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(´・ω・`)筋肉痛の一日お休み。ようやくリアルが落ち着き始めた。GW前にはペースが戻りそう。
結論から言えば収穫と呼べるものはこの書類の中には見当たらなかった。
確かに「キメラ計画被験者の運用について」と書かれた項目が目に入った瞬間は期待した。
しかし中身を読んでみれば出てくるのは要約すれば「見た目が悪くて無理」という内容を遠回しに言っているだけで、肝心の被験者に関する情報は何もなかった。
当然のことながらそれに関与した施設の情報などあるわけもなく、ただここから近いと思われる軍事基地とのやり取りらしき書類が幾らか残されており、そこにキメラ計画が僅かながら出てきただけと推測される。
(要するに成果なし。前線が押され、外壁のあるここを防衛拠点として利用しようとした形跡があることから、ここで一度キメラ計画の産物を実戦投入しようとしたが、見た目が悪すぎて反対された。そういうことなんだろうが……見事に情報がない)
これまで遭遇した二人の被験者の姿を脳裏に浮かべれば納得はできる。
あんなものが戦場で暴れることを想像すれば、誰だって同じような結論を出すだろう。
「だからこそ遺伝子強化兵計画が生まれたのか?」と考えてみるが、この技術がどのように軍事へと転化されたのかを知っている身としては、ふと思いついたこの憶測は否定せざるを得ない。
少なくともあの科学者はこの二つに加え「究極生物計画」の三つがあることを暴露している。
恐らくはこのような書類が残っていることから、この時期にキメラ計画に見切りをつけ、遺伝子強化兵計画へと段階を進めたものと推測される。
「……ならば戦況を知っていればいつ頃までキメラ計画の被験者が生まれ続けていたのかがわかる。そしてそれ以降、遺伝子強化兵が誕生していたとすれば、俺が実験体となった時期から見えてくるものがある」
問題は西側の戦況がどのように推移したかがさっぱり思い出せないことだ。
こんなことならもっと情勢に興味を持つべきだった、と遊び惚けていた学生時代が悔やまれる。
ともあれ、書類に書かれていた日付から、俺が被験者となった時期とここでキメラ計画が頓挫した時間には約一年と十ヵ月の時間差があることが判明した。
後は俺が遺伝子強化兵となって冷凍睡眠装置に入れられるまでの時間がわかれば良かったのだが……そんなもの知る術などあるはずもなく、この数値があまり意味のあるものでないことに気づかされた。
(期間がわかればどれくらいの被験者がいるか想像できるかと思ったんだが……)
俺が二人食らって一人殺害。
そしてもう一人の遺伝子強化兵である通称エンペラーが二人食っている。
「俺を含めて六人か」
現状俺が確定と言えるのはここまでである。
それに加え、少なくとも究極生物計画に一人いると思われる。
だが、その前に帝国が倒れている可能性もある上、施設が崩壊していることも考えなくてはならず、残念ながら「確実にいる」とは言えない。
また施設崩壊の可能性に関しては他の被験者にも言えることであり、万を超えるオークを率いた彼が三人目を見つけることができなかったことからも、生存者を探し出すことは極めて困難であることは間違いない。
北がゴブリンで南はオークという勢力図から察するに、恐らく南側で被験者を探し出すことは絶望的と言って良いだろう。
増えすぎたゴブリンがオークの動きを妨害し、結果として俺に可能性が残されるとか何が起こるかわからないものである。
なるべく考えないようにしてきたが、まさかゴブリンが役に立つ日が来るとは思わなかった。
でも駆除は続ける。
お前らはもう用済みだ。
さて、決して楽観できる状況ではないことを改めて確認した俺は、書類を手放して再生が可能なデータディスク探しを始める。
どのような内容であれ、やはりこの中身は気になる。
