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138 とある英雄の視点2

(´・ω・`)ノ 連絡事項

TOブックス様より書籍化されます。

発売日は4/10となっており、ブックウォーカー様では4/1からの先行配信となっております。

零れ話的な特典SS等も用意しておりますので興味のある人は購入して頂ければ幸い。

基本は描写のない期間のネタ系。

イラストは みことあけみ 様となっており、素晴らしい乳であると言わせて頂きたく存じ上げます。

 レコールの町――犠牲を払いながらも辿り着いたは良いが、他三人の顔色は悪い。

 自分達が完全に足手まといだったと認識している魔術師はまだ良いが、お目付け役の神官に至っては自覚すらなく、自分の身に危険が及ぶことすら覚悟していなかったらしく、僅かな負傷を未だに引きずっている。

 そして、最悪なのが首輪付きの元傭兵。

 こちらに至っては完全に実力を疑われる始末。

 帰還直後に「聖剣ってのは飾りか? それともお前には使いこなすだけの実力はねぇのか?」と厭味ったらしく口にしてくれた。

 正直なところ、これに対しては反論する気すら失せる。

 誰があんな状況を予想できたか?

 何が何でもこの情報だけは持ち帰る必要があった。

 だからこそ、犠牲を払ってでもお目付け役を帰さなければならなかったのだ。

 領主館へと急ぐ足は重い。

 彼の者の功績はしっかりと残しておかねばならない。

 それがせめてもの手向けである。




「……で、おめおめと逃げ帰ってきたわけだ」


「ええ、どう考えても無視できない情報を得ることができましたので、一度報告と対策のためこうして戻って参りました」


 領主館の一室でお目付け役を背後に立たせ、対面に座る険しい顔つきの初老の男が口を開く。

 事のあらましを軽く伝えたところ、領主不在につき今回の一件を任された執政官が言葉を選ぶこともせず評価を下し、それを明確に、かつやんわりと否定する。


「今回犠牲を払ってでも得た情報はあまりに大きい。なので上の判断が必要となったまでのことです」


「自分達だけでは無理だと思って助力を欲するか?」


「それもあります」


 厭味ったらしい執政官の言葉に躊躇なく頷く。

 後ろで神官が小さく声を漏らしたが、口を挟ませたくないので構うことなく続ける。


「実力不足と仰るのであれば、確かにその通りと痛感せざるを得ません。ですが、誤解がないようはっきりと言わせていただけるのであれば……私で無理なら誰が行っても同じです」


 自分以上の適任はいないと断言してみせると執政官は鼻で笑い、呆れた様子を隠すことなく口を開く。


「最近の連中は口だけはご立派だ。良ければその自信の源を教えてもらえるか? 正直なところ、お前程度ならば代わりはいると私は思っている」


「アルゴスと名付けられた新種のモンスター……この化物は間違いなくエルフから逃げて来たか、或いは返り討ちにしております」


 彼の言葉に反応しているようでは話が進まない。

 なのでまずは要点だけを、と思ったのだが「言うに事欠いてエルフか」と失笑気味の執政官。

 信じてもらえるとは思っていなかったが、こうもあからさまでは溜息を吐きたくなる。

 もっともそれを予想していたからこそ、このお目付け役を連れて来たのだ。


「シュリン、君の口から聞かせてくれ。我々の初手は完璧だったはずだ。では何故、あのモンスターはこの聖剣がその首を叩き切る直前で私に反応できたのか? 何故アルゴスは聖剣の力を知っているかのように尽く対処してみせたのか?」


 突如話を振られた神官がオロオロと戸惑う。

 しかし、すぐに意を決したように胸元で祈るように両手を握り、目を瞑って口を開いた。


「聖剣は、人に過ぎたる力を与えます。それ故に教会は秘匿し続けてきました。ですが、今回遭遇したあの新種のモンスターは、終始明らかにその脅威を知っているかのような動きを見せておりました。これはもう、既に聖剣の所有者との戦闘経験があったと言う外ありません」


 思った以上にこちらの言ってほしいことを口にしてくれた。

 戦闘面はからっきしだが、お目付け役にされるだけのことはある。


「奴は、聖剣の気配を知っていました。先に話した初見ではあり得ない対応力も、それで全てに説明が付きます。結果、こちらの戦術が尽く台無しとなりました。正直なところ、今回の一件はあまりに想定外の事態が起こりすぎています」


「それを信じろ、と? 正直に言わせてもらえるならば、君と教会側が敗走の理由をでっち上げているとしか思えない」


「それはつまり、私の実力を疑っていると?」


「そう捉えてもらっても構わん」


 一応こちらは侯爵家から派遣されて来た身なのだが……どうやらここの領主は今回のねじ込みに思うところがあるようだ。

 ここの領主と侯爵家がどのような関係かまでははっきりとわからないが、間に教会を挟むのであれば強硬な態度は取れないだろう。


(そう思っていたところでこうも露骨な態度を見せてくるとか……教会との関係の悪化すら厭わない何かがある、と言うことなのか?)


