118 とあるエルフの視点2
(´・ω・`)短め。次回も別視点。
「種の存続は生物にとって最優先事項である」
その自説を証明するかのように、父は「来るべき日に備えるべきだ」という主張を覆すことはなかった。
竜を始めとする非常識なまでの強力な種、または個に対してエルフは何らかの対抗手段を持つべきであるとする発言は、当然ながら不用意に力を持ちすぎることが如何なる結果を招くかを知る議会で反発を呼んだ。
他種族――例えば人間やモンスターを利用するという発言も合わさり、父の立場が危ういものとなっていたことも今ならば理解できる。
その結果、評判の良くない組織との繋がりを持つこととなったわけなのだが……それが命を落とす理由となることなど、一体誰が予想できただろうか?
「自らの思想に殉じたわけでもなく、志半ばで果てた父の無念。これを想わずして子と言えましょうか?」
彼らを黙らせるのは簡単だった。
委員会としても私の両親が死亡したことは想定外であり、大氏族の一員を死に追いやったことで、こちらの要求を呑まないという選択肢はなかった。
また、議会としても無駄に煩い委員会を大人しくさせることができるなら、と私の発言を容認した。
全ては誰かの掌の上の出来事。
そこに私の意思は存在してはいなかった。
正直に言えば、父の思想には然程興味はない。
一人のエルフとして見るならば立派であったかもしれないが、妻と子を放置して研究と派閥争いに熱を上げる父は、決して良い親とは言えなかった。
それに加えて母を巻き込み死ぬこととなったのだから猶更である。
しかし、だからと言って恨んでいたわけではない。
「エルフという種を存続させるために全力を尽くし、その成果が実る前にこの世を去った男」――私の父を評するならば、恐らくこのようになるだろう。
そして亡き父の思想を利用し、今の立場を得た女というのが、恐らく私への風評である。
それでも、この地位から逃れたいと思ったことはない。
「自分にもできることはあるのではないか?」と考えるくらいには、当時の私はまだ現実を知ってはいなかった。
自分でもこのようなことになるとは思っていなかった。
椅子に座り窓から外を見ながら思考に耽る。
当初、あの「森林の悪夢」が我々の前に姿を現した時、誰もが「厄介なモンスターが現れた」としか思わなかっただろう。
私自身、最初はそのように考えていた。
しかしその被害が拡大するにつれ、父の言っていた「来たるべき日」というのがこのことなのではないか、と思うようになった。
ところが結果は知っての通り「悪夢」は剣聖の手により追い払われた。
当時は未確認ながら倒されたものとされていたが、時を経て再びその姿を現したと思ったら今度は別のモンスターに捕食されたというのだ。
そしてそのモンスターを禁忌を用いて支配したという。
まさに怒涛の日々であった。
結果として、彼のモンスターとは悪くない関係を築くことができたことは幸いと言える。
しかし同時に「父の危惧が現実になろうとしているのではないか?」という思いもあった。
立て続けに現れたエルフという種を脅かしかねない存在に、私は一つの結論を出した。
「そうか、モンスターにはモンスターをぶつければいいんだ」
何と言うことはない。
一つの種すら脅かすほどのイレギュラーな個体が存在するというのであれば、それと同じものをぶつければよいだけである。
この時、方針はほぼ固まった。
同時にアルゴスというモンスターが我々エルフにとって有益であることを証明する必要が出てきた。
これができなければ私の案は賢人議会では通らないだろう。
「あなたはこうなることを知っていたの?」
在りし日の父の姿が瞼の裏に蘇る。
未だ何が彼をそこまで突き動かしたかを知ることはできていない。
何を知っていたのかを知る術は最早なく、父が何を恐れていたか……その輪郭すら掴めない。
時間が経ちすぎた。
ただ無関心だったあの日の自分が嫌になる。
(もし、父ともっと話をしていたならば……私は何かを知っていただろうか?)
賢人会議で誰かが言った。
「時代が変わろうとしているのやもしれん」
人の町で情報収集を行う者達からの報告では、南の評議国でオークの変異種が猛威を振るっているという噂がある。
それはつまり「悪夢」にアルゴス……それに続く第三の脅威が現れたということなのではないか?
順番はわからないが、こうも重なれば偶然とは思えない。
「もう手紙は読んでくれたかしら……」
どうにかしてアルゴスを引き入れる。
その件については至る所で疑問の声が上がっている。
(わかっている。アレは危険すぎる)
あの「悪夢」すら捕食する戦闘能力に加え、エルフを利用する知能まである。
何よりも驚異的な学習能力がアルゴスにはある。
ただそこにあった帝国の遺産からその言語、文化を学び模倣する……最早モンスターと呼ぶには不相応な知性を持ちながらも、決して驕ることのない慎重さまで備えている。
(恐らくは多くの知識を吸収したことで人間種に対する警戒度が上がっている。それもこれも独学で得たものから判断してのこと)
このまま戦術的な知識を身に着けた場合、その脅威度は如何なるものとなるか?
いや、既に身につけている可能性も考慮に入れなくてはならない。
(敵対は論外。それを周知させねばどれだけの犠牲が出るか……いや、犠牲だけで果たして済むかどうか)
故に立ち上がる。
賢人会議は今、私達の持ち込んだ情報で紛糾している。
結論を急がなくてはならない。
まだ交渉が可能なうちに里の意思をまとめる必要がある。
「誰かいