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(´・ω・`)遅くなってすまぬ。きちゃない話もあるのであとがきの方で
両者一斉にスタート――同時に聞こえる舌打ちとそれに続く「クソが!」と言う男の声。
これで心置きなく処理ができると一気に距離を詰める。
しかしそう喜んだのも束の間、俺の足の裏に鈍い痛みが走った。
(うおっ! 金属片を撒いてたのか!)
足の裏はそこまでカチカチではないので傷をつけるには十分の代物。
対人を想定していた道具なだけに俺の足には刺さりこそしなかったが、移動を妨害すると言う役割は確かに果たしている。
「厄介な」と思いつつ、両手を使い前方を払うことで障害を吹き飛ばした後、強く踏み込み跳躍する。
逃がすつもりはないのでこのまま踏みつけても良かったのだが、小柄な上に身のこなしが尋常ではなかった男が曲芸のような動きでギリギリ回避。
しかし俺は着地と同時に手を広げて左腕で薙ぎ払い、それを避けることができなかった男が宙を舞った。
感触的に恐らく骨が何本か折れているはずだ。
また落下のダメージもあるのでしばらくは動けないだろう。
悠々と近づく俺に荒い呼吸で睨みつける男。
「カエル食い共が、モンスターを使うか! この――!」
最後の言葉に俺は首を傾げつつも小柄な男に止めを刺す。
同時に先ほどから光でやり取りをしていた集団がこちらに気が付いたと周囲の音から判断する。
(しかし……何を言ってるのかさっぱりわからんな)
拾える単語が一切ない。
いや、それどころかこれはカナン王国語ではない。
(んんん? この男がカナンで、向こうの連中がセイゼリアなのか?)
状況が把握できず少し混乱する。
この間にも二つの集団は異常を感知し、この場から遠ざかっている。
男は最後に言っていた。
「カエル食い共が」と――それはカナンの人間がセイゼリアの食文化を貶す際によく使われる言葉だ。
聞き取れなかった部分は恐らく罵倒か何かだと思われるが、わからなかったところで影響はないだろう。
それで、あの集団はセイゼリアの者達でこの男が連中を見張っていた?
何のために?
(情報が全く足りていないことはわかった。何が何やらさっぱりだ)
大雑把な推測としては、この暗闇で何かしら連絡を取り合うくらいなのだから諜報員か何かなのだろう。
それをこの男が見張っていたと仮定するならば、恐らく彼らと同業――つまりは防諜活動の真っ最中に俺に出くわしたと言うことになる。
(なるほど……だとするなら確かにタイミングが良すぎて俺を「セイゼリアが操るモンスター」と勘違いするのも納得できる)
取り敢えずで考えた状況設定だが意外と悪くない。
「もしかしたら本当にそうなのかもしれないし、最近ちょっと冴えているのでは?」と自画自賛したところでセイゼリアの諜報員らが散り散りになって逃走を開始。
それに気づいた時には手遅れだった。
対処しようにも俺が最も取られたくない手段で逃走されており、全員の口封じは事実上不可能となっている。
本気を出さなくては可能性がなく、全力を出して取り逃がせば情報が洩れる。
「あ、やべ」と思わず声が出てしまうが、よくよく考えればセイゼリアの人間に手を出す理由が今のところない。
少なくともこちらから積極的に仕掛けるほど致命的な行動はしていないはずだ。
(そもそもセイゼリアの人間と碌にかかわっていないよな? せいぜいおっぱいさんくらいだし、剣はちゃんと返却してる)
モンスターと言うだけで敵対する理由はあるかもしれないが、俺の戦闘能力を知っているならば無駄な戦闘は確実に避けるはずだ。
それこそあのおっぱいさんが貴族のような立場のある人間でない限り、人的被害を顧みることなく俺を討伐しようとは思わないだろう。
棒立ちで蜘蛛の子を散らすように逃げ出した彼らを見送り、俺はのっそりと夜の草原を歩き出す。
今の目的は食生活の質向上である。
彼らを追う必要など何処にもない。
決して「気づいたら対処不能な手を取られていた」からそう言っているのではないのだ。
しかしながら最早このルートは利用するのは無理がある。
(場所を変えるとして……何処がいいか?)