残された書類の内容から被験者が実際に投入されることはなかったと判断したが、それでもエルフの戦闘力をノーリスクでこの目にできるのは有用である。
記憶違いだったなら良かったのだが、俺がテレビで見た映像の中には戦車の装甲をぶち抜き、中にいた搭乗員が殺されていたとするものがあった。
この被害が精霊剣のものではないことは言うまでもなく、これが以前耳にした「魔弓」の力であれば、あの時向けられていた矢は間違いなく俺に突き刺さると見て良い。
そんなものを複数――いや、どれだけ所持しているかわからない森のハンターとの戦闘など自殺行為である。
「森林の悪夢」と呼ばれたかなり強力な魔法耐性を持つ被験者には効果がなかったと見受けられるが、その劣化版でどれ程耐えられるかなど実践したくもない。
(幸い魔弓の使用には議会の承認が必要なくらいには貴重品――もしくは危険物。俺が明確な敵対行動を起こさない限りはこの前のような状況にはならないはずだ)
何よりエルフの武闘派と思われる連中は六号さんのいる氏族が抑えてくれている。
真っ先に思い浮かぶあの大きなお胸に感謝の念を送りつつ、俺の安全をより確かなものにするための情報を集めるのだ。
そうして日が昇るまで探し続けた結果、思いがけない収穫があった。
それは電気が使用可能なポイントの発見である。
安定しているかどうかは不明だが、何気なく使用を試みたコンセントが通電しており、探索中に拾った携帯型の小さな掃除機が僅かに反応を示した。
こちらが先に見つかるとは思わなかったが、順番など大した問題ではない。
これで使用可能な再生機器があれば、その中身を知ることができるようになった。
それから朝食も摂らずに探索を続けること数時間。
太陽が真上に近づいた辺りでようやく進展があった。
中央管理センターの探索可能範囲を全て探し終え、その周囲の施設へと足を運んでから三つ目のそこでそれを発見した。
「んー『アルフォート製最新型携帯プレーヤー』であってるか?」
残された文字から推測される表記を口に出す。
保存状態は理想的であり、機器そのものに僅かではあるが魔力反応がある気がする。
それほどまでに微細なものであるが故に、本気にならなければわからない。
箱を開けると写真通りの状態の黒い携帯プレーヤー。
中の説明書も無事であったことから、俺が遺伝子強化を受けた後に発売された最新型のようだ。
そのままペラペラとページをめくり、そのスペックを確認していく。
多機能型で定価が五桁後半に届くだけあってかなり高品質な商品である。
基本的に音楽を聴くためのものだが、録音機能やラジオ放送の受信などもあり、多機能型と言われるだけの無駄な機能が色々と備わっている。
それでも各種性能を見れば「人間だった頃に欲しかったな」と思えるくらいには高性能であり、がっくりと肩を落としたところで思いついた。
「……音声だけでも再生しとくか?」
電池はなくとも専用プラグを差せばコンセントから直接電力を確保できる。
そのための周辺機器もしっかりと揃っており、高性能ならば幅広いデータに対応しているはずである。
試してみる価値はありそうだ、と呟いた俺は中央センターにある電気が使用可能な部屋へと戻った。
電源を入れ、再生ボタンを押した直後、ノイズが走った後に小さく人の声が聞こえた時、上半身だけをねじ込んだ狭い部屋の中で小さくガッツポーズを取る。
その後、徐々に鮮明になる声と大きくなるノイズに耳を傾けているとはっきりと銃声が聞こえた。
そして乱れた音声の中、はっきりと聞こえる帝国兵の叫び声。
「スナイパーだ! こち……視認……ない! ……がやられ……増援……のむ! ちくしょ……戦車が!」
「だった……防壁に……クソが、ふざけ……! 退避、爆発に――」
響く爆音と上がる悲鳴。
そのまま立て続けに起こる爆発音と途切れ途切れの叫び声がしばらく流れ、唐突にブツリと音を立てて再生が中断された。
この音声情報から導き出される結論は一つ。
「え、待って……長距離射撃で戦車抜いてくんの?」




