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(´・ω・`)なんとなくやってみたかった同時更新。
翌朝――と言っても夜が明けるまでもう少し時間がある。
連日眠ることができたまでは良いのだが、多分4時間ほどしか眠れていない。
それで目が覚めるということはこの体に必要な睡眠時間は然程多くはないのかもしれない。
朝食を摂るにはまだ早いので、水だけ飲んで本日の目的地「ルークディル」へと向かう。
まあ、既に昨晩残った魚を全部食べてしまったので、道中何か狩るしかないのだから体が大きいというのも考えものである。
(刃物もあるから解体の練習もしなきゃならんのよなー)
「生きるって大変なことなんだな」と他人事のように頷く。
いっそ獣のように生でバリバリいけたなら栄養問題はほぼ解決するのだが、とてもではないができる気がしない。
その辺りにまだ、自分が人間であった名残に見えて手放すことはできないのだろう。
などと格好良く言ってみたが、普通に文明人として生きてきた俺には到底そんな覚悟がないから無理なだけである。
さて、まだまだ空は暗いが歩みは止まらない。
大体北北西に向かって前進していると見て、ルークディルの町の跡までは距離と速度を考えれば昼までには着くだろう。
背負ったリュックとクーラーボックスも移動をあまり阻害せず良い感じである。
ただ、たまに丸めて棒状になったブルーシートが木に接触するので、運び方を変えるかサイズを調整した方が良いかもしれない。
途中草だらけになった線路跡を見つけたのでそちらを移動。
進行方向的にルークディルに駅があるはずなので、樹木の少ない線路跡では速度が上がる。
結局予定していたよりも早い昼前に町を視認できるまで近づくことができた。
(城壁跡がある――ここがルークディルと見て間違いないな)
町に入る前に荷物を木の上に退避させ、目印の代わりにスレッジハンマーを吊るして準備完了。
水を少し飲んでから臭いと音を意識しながらゆっくりと崩れた城壁を越える。
すると案の定というか臭ってきたのはあの臭い。
(そりゃいるわなー)
「がっはー」と息を吐いて、擬態能力を使用し隠密状態で移動する。
ゴブリンはこの状態の俺を見つけることができるかどうかという実験なのだが……肝心のゴブリンが見当たらない。
首を傾げつつも中央へと進んでいくと僅かな音を俺の耳が捉えた。
間違いなく声――それも人間の声だ。
残念ながら男のものだが、どうやら誰か一人が大きな声を出している。
声が聞こえた方向へと進路を取ると、進行方向からゴブリンが走ってくる。
(怪我が多い……逃げ出して来た? となると戦闘中か)
逃げるゴブリンがいるということは統率個体はなし。
ゴブリンだけの群か、はたまた別の種族が支配しているかは不明だが、これはカナン王国の戦いが見れる絶好のチャンスである。
俺は大きな音を立てないように気を付けつつ急いで戦場となっているであろう場所へと向かう。
逃げたゴブリンは俺が投げた石で土手っ腹に穴開けてたからもうじき死ぬかな?
さて、いよいよ人間とゴブリンの声がはっきり聞こえてくる距離まで近づいて参りました。
まだ崩壊しそうにない頑丈そうな建築物の上に陣取り様子を窺う。
(おおう、バッチリだ)
まさにベストポジション――広間のような開けた場所では50名ほどの武装した人間と、それを取り囲むようにわらわらとゴブリンが群れていた。
数は恐らく300未満だが、全体の3割ほどが金属製の武器を持っている。
この規模の群ならば恐らく毒も使っているので、しっかりと武装した50人でも無茶はできない、といったところだろう。
その証拠に人間の死体は一つもなく、転がっているのは全てゴブリンのものである。
この人数で慎重に動かれてはゴブリン程度ではどうしようもないだろう。
巨大な剣を持つ大柄の男が声を上げるとそれに合わせて部隊が動き、広場に転がるゴブリンの屍が増えた。
多数の人間が一つの意思によって動く統率の取れた集団が相手では、数に勝るだけのゴブリンでは勝負にならない。
(なるほど、あの男が指揮官か……さっきの声もこいつのだな)
「これはもう勝負あったな」と観戦気分であったが、この戦いは最早消化試合のようなものである。
というわけで解説は私、名もなきモンスター。
武装から正規兵っぽくないので、恐らく傭兵50名対粗末な装備のゴブリン300匹の戦いをお送りします。
当然と言いますか、包囲されているという状況ははっきり言ってかなり分が悪い。
しかし「そんなこと知ったことか」と方円の陣で全方位に対応している傭兵陣営。
これには武装、練度、強さ、全てにおいて劣るゴブリンは成すすべなし。
「突っ込んだ奴から死んでいく」を繰り返しジワジワ数を減らしていっている。
おっとここでゴブリン選手、石を取り出し投げる気だ。
それを見ていた他の選手も我も我もと石を拾いに後ろに下がる。
あー、どさくさに紛れて逃げているゴブリンがいますねー。
投げつけた石は盾で塞がれ効果なし、地面に転がった木の矢を見る限り、既に打ち尽くして打つ手なしという状況のようですが、これは逃走もやむ無しと言ったところでしょうか?
