設置された棚の中へと仕舞いこんだ。
そしてこの電気が使用可能な一室の入り口を厳重に瓦礫で蓋をする。
こうしておけば中を荒らされる心配はないだろう。
映像を再生できる可能性がまだ残っている以上、持ち歩いて壊してしまうよりかは隠しておいた方が恐らくマシだ。
外に出ると日は既に傾いており、昨日の食事回数を鑑みるとそろそろ夕飯のために狩りをしておきたいところである。
空腹を感じない体故に、忘れてしまいそうになるが、どんな姿であれど生物なので食わなければ死んでしまう。
幾ら帝国の技術でも「飲まず食わずでも大丈夫」はあり得ない。
色々考察したいことは山積みだが、獲物を求めて森を駆ける。
こちら側は少々木々の密度が高いので難儀したが、無事野鳥を三羽確保できた。
鳥がいるということは、どうやらこの辺りには飛杭魚は生息していないようだ。
相変わらず生息区域がよくわからん生物である。
そんなわけで夕飯の準備という名の羽根むしりタイム。
俺が晩飯を食べられるようになる頃にはすっかり日が暮れていた。
だが、苦労に見合った味であったことは間違いなく、量が少ないことを除けば十分満足の行く食事となった。
ベッドはないが壁に囲まれた場所で一夜を過ごし、目覚めてみると日はすっかり昇っている。
予想以上に熟睡していたのは自分でも意外に思ったが、このところの活動を振り返ると納得できなくもない。
疲労を感じにくい体だが、やはり疲れは知らないうちに溜まっていくのだろう。
「やはり体には気を遣わないとな」と超スペックの肉体を過信しすぎてもいけないことを改めて確認する。
もはや体以外資本がなくなったこの元経済動物。
最後に残ったものは大事にしなくてはならない。
元から何があったのかは不明だが、多分教育の賜物と呼べるものくらいはあっただろう。
さて、朝起きたとなればまずやるべきことは朝食だ。
狩りに勤しみ食事を摂る。
その後はもう一日このテーマパークを探索して、当初の目的であった温泉探しへと旅立とう。
ここも拠点候補地にできなくはないのだが、大量にあるゴブリンやオークの死骸を片付ける気には到底ならない。
そこら中に広がる目を覆いたくなる惨劇の跡が視界に入れば、主に悪臭が原因で吐き気すら催す。
これを一人で片付けろ、とか罰ゲームか何かだろうか?
そのような理由で今すぐここを拠点とする気にはならないのだが、やはり電力使用可能な場所があるという利点をきっぱり諦めることができず、こうして今日も探索を続けている。
自然の浸食が思ったよりも進んでいないことで動きやすく、視界も良好であるため探索そのものは順調と言える。
しかしながらここを占拠していたゴブリンやオークの数が数だけに無事である箇所が少なく、人間用の建造物は基本的に俺には小さすぎる。
「この巨体は物探しには向かんなぁ」と溢しながらも瓦礫を除けたりしながら、あるかもしれない何かを探す。
そんな中、崩れ去った店内で目を引く物を見つけた。
「何と言うか、随分と豪勢な展示物だな」
周囲の状況から明らかに浮いている状態の良さから、厳重であったことが窺える強化ガラスに入っている展示物。
中身は見た目豪華な懐中時計と珍しいものでもない。
「……部品の一つ一つからこだわり抜かれ、職人の手で作られた千年動く時計、ね」
ガラスの内側に書かれた説明文を要約するとそのような内容である。
有名な時計メーカーの限定生産品とあってお値段が六桁後半という凄まじい金額だが、これで三割引きとあるのだから上流階級の買い物は桁が違う。
では早速「千年使える」という謳い文句が本当かどうか確かめさせてもらおう。
迷うことなく物理で解決しにかかったのだが、予想以上にガラスが硬い。
「なるほど、ゴブリンやオークでは無理だ」と納得しつつ、ベキベキと破壊し懐中時計を手に取った。
実は見本品だった、というオチもなく、プレミアムな逸品を手にした俺は蓋を開け、上部に付いたオシャレなネジを回してみる。
すると動き出した秒針を見て思わず「おっ」と声を漏らす。
「本当に動くとはなぁ……」
帝国の職人芸恐るべし。
丁度まだ動いている時計があったので、後程探索ついでに時間を合わせに行こう。
どれだけ誤差があるかはわからないが、最早正確な時間を知る意味のない身なので問題はない。
他にも何かないものかと店舗が連なるエリアを探して回り、手に入れたのがこちら。
小さなボタンの付いた人間の拳より一回り小さい警報器――当然壊れているのだが、全く音が鳴らないわけではなく、ヒュポンヒュポンと気の抜ける音が身の危険を周囲に知らせてくれる。
ちなみに音はそこそこ大きいので多少離れていても俺なら聞こえる。
「防犯グッズとして使えるのではないか?」とリュックに仕舞いこみ、ここではそれ以上の収穫はなかった。
それから探索範囲を南へと変え、ついにオークと接触――そして蹂躙。
こいつらとの交渉や駆け引きなどやるだけ無駄だ。
どちらが強いかをきっちりと理解させ、二度とここには近づかないよう徹底的に粉砕する。
「今日からここは俺の縄張り。お前らはとっととここから出ていけ」と言わんばかりの暴虐に、オーク君たちはなす術もなく逃げ出した。
こうやって追い立てられた彼らは南へと向かい、評議国のお世話になるのだろう。
オークの肉は加工されて魚の養殖に使われていたと記憶している。
その肉が無駄にならないよう、存分に狩り殺されてほしい。
余談だが、ゴブリンやオークは食肉として適しておらず、基本的に加工されて何かの餌にされるのが帝国では一般的だったのだが、コストの関係で採算が取れず、その害獣としての質の悪さから駆逐されている。
もっとも、いなくなったらいなくなったで創作の中で活躍の場が出てくるのだから、この種族は脆い割に存外しぶとい。
探索中に本屋跡を発見したが、ここには彼らが出てくるような本はなかった。
レジャー施設という健全な場所では、流石に居場所はないようだ。
(´・ω・`)最近相手をしてあげれなかったから猫の機嫌がよろしくない。




