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(´・ω・`)探し物が見つからなかったのでなんかモヤモヤする。
周囲に気を配りながら魔法の修練に勤しむ。
最早暇さえあれば訓練をしている現状に、この勤勉さが人間時代にあれば違った人生だっただろうにと思わなくもない。
ようやく三本の指の先に同時に火を灯すことが可能となり、これまでの成果を眺めながらニマニマと変わり映えのしない顔で眺める。
「目指すは効率的な運用。求めるは現実的な一発」
あれから何度も考えはしたものの、出した結論が変わることはなく、僅かな魔力でできることなど高が知れていると思い知らされただけだった。
「努力は必ず報われる」と言う人はよくいるが、無理なものは無理なのだ。
さて、そんなわけで朝の鍛錬はほどほどにして朝食を確保するため動き始める。
昨日は人間を一人追っ払ったが、それは即ち「何かがいる」と言う確信を与えたとも言える。
となれば、調査かはたまた討伐のために人が送り込まれてくるのは必定。
律儀に朝食のため狩りに行くのはより良い立地を探すためでもある。
この無駄のない動きに自画自賛はしたものの、肝心の条件に合致する地形とは縁がなかったことは「不運であった」と言う外ない。
朝食を終え「げふー」と一息。
行儀が悪くとも問題はない。
魔力操作の訓練を行いつつ後片付けを済ませ、今度は更に東へと進路を取り山へと向かう。
カナンとセイゼリアを隔てる大きな山――帝国では「ヘダイ山脈」と呼ばれていたが、この二国ではどのような名称であったかは残念ながら記憶にない。
上手く要所を見下ろすことができる位置があれば良いのだが、少なくとも現在地から見える範囲にはそのような場所は見当たらない。
近づくことで何か見つかるかもしれないと期待したものの、何処かで見たことのあるでかいクマが立ち塞がったこと以外に特筆すべきことは何もなかった。
ビンタ一発で逃げ出したクマを追うように奥へ奥へと進んでいくと、思いもよらない出合いがあった。
「……また死体か」
しかも今度は白骨化しており、その双眸からは浸食した自然がにょっきりと生えている。
大分時間が経過していることは言うまでもなく、取り敢えずこの横たわる骨の持ち物がないか周囲を探る。
蔦に覆われた鞄を力任せに引っ張り出し、中を検めると出てきたのは変色したポーションと宝石の付いた指輪。
そして――
「紋章の付いた短剣……」
そう呟いた俺はもう少し白骨の周囲を丹念に調べる。
結果、残った衣服の切れ端から恐らくこの骨は女性であることと、残された所持品から貴族である可能性が高いと言うことが判明した。
最後に、その女性の傍にもう一人分の小さな骨が見つかった。
つまり女性は子持ちであり、ここで親子共々倒れたと言うことである。
「どう見ても訳アリにしか見えない」と考えるのは当然であり、それはここにある物を拝借することで「変なフラグが立つのではないか?」と言う懸念故に迷いが生まれる。
(あー、帝国時代でも貴族とか関わりたくなかったからなー。大体蝶と炎の紋章なんて……)
ここで俺はあることを思い出した。
「蝶と炎?」
何かが引っかかる。
俺の記憶の引き出しに間違いなくそれはあった。
徐々に形となる学生時代のとある記憶。
「思い出した」
蝶と炎――それはセイゼリア王国に所属する伯爵家の紋章である。
それがこの場にあると言うことは、まだオルセレム伯爵家は存在しているのだろう。
学生時代に美術の資料にあった裸婦画像。
十代半ば故にエロ本の入手に難儀していた時、何気なく図書館で見つけたエロスな資料。
きっかけはそんな些細なことであったが、友人と共に行った調査の結果は今でもはっきりと思い出すことができる。
(オルセレム伯爵家! 代々美女が生まれることで有名なセイゼリアでも古い貴族。それを誇示するため、生まれた女は年頃になると自らの裸婦画を書かせることで有名だった!)