 それでも、向こうの事情に関係なく言わなくてはならないことはまだまだある。


「彼の新種――アルゴスは聖剣との戦闘経験があることは間違いないと思われます。そしてその相手はかつての大戦におけるエルフの英雄。聖剣の所持者であり、剣聖と謳われ、大帝国の軍勢を幾度も切り伏せたことで『剣鬼』とまで呼ばれた伝説でございます」


「あり得ん。二百年以上も昔の話だぞ。仮に生きていたとして、その力が以前のままとは思えん」


 鼻で笑って否定した執政官の顔色が明らかに悪くなっている。


「少なくとも、聖剣の所持者が変わったとの情報がない以上、そう考える外ありません。流石の私でもかの剣聖と同列に語られるほどの自信はございません。それどころか、その伝説とも呼べる使い手から逃げ果せた……もしくは返り討ちにしたと思われる相手に無策で挑む愚を犯す気はありません。故に帰還を優先しました」


 未だその死亡報告がない生ける伝説――単騎でかの帝国の軍勢を壊滅させた、とまで言われた世界最強と称される個人を比較対象に持ち出されては、強硬な態度を崩さない執政官がこちらのことなど気にも留めず熟考している。

 記録が正しければ、僕が生まれる少し前に一度だけその強さを知る機会がカナン王国にはあったはずである。

 思えば先ほどのセリフもまるで自分に言い聞かせるように感じた。

 もしかしたら、彼はその一件に関わっていたのかもしれない。


「最後に、アルゴスの武装についてです」


 ここからがもう一つの本題だ。

 畳みかけるようで申し訳ないが、こればかりは事の重大さを理解してもらわなければ困る。

 だが執政官は「旧帝国遺跡で拾ったものだろう」と然して重要なものと捉えなかった。


「そうであったならば最も良いのですが……違う場合が最も厄介です。お考え下さい。あの巨体のモンスターが使用する武器を、何故旧帝国が作るのですか? 帝国にはあのような近接戦闘用の武器を作成する理由がありません。そしてモンスターが作るにしては精巧過ぎることから奴が作ったとも考え難い」


「……そうか、だからエルフなのだな?」


「はい。最悪の事態を想定した場合、我々は戻らざるを得なかった理由を察していただけて何よりです」


 やはり執政官となるだけあって頭の回転は悪くない。

 こちらが何を言いたいのかをこの短時間で察してくれた。


「あり得ん。連中が我々に仕掛ける理由は一体何だ? あの引きこもり共が何故今になって攻撃を仕掛けてくる?」


 だがそれとこれとは話が別、とでも言うように、彼は僕の意見を否定する。

 推測が混じることは仕方がない。

 何せ言葉の通じないモンスターから得た情報が元なのだ。


「ですが、可能性がないわけではありません。その出所がエルフであった場合、様々なことに合点がいくのも事実です」


 そしてその場合が最も厄介です、と付け加えると大きく息を吐いて天井を仰ぐ。

 押し黙る彼をそのまま待つ。

 恐らく最悪の事態を想定しているのだろう。


「……キリアス様に繋ぐ。しばらく待て」


 続きは領主との一対一。

 どれだけ不安を煽れるかが腕の見せ所と言ったところか。




 領主館を出た僕は大きく息を吐く。

 山場は越えた。

 完全に思い通りとはいかなかったが、どのような形であれ、あの老魔術師には報いることはできるだろう。


(問題は、あの首輪付きか……)


 一応説得の材料はある。

 問題は素直に聞き入れてくれるかどうか――その懸念は見事に当たった。


「それを信じるとでも思ってんのか?」


 まあ、こうなることはわかっていた。

 借り受けている宿の一室にて、領主館での話をしたまでは良かった。

 だが、聖剣の話題になるとものの見事に態度が変化した。


「付き合いは短かったが、あの爺さんが命を懸けたおかげで助かったのは事実だ。だからその借りを返すまでは自分の意思で付き合うと決めた。だが言うに事欠いてそれか?」


 正直なところ「自分でもこれはないな」と思うくらい信じられないことを言っている自覚はある。

 しかしながら事実そうとしか考えられないのだから、ありのままを話す外ない。


「裏にエルフがいる可能性は……まあ、信じられないが良しとしよう。そして企みがあるかどうかをはっきりさせるため、共同でアルゴスを討伐することをエルフに持ちかける。国の企み事なんざさっぱりだからな、そこまでは良い」


