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(´・ω・`)あけおめ。自話投稿の失敗に二時間以上気づかなかった不届き者はこちらです。
基地跡に生えてきたゴブリンを駆除し終え、何かないかと探してみる。
そして見つかったのはまだ肉が残っている人骨。
(まーた、食われてるよ……ちょっとハンターの質低下してない?)
ともあれ、新たにここで倒れた者が出たならば、それは即ち何かしらのアイテムがあることを示している。
なのでちょっと念入りに探せば服装から男性と思しき先ほどの死体の持ち物と思われる背嚢が見つかった。
残念ながら大した物はなく、着火用の魔道具と携帯食程度の収穫に終わった。
「まあ、ゴブリンに負ける程度の初心者ハンターならこんなものだろう」と探す前に気が付くべきだった。
念のために他にも何かないか探していたところ、以前ハンター達の道具を見つけた場所には何もないことが確認できた。
もしかしたら遺物目当てに初心者がソロでここまで来て、そこをゴブリンに袋叩きにされたと言うオチなのだろうか?
既に粗方持ち去られていた後だと言うのだから、先ほど見つけた彼の結末が完全に無駄足を踏んだ挙句のものとは世知辛い話である。
さて、そんなわけで既にここには用がないはずなのだが……俺はこうして基地跡をウロウロとしている。
何故か?
一言で言えば妙な臭いがする。
甘ったるいとでも言えば良いのか……兎に角どうにも引っかかるこの臭いが気になり、その原因を特定しようと彷徨っているわけである。
そしてもう一点――ここには何かがいる、と言う確信が俺をこの地に釘付けにしている。
(……隠れてこちらを見ている? 音での索敵には引っかからない上、嗅覚はこの臭いで頼りにならない。ピンポイントに潰されている気もするが……これは果たして気のせいか?)
偶然の一致と言う可能性も十分ある。
相手の出方を窺うべくこうして基地跡をふらふらしているのだが、向こうからのアプローチが一切ない。
この臭いが実は毒で俺が倒れるのを待っている、とかありそうでちょっと怖くなってきたが、どうやら向こうが先に痺れを切らしたようだ。
僅かに聞こえた音――それが足音であることくらいは聞き分けることができる。
問題は明らかに人ではない、と言う点と動物とも思えないことだ。
だとするなら答えは一つ。
(モンスター……しかも昆虫タイプか)
重量から人間大のサイズと推測されるので逃げる必要はないだろうが、相手をするなら油断ならない厄介な存在だ。
自然界における昆虫の進化を知れば、その多様性に驚くことは必至。
それがモンスターとなって巨大に、より強靭になっているのだから警戒をするのは当然だ。
「弱点は多いが、その分特定の環境や状況に極めて強い」と帝国が評するのが昆虫型モンスターである。
そして虫に限らず、生物とは自身に適した環境に住み着くものだ。
俺はリュックを下ろしポーション瓶を取り出しやすいように中身の配置換えを行うと、取り付けられている剣と盾を外して装備する。
原型をほとんど留めていないとは言え元軍事基地。
障害物が多いこの地形は俺にとって決して戦いやすい場所ではない。
(地理的優位くらいはくれてやる。こいつを試すに丁度良い相手なら、それくらいの不利は許容できる)
静かに待つ。
相手が虫である以上、頭脳戦などやる意味がない。
ただ向こうの手札を一枚一枚確実に裏返し攻略するか、もしくは力任せに盤上をひっくり返すかの二択である。
そして本能を抑えることができなかった敵が動く。
言うなれば空気を引き裂く音――目視が困難な物体が俺の背後から襲いかかる。
それを難なく盾で弾き、横目でその正体を確認する。
(……針? いや、尻尾か!)
まるで糸のように細く長いそれは、ある一点からこちらに向けられたものだ。
そちらに振り向き、こちらの視線から逃れるように動いたものを僅かにだが視界に収める。
「あの形状……蟷螂か?」
特徴的な部分が見えたことでそう呟いてしまったのだが……だとするなら先の攻撃は一体何なのかと言いたくなる。
「新種か或いは」と考えたところである可能性が頭を過る。
「遺伝子強化って枠は明らかに超えているよな……あるとすればキメラの方か?」
一度は視界に収めた以上、見失うようなヘマはしない。
盾を構え、次の攻撃に備えつつじりじりと距離を詰める。
「おい、こっちの声は聞こえているか? 聞こえているなら何でもいいから返事をしてくれ」
一つの可能性を考慮しての呼びかけ――返ってきたのは先ほどと同じ尻尾のようなものによる背後からの一撃。
それを盾を使い払いのけるように弾き飛ばし、相手をただのモンスターと再設定。
これで心置きなく戦えるが、残念と思う気持ちも強い。
思わぬところで最大の懸念材料が消えたかもしれないのだからこればかりは仕方ない。
(さて、どうにも知識の中にないモンスターみたいだが……新種か、それとも俺が知らないだけか?)
「まあ、後者だろうな」と己の知識の浅さを笑いつつ、一歩前に踏み出した。
その瞬間、俺の足首に迫る何か――それを咄嗟にサーベルで止めたが、反撃叶わず瓦礫の後ろへと逃がしてしまう。
鎌による一撃だったが、反応があと少し遅れていればどうなっていただろう?
(予想以上の速度だな。おまけにこいつで受け止めても切れていなかった)
かなりの硬度を持つ相手だ。
加えて速度、パワーも十分ともなれば、武装した俺の訓練相手としては正におあつらえ向きである。
姿を隠し、奇襲をするタイプのようだが、蜘蛛男のように毒や糸などの搦手を主体とする相手ではないことには違いない。
それならば幾らでも真っ向勝負へと持ち込む手段はある。
(まずは、一気に距離を詰める!)
身を隠すのが上手かろうが、真っ直ぐ近づけば隠れる前に捕捉できる。
長く、自由に伸ばすことができる先端が針のような尻尾も、音で位置が丸わかりな上にこの盾で容易に対応できる。
馬鹿の一つ覚えよろしく、三度の背後からの攻撃を盾で弾き、ドスドスと駆け足で距離を詰める。
その先で「見つけた」と俺は笑う。
一言で言えば「蜂と蟷螂を掛け合わせた虫」だった。
蜂の腹部に蟷螂の鎌と頭部――記憶にあるどの昆虫とも細部は違うが、大まかに言えばそんな姿をしたモンスターが性懲りもなく倒壊した建造物の裏に隠れる様を目撃した。
一枚の壁を隔てて奴がいる。
ならばやることは一つだ。
俺は軽く助走をつけ跳躍――そして飛び蹴りで壁を破壊し標的の前に躍り出ると同時に手にしたサーベルで斬りつける。
残念ながら距離が足りず本体には直撃させることはできなかったが、その鎌が付いた腕を打ち落とし、バランスを崩すことには成功した。
しかし反撃とばかりに腹部を前に突き出し、その先端にある針をこちらへと射出してくる。
驚くほど静かな攻撃だが、それは手にしたタワーシールドが金属同士をぶつけたような音を立てて防いだ。
「なるほど……そういう姿、ね」
ようやく真正面から全体像を見ることができたが、初見で得た印象そのものの相手だった。
となると蜂の腹部についた針には毒がある可能性が高い。
警戒すべき点が増えたが、対処自体難しいものではない。
悠然と構える俺を前に、自分を大きく見せるように標的は両腕を広げて威嚇の態勢を取る。
虫風情が、この帝国の技術の結晶たるこの俺に勝てると思っているのかね?
あ、群体はNG。
あいつら体の穴と言う穴に殺到して中から食い破ろうとするんでかかわりたくないです。