その設定を友人と共に「これエロくね?」と語り合ったことを思い出す。
俺は懐かしさに思わず紋章付きの短剣に手を伸ばす。
美女との繋がりが欲しい訳ではない。
あの頃の懐かしさと、友と語り合った思い出がそうさせたのだ。
ちなみに友人との協議の結果、モデルとなっていた「シルセリム・オルセレム」女史は5号であるとの結論に至る。
彼女自身については魔法国家らしく大層研究熱心な学者肌の女性だったらしく、俺が軍に入るころには一男一女の母となっていたはずである。
短剣に布を巻いてリュックの中に大事に仕舞う。
新たなフラグ乱立の予感に何だかワクワクしてきた。
一応他にも何かないかチェックはしてみたが、目ぼしい物はあの短剣と指輪くらいのものだった。
日記か何かあればと思わなくもないが、残念ながらセイゼリア王国語は不勉強故にさっぱりだ。
しかし詳細を知りたい者からすれば、この手のアイテムは是が非でも欲しい物となる。
そう言った物品の一つでもあれば最早フラグ回収は避けられなかっただろう。
「さて、これらが一体何を呼び込むか」
美女と縁がある品である限り、酷いことになることはないだろうと思いながら、これまで出会った美人さんとのやり取りを振り返る。
多分大丈夫――遠い目をしながら結論を出した俺はその場を後にする。
結局その日は山の麓をウロウロするだけに終わった。
おかげで日が沈んだ後は方角が少し怪しくなり、草原に出るまでに随分と時間を食ってしまった。
そして今日も成果はなし。
もしかしたらこのルートは使われなくなってしまったのかもしれない。
そんなことを考えていた矢先、僅かにではあるが何かが光ったような気がした。
俺は直立して高さを確保。
すると少々遠いが明かりがあることを確認する。
チカチカと明滅するそれはまるで合図――そう思った直後に周囲を見渡すと俺が出てきた林の側からも明かりが見えた。
(……何か連絡取り合ってるな、これ)
間違いなく先ほどの白骨とは無関係。
あるとすれば昨日の死体だ。
かかわるべきか否かと問われれれば……正直旨味があるとは思えない。
しかし何をしているのかくらいは知っておきたい。
なので擬態能力を使用し闇夜に溶け込む。
何かしらやり取りをしている連中が接触をするようなら、会話の内容を逃したくはない。
地面に伏せ、その場で聴覚に意識を向ける。
光が消え静寂と闇だけが残る。
それからしばらくその態勢を維持していたのだが……何も起こらない。
(合図だけか?)
そう思ったのも束の間、再び同じ場所からチカチカと明滅する光が発せられる。
それを見ていたところその間隔が先ほどとはまた別のものであることに気づく。
つまりこいつらは光で信号を送ってやり取りをしている。
「おう、無駄足じゃねぇか」と心の中で悪態をつくが、わかったことが一つある。
ここは連中が使用している場所であり、ここで目的を果たすのは難しいと言うことだ。
隊商を襲うには不適切とあらば、ここに長居する理由はない。
狩人を逃がしたことでタイムリミットができてしまったが「ある意味これは丁度良かったのかもしれない」とあっさりと諦めが付いた。
なので擬態能力を解除。
のっそりと立ち上がったところで――音がした。
反射的にそちらを振り返ると視線の先に人がいた。
警戒を解いたつもりはない。
そもそも聴覚に集中していたが嗅覚による周囲の把握を疎かにしたつもりはない。
つまり、今俺の視界にいる人間は音も臭いもなくこの距離まで近づいていたことを意味する。
そんなことができる人間がいるなど想像すらしていなかった。
しかしそんなことが可能な手段になら心当たりがある。
(魔法便利すぎるぞ、畜生め!)
俺が動くのと発見した人間が動くのは同時だった。
こいつの所属はこの際どうでも良い。
だが俺の擬態能力を見た可能性がある以上、こいつを生かしておく理由がない。
向こう側からすれば「俺に気がつかなかった」よりも「突如現れた」と考えるだろう。
ならばその次に考えることなど言うまでもない。
相手との距離は15mほど――つまり、俺を振り切ることは不可能。
(見た目小柄であることから性別が気になるが……ああ、女だったら――いや、美少女とかだったらどうしよう!?)
夜の追いかけっこが始まった。
(´・ω・`)大統領選が面白すぎて手につかない。




