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(´・ω・`)エイプリルフールで愛飲していた炭酸飲料が変わるという嘘を真に受けてしまったことがある。それは兎も角、4/1ですのでブックウォーカー様から先行配信が開始されておりますと活動報告でも宣伝中。
「……まあ、そういうこともあるわな」
巨大テーマパークの地下街――老朽化した床を踏み抜き、地下二階へと到達した俺はぶち抜いた天井から頭を引っ込めて呟いた。
肩や頭の残骸を払い周囲を見渡す。
真っ暗でも大体何があるか判別できるのだからこのスペックは反則だ。
(ふと思ったんだが、一応俺は兵器扱い。ならそのコンセプトは何だろう? ステルス系の能力にこの視力を考慮すると潜入系? この図体で?)
実は何も考えていませんでした、というオチが割と現実的なのだから困った祖国である。
もしかしたら「あるものを詰め込みました」的な解答が正解の恐れもあるが……その場合、俺より後に生み出されたであろう遺伝子強化兵の強さがちょっと想像できない――と言うよりしたくない。
取り敢えず上の階に戻りたいのだが、空いた穴へと手をかけるとボロボロと上の階の床が崩れてしまう。
「飛び上がるのは悪手だよなぁ」
正直、再び床を踏み抜く未来しか見えない。
仕方がないのでのっしのっしと姿勢を低くして前へと進む。
元は飲食店が並んでいたここも、今や無人で薄暗い埃の溜まったゴブリンの住処。
何処へ行ってもゴブリン臭いので先ほどの案内板の記憶が頼りと何とも不安な先行きである。
もっとも、その情報のお陰で真っ直ぐにエスカレーターまで辿り着けたのだから文句は言うまい。
では一階に戻るか、というところで下からギャイギャイと声が聞こえてきた。
恐らく俺を発見したことで警戒を呼び掛けているのだろうが、それで見つかってしまうのだから連中の知能などお察しである。
進行方向を上から下へと変更し、次の統率個体の排除に向かう。
合計で二十匹ほどのゴブリンが立ち塞がったが、足止めは疎か時間稼ぎにもならないので割愛。
到着したのは地下三階の元噴水広場。
水などとっくの昔に出なくなっており、そこにあれこれ持ち込んでベッドを作らせた女王がふんぞり返っている。
地下にいるだけあって十分な換気が行われておらず、悪臭も酷いものになっている。
ギャイギャイ煩い巨大な肉の塊に、適当に剥ぎ取った外壁を投げつけミッションコンプリート。
そして俺の前に立ち塞がっていたゴブリン達が一斉に同じ方向に逃げ出した。
「……まだいんのかよ」
ここの規模を考えればまだまだいてもおかしくはないが、その割には通常ゴブリンの数は少なく思える。
つまりそれだけオークとの縄張り争いが激しかったということだろう。
ふと視界に入った天井が釣り下がっている時計を見ると、丁度午後七時になったところであり「これが残業というやつか」と呟いた俺は逃げたゴブリンの跡を追う。
「いや、ちょっと待て!」
思わず振り返って噴水広場の時計をじっと見る。
カチカチと小さな音を立て回る秒針――これが意味するところは一つしかない。
「発電施設がまだ生きてるのか」
驚くべき箇所はそこだけではない。
二百年という歳月を経ても未だ動き続ける時計。
実際の時間とどれ程の差異があるかはわからないが、これはこれで快挙と言える。
「流石は祖国」と心の中で褒め称え、動く秒針を見ながら満足気に頷く。
同時にふとした疑問が浮かぶ。
(二百年……経過したにしてはあまりに奇麗だな?)
ゴブリンが掃除をしたとも思えない。
首を傾げて時計を見つめる。
それは本当に何気ない行為だった。
意識を切り替え、魔力を見る。
そして確かに見えた魔力の残滓――つまり、この時計には何らかの魔法的措置が施されていることになる。
「……はい?」
頭の中で出た結論に聞き返すような声が反射的に飛び出した。
「いや、偶々来た別の国の人が魔法をかけた可能性もあるし、突然変異的な生まれの帝国人がやった可能性だってある。結論を出すのは早すぎる」
そもそも「何故時計なのか?」と言う疑問もある。
明かりはないが近くに寄って入念に時計を調べてみると、見た目には何もないようしか見えない。
だが、魔力を感じ取ろうとすると微かに時計の中に何かがあるように思えるのだ。
中を開けてみようかとも思ったが、この手でやろうとするならば破壊してしまうのは目に見えている。
(しかし冷静に考えてみるとメンテナンスなしで二百年も故障しないってのはおかしな話だよな)
それを言ってしまえば俺が二百年間眠っていたこともおかしな話となってくる。
だが、その不自然さを奇麗にまとめて片付ける魔法の言葉がある。
「……帝国は、魔法を何らかの形で用いていた?」
まさに魔法の言葉である。
しかしこの安直な考えに待ったがかかる。
(むしろ「魔法」をそのまま使っていると結論付けるよりも、科学的に魔力を解明、もしくは何らかの形で再現することに成功。一部の重要な施設等に用いられている、と考える方が自然か……)
このように考えてみると存外受け入れやすい内容となった。
使用箇所が限られるのもコスト等の問題と考えれば説明もつくし、実験段階であったとしてもそれはそれで納得がいく。
普及率や認知度の異常な低さを鑑みれば両者とも考えられるが……それは今重要なことではない。
「何とかしてその技術を手に入れることはできないか?」と時計を睨め付けながら手を顎にやり静かに唸る。
ここを新たな拠点とすることは半ば諦めかけていたが、状況次第では労力を払ってでもやる価値が出てきた。
頭の中で組み立てられる計画――それを実行するためにまず必要なことと言えば?
「結局は他生物の排除、なんだよなぁ」
俺は大人しく駆除を再開するために歩き出す。
少々時間を食ったおかげで逃げたゴブリンの跡を追うのに苦労はしたが、無事四匹目の統率個体を始末し、今度こそ緑のアレが四方八方に逃げることを確認。
適度に追撃して数を減らし、この周辺に連中が近づかなくなるくらいには恐怖心を植え付ける。
一応同種族同士ならば意思伝達は可能なはずなので、他の群と合流するなりすれば何かしらの効果は得られるはずだ。
一先ず目的を達成したので一度地上へと戻る。
外は真っ暗だが、地下に比べれば月明かりがあるのでまだマシだ。
(そんなことより目当てのものは……)
周囲をじっくりと見渡すが明かりのようなものは何処にもない。
電力があるならばあるいは、と期待していたのだが、やはりそう思い通りにはいかないようだ。
闇に紛れて南のオークを狩りに行くのも悪くはないが、まずはこのテーマパークの秘密を解き明かすべく、中央管理センターを探すとしよう。
上手くいけば電力のある施設を手に入れることができる。
それに加えて各種電化製品の利用も夢ではないとくれば、当初の目的そっちのけで寄り道する価値もあると言うものである。
「で、結局案内板にまた頼りたいのだが……」
老朽化に自然の侵食……見つけたとして「果たしてそれは読み取れるものなのか?」という疑問が浮かんでくる。
それでも探す外ないのだから世の中とは上手くいかないものである。
見上げた夜空に浮かぶ月は今も昔も変わらないのに、どうして世界はこんなにも記憶と違うのか?
(´・ω・`)もうそろそろリアルが落ち着くので更新頻度が戻りそう。