当然ながら隊商が行き来する街道が理想的だ。
しかしながらそう言った整備されている土地には俺のこの巨体を隠す場所がほとんどない。
それ故にこのような辺鄙な場所を選択していたわけなのだが――
(ここが使えないとなると、他に候補地が……あるな)
実に丁度良い町がある。
南部開拓のために作られたであろう俺の知識にはなかった町。
目的を考えれば人も物資もガンガン送られているはずである。
思えばヘイトコントロールなどと考えてこんな都合の良い場所を見逃していたのだが、最早疑う余地のない敵対関係となった今では活動場所をここに変更することに躊躇はしない。
(しかしこれで更に俺の行動がセイゼリアに利することとなるわけだが……)
「まあ、気にする必要はないだろう」と目的地へと移動を開始。
夜間の行動は制限が少ないのでできる限り近づいておこう。
そんなわけで夜が明けて森の中。
取り敢えずほぼ真南へと移動することで旧帝国領の森へ向かったのだが、そこはカナンとセイゼリアが互いに領有を目論む土地である。
当然そんな場所に堂々と入っていけるはずもなく、俺は西へと逸れてここにいる。
(いやー、中々物々しい雰囲気の砦だった)
どうやら帝国が分捕ったカーナッシュ砦は現在カナンが所有している模様。
補強工事が完了するにはまだ少しかかりそうではあるが、対セイゼリアの最前線ともなれば人の数も違う。
流石にモンスターとなってしまった身の上とは言え、人間同士の争いごとに積極的に介入する気など毛頭ない。
なので空気の読める俺はこうして砦を避けて森の中というわけである。
取り敢えず朝食と寝床を確保するべく周囲を探索。
寝床となりそうな場所は発見できなかったが、鶏をなんと二羽も確保。
こんなところにいるのはおかしいので逃げ出した家畜であることは間違いない。
前回は逃したが今回は美味しく頂く。
野性味溢れる肉も良いが、人の手が入った肉はまた違うものなのだ。
と言うことで処理を済ませてサクッと解体。
羽を毟るのは大変だったが、肉を焼く頃にはその苦労も心地良いものに変わっているだろう。
火を使うための場所を確保し、石を積み上げ簡易的なかまどを作ると燃料となる枯れ葉や枝を入れ着火。
鉄板を置き油を引いたら後は温まるのを待つ。
時は来た――熱した鉄板の上に大ぶりの鶏肉を乗せる。
肉の焼ける音が、臭いが俺を気分的に笑顔にしてくれる。
塩だけの味付けであったが、満足の行く食事だった。
やはり肉質の差は歴然。
人の手で飼育された食肉となるものは美味さが違う。
食後に少しばかりの休憩を挟み、後片付けをしていると何者かの視線を感じた。
実際には視線など感じておらず、音や臭いでこちらを見ているような気がしただけだが、そう表現する方が格好良いのだから仕方がない。
(人間……じゃないな。二足歩行で間違いない)
この条件ならば恐らくは緑のあいつだ。
こんな朝早くから動き出すような生態ではなかったはずなので、恐らくは俺が肉を焼いたことでたまたま近くにいた個体が寄ってきた、と言ったところだろう。
ゴブリンは見つけ次第駆除が森に生きる者のマナーである。
今思いついたものだが、連中は生かしておくメリットが一切なく、逆に生かしておくとデメリットがどんどん増えていく。
ここでゴブリンがこちらの姿を確認して逃げ出した。
俺は息を一つ吐くと後片付けを一時中断。
鉄板を片手に荷物を背負うと逃げたゴブリンを追いかける。
連中は基本的に単独では行動しない。
恐らく逃げた先に群れがあるはずなので、そこまで案内させてから潰すとしよう。
(´・ω・`)食あたりで2キロ近く痩せる。上下の蛇口が全開でちょっときつかったが、忠告に従ったおかげで脱水症状は免れ無事回復。1週間のダイエットは年末年始で帳消しの予定。