 腕を組み、目を瞑って考えるような素振りを見せつつ、一つ一つ丁寧に思い返しては頷くオーランド。


「だが、お前の『聖剣が上手く使えなかったのはその力が阻害されていたからだ』というのは信じられない。はっきり言おう。言い訳をするにしても、嘘を吐くにしてももっとマシなものはなかったのか?」


 馬鹿にされているとしか思えん、と憤慨している様子で座っている椅子に乱暴に背中を預ける。


「うん、だと思うよ。僕もさぁ『これ言っても信じてもらえないだろ』くらいの自覚はある。でもさぁ、そうとでも考えないとあり得ないんだよ」


 お手上げだと言わんばかりに手振りで悲観的な現状を理解してもらおうとするが、それでどうにかなるような相手ではない。


「あのさー『暴食キメラ』っていう御伽噺知ってる?」


 突然話が変わったかのように感じた元傭兵が怪訝な顔をする。


「それ、今する必要がある話か?」


「知ってる?」


 重ねられた問いに「知らねぇよ」とぶっきらぼうに彼は言い捨てる。

 結構有名なお話なのだが、傭兵は本など読むような生活は送ってはいないか、と頭を振った。


「簡単に言うとさ、昔々実験で生まれたキメラがおりました。そのキメラは食った相手の能力を自分のものにしてしまう能力を持っていて、色んな生き物を与えられ、捕食しました」


 内容が内容だけにその危険性を理解したのか、首輪付きが口をあんぐりと開けて聞いている。


「それから様々な能力を身に着けたキメラは最早人間が制御できるものではなくなり、遂には自分を縛る鎖を食い千切り自由となり――その牙は人間に向けられました。結果として、当時の町を幾つも呑みこんだキメラは、肥大した己の肉体に圧し潰され、自壊という結末を迎えましたとさ」


 おしまい、と軽く手を叩いて話を終わらせる。

 聞いていた元傭兵は口が半開きのままである。


「この物語ではさ、この暴食のキメラは『人間が作った』となっている。でもさ、君は疑問には思わなかったかい? 果たしてそれは、本当に人が作ったものなのかと?」


「……何が言いたい?」


「君は……いや、君なら気づけるはずだ。三度に渡り、あの新種と戦った君だからこそ、問いたい」


 あのモンスターは、君が初めて会った時と比べてどれ程強くなっている?

 僕の言葉に「ああ……」とだけ溢し、彼は天を仰いだ。


「辻褄が合ってしまうんだ。もしも、あのモンスターがエルフと戦い、かの剣聖と相まみえていたならば……戦闘を経験する度に、己を進化させ続けるような生物であったならば……全てに、説明がつく。ついてしまう」


 通常の武器では傷を付けられないのはあり得る話だ。

 だが魔法がほとんど通用しないことと、聖剣の能力が阻害されることは話が違う。

 そう考えでもしない限り、アレは最初から解明すらされていない聖剣の力に対応できる能力を持って生れてきたことになる。


「俺たちが、あいつを強くしてしまった?」


「かもしれないし、そうではないかもしれない。実はさ、聖剣の話をしたのはこれが初めてなんだ。不確実な要素が多すぎて話せなかったってのもあるけどさ、新しい御伽噺が生まれてしまうんじゃないか、って懸念がどうしても消えてくれなかった」


 彼がこちらを真っ直ぐに見つめる。


「突拍子もない話だからね。だからこそ、まず君に確認を取りたかった。その上で領主にもう一度会って話をする。そのためにも、君の意見を聞かなければならない」


 その返答は沈黙――故に一つの疑念が確信へと変わる。

 彼は何かを隠している。


「先生の……魔術師カイジスの死を最大限意味あるものにしたい。協力してほしい」


 そう言って頭を下げる。

 だが、この時に踏み込むべきではなかったとすぐに後悔することになる。

 世の中、知らない方が良いことなど幾らでもある。

 これはその最たる例の一つと言えた。


「……わかった。話そう、俺が……俺たちが隠し続けたあの新種の情報を」


(´・ω・`)実は2月の頭くらいからHPに載っていたので何時バラされるかとハラハラしていた。そして発売1か月前まで誰にも何も言われなければ勝ちという良くわからない勝負をしていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] みことあけみって艦これの高雄愛宕の人か! SSR絵師付きの約束された書籍化おめでとうございます!! おっぱいさん達がどう描かれるのか楽しみすぎます。
[一言] 新種の情報・・・おっぱいを見せると落ち着くぞ!
[良い点] 書籍化おめでとうございます! 6号がどれくらいのサイズかは自分の眼で確かめてみようといえるようになったのですね! [一言] モンスターめちゃくちゃ警戒されてる。 ドラゴンバスターとしては、…
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