はい、では戦場に戻りまして……どうやら一部が逃げ出したことでゴブリン側の前線が崩壊を始めたようです。
ああ、人間側の号令で崩れた場所へと攻撃が開始されました。
これは酷い、ゴブリン選手成すすべもなく斬り殺された。
あちらこちらで起こる残虐ファイトにゴブリン軍団は総崩れ。
逃げ遅れたものは剣の錆になり、逃げた者の背中にクロスボウの矢が追い打ちをかける。
掃討戦へと移行したことが確認されましたので、これにて終了。
人間側の圧勝である。
まあ、統率個体なし、他種族なしのゴブリンオンリーではこの程度だろう。
さて、人間側の武装を見る限り、十中八九彼らは傭兵。
軍隊や騎士であるならば、武装が統一されているはずだが、彼らの装備品はバラバラだ。
ただ一点、彼らの共通事項して右腕に赤い布を巻いている。
どうやら俺の知っているカナンの傭兵団の伝統はまだ残っているらしい。
そして「シンボル」を許されているということは、彼らは間違いなく腕利きの傭兵団だ。
「カゼッタ! ―――。――探せ!」
辛うじて聞き取れるカナン王国語から拾えた単語。
どうやら彼らの目的はここに巣食うゴブリンの殲滅にあるようだ。
名を呼ばれたであろう見た目まんま魔術師風の男が前に出ると、目を瞑り静かに詠唱を開始する。
警戒して体を伏せ、向こう側からはこちらの姿が見えない位置まで少し下がると瓦礫の隙間から覗き見る。
時間にして30秒足らず、その間にも傭兵達の追撃は止まず、放たれた魔法は広範囲に広がった。
その中に俺も含まれていたのは少々迂闊だったと言わざるを得ない。
何故ならば――魔法を使った男がこちらに杖を向けて大声を上げたからだ。
(あー、ソナーとかサーマルみたいに探知する系の魔法かね?)
いや、もう本当に魔法はよくわからん。
どうやら傭兵は一部にゴブリンの殲滅を継続させ、残りを俺の討伐に向けるようだ。
姿は隠しているので見えてはいないはずなのだが、ちょこっと移動すると杖の先を移動させたことから、マーキングみたいなものをされたか魔法の効果が継続中かのどちらかだろう。
今日は傭兵の装備の確認ができたのでこれ以上の収穫は必要はない。
全力で撤退すれば人間の足の速さでは追いつくことは不可能なので、撤退しても良いのだがもう少し相手の出方を窺う。
一応ここで傭兵達を撃退し、町を漁るという選択肢もないわけではないが、ここに既に人間がいるということはここはもう取れる物はないと見た方が良いだろう。
つまりこの案は却下。
傭兵の装備を見る限り万一はないと見ているが、戦闘を行った結果がどう転ぶかわからない。
ゴブリンと戦う姿も拝見させてもらったが、正直脅威を感じることはなかった。
負ける要素は見つからないが、魔法だけは不確かなので踏ん切りがつかない。
陣形を整えた傭兵達を前にうんうん唸っていると、再び命令を受けた魔術師が詠唱を開始する。
詠唱は短く、杖の先から放たれた炎が俺のいる場所を周辺ごと広範囲に薙ぎ払う。
明らかに攻撃ではなく、炙り出しが目的の炎――それに隠れるように立ち上がり、拳で払うと同時に擬態を解いて姿を見せる。
炎を払い、そこから現れた俺の姿に傭兵達から驚愕の声が漏れる。
一喝して仲間のざわめきを鎮めた隊長が、手にしたグレートソードを俺に突きつけると誘うように上下に揺らす。
(そこまで誘われたら断るのもなぁ……)
傭兵の中には「戦いたいから」という理由でこの道を選択する者もいる。
この隊長さんは恐らく戦闘狂――所謂「バトルジャンキー」というやつなのだろう。
「ガッ、ハー」と息を吐き「仕方ねぇなぁ」と言った具合にその場から跳躍すると、傭兵達の前に着地する。
傭兵達をゆっくりと見渡す。
(全部で……38人。女性は三人。一人は神官っぽいが……)
残り二人の女性がまた露出度がやたら高い服装である。
ジャケットにホットパンツ、一枚の布をチューブトップのように巻きつけており胸の前に結び目がある。
防御力が低そうだが大丈夫なのだろうか?
男?
割とどうでもいい。
どいつもこいつも似たりよったりな装備だし、臭いのキツイ奴が何人かいるのが少々気になる。
まあ、戦闘経験を積むと思えば、多少遊んでやるくらいはやってやってもいいだろう。
俺は無警戒に真っ直ぐのっしのっしと広場の中央へと歩く。
(ほら、さっきとは真逆だぞ?)
俺はわざわざ広場のど真ん中に陣取り、傭兵達に包囲させる。
さあ、この時代の傭兵さんのお手並みを拝見するとしよう。




