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(´・ω・`)短いですが、今年最後の投稿となります。皆様良いお年を
のっしのっしと逃げるゴブリンを追いかけて、到着したのは小さな群れ。
数は全部で7匹と規模は小さく、ぎゃいぎゃいと煩かったが俺の姿を確認すると同時に静かになった。
俺は悠々と荷物を下ろし、リュックに括りつけていた大きなサーベルを取り外すと軽く一振り。
ゴブリンたちは逃げ出した。
バラバラに逃げようにも襲撃を警戒した地形を拠点にしたが故に逃げ道が限られている。
身の程を弁えず迎撃用にしたのが運の尽きと言ったところだろう。
緑の汚物は散開して逃げ出す前に全滅した。
「ふむ、やはり武器があるのは良い」
ブンブンと付着した血を払うようにサーベルを振る。
使い方は漫画の模倣が精々だが、この重量と素材の硬さで叩き切るだけでも十分強い。
俺の全力に耐えられる得難い武器――それの初披露となったわけだが……やはり相手がゴブリンでは物足りない。
と言うより使った気がしない。
試し切りにしてももう少し相手を選ぶべきだった。
サーベルの手入れをしつつゴブリンの巣を確認。
結果は何もなし。
やはり数が少なかっただけあってできたばかりの群れのようだ。
カナン、セイゼリアの両国から距離はそこまで離れていないので何か収穫物でもあるかと期待したが、出来立てならばこんなものだろう。
この場を離れ来た道を戻ると迷うことなく焼肉跡地を発見。
後片付けを再開し痕跡すら残らないほど奇麗にする。
ここまでやれば火事になることはないはずだ。
これで心置きなく目標の町へと移動できる。
森の中を周囲を警戒しながら進み、太陽が真上に来る頃に足音を捉えた。
(数は……三人。んー、若干一名重い? 重武装の戦士タイプが混じってる?)
聞き分けることに慣れてきたのもあってか、最近はこのように重量を予測することができるようになってきた。
二足歩行であることは間違いない。
そして自然に地面を踏んで歩く分には木の枝が折れる音で聞き分けることができる。
斥候のように気を付けて歩く場合は不明ではあるが、今回は捕捉している三人で成否を確認しておこう。
擬態能力を使用して周囲の景色に溶け込むと、俺は音を立てないよう静かに動く。
(こうしてみると、人間の聴力を知っているってのは結構なアドバンテージだな)
元人間なだけあってそのスペックを詳細に知っているからこそ、こんな真似ができるのだから情報は重要である。
相手の進行方向を予測し、先回りする形で身を潜め彼らが視界に入るのを待つ。
若干のズレはあったものの、ものの10分で彼らを目視することができた。
(軽装の戦士タイプ二人に重装の戦士タイプ一人――予想通りだな)
予想通りなのは素直に嬉しいのだが、全員が男なのは残念だ。
そして明らかに斥候役のいない脳筋集団がこの森で何をしているのか、という疑問が湧いてくる。
一先ず情報収集に励もうと耳を澄ませても誰も喋らない。
(何かを探すにしては編成がおかしい。周囲を気にしてるのはわかるが……)
一言で言えばこの三人はオドオドしている。
頻りに周囲を気にしてはおり、その表情には怯えが見えた。
(……なるほど、仲間とはぐれたか)
それならば諸々の情報にも納得が行く。
となればその原因も知りたいところではあるが、見た目安上がりな装備の傭兵集団がそう言った状況に陥る理由など幾らでも思いつく。
しかしこの周囲に思いもよらぬ強敵が潜んでいる可能性もある。
「人間基準の話なので俺には適用されないがね」と心の中でポーズを決めて笑ったところで三人が思いもよらぬ行動に出た。
こちらと反対側を指差し悲鳴に近い大声を上げたかと思えば、なんとこちらに向かって走り出したのだ。
擬態能力中なので一度視線を切ってからのっそり大きな木から姿を現す。
俺に気づいた傭兵が情けない悲鳴を上げるが、それでもこちらに走ってくることを止めない。
つまり、今追われているものより俺の脅威度が低いと言うわけだ。
(ほーん……俺の方がマシ、ねぇ……)
ほうほう、と顎に手をやり彼らを見ていると重武装の一人が転倒する。
涙を流して手を伸ばし助けを求めるが、軽装の二人は完全に無視してこちらに向かって走り続ける。
そこで見えた。
いや、見えてしまったと言うべきか?
倒れた男に群がる大量の黒いアレ――それを目撃した瞬間背筋は疎か全身に悪寒が走る。
同時に全力疾走していた二人が俺を抜き去る。
(こいつら、なすりつけ目的か!?)
幾ら俺でもこいつら相手では分が悪い。
と言うか絶対に準備もなしに戦いたくない。
恐らく食われ続けているであろう男の悲鳴を背に、俺も遅れて逃走を開始。
前の二人に追いつくや否や、二人の腕をがっちりキャッチ。
囮にしても構わないが、それをしたところで時間稼ぎにもならない。
なので二人を別々の方向へ投げ捨てる。
どちらかが生き残り町に辿り着けば必ずあいつらの報告をする。
(アレの対処は人間に任せる。200年前ならどの国も持っていたはずだし、大丈夫だろ)
若干一名投げた先で木に引っかかっていた気もするが、もう一人が生き残ればよいだけの話だ。
追いかけてくるアレを振り切り、どうにか一息ついた俺は太陽の位置を確認。
どうやら東に向かって走り続けたようなので、折角だからそのまま進んで川へと出ることにする。
「まさか魔虫の群体とは……」
条件的に生まれる可能性は確かにあったのだろうが、まさかそれに出くわすとは思わなかった。
基本的にアレは発生しても共食いで自然消滅するケースがほとんどで、滅多なことでは人の住む領域にまで入ってこない。
しかし一度でも町への侵入を許そうものならそこにある物を食い尽くし爆発的に数を増やす。
そうなれば被害は一国では済まなくなる――と恐れられたのも過去のこと。
どの国も対処法をしっかり持っているので、町は疎か近づくことさえさせないのが当たり前。
結局のところ虫が相手なのである。
誘引したり燃やしたり爆散させたりと手段は幾らでもある。
だが残念なことに今の俺はアレと対峙する手段を持ち合わせていない。
なので逃げの一手となる。
(しかしこうなると目標地点に行くには回り道をすることになるな)
後頭部をポリポリと掻きながら大きく息を吐く。
一先ず川に行って水を補給。
ついでに魚も確保しておこう。
そんな訳で東へ東へと森を進んでいたのだが、ここまで来ると以前おっぱいさんと出会った基地跡が近いので寄りたくなってくる。
取りこぼしはないと思うが、何か素敵な出会いがあるかもしれない。
日が傾き夕方となる頃――そこには元気に基地跡に生えてきたゴブリンを駆除する俺の姿があった。
(´・ω・`)年始からちょっと用事がありまして活動再開が5日以降となりますので次回は少し遅くなるかもしれません。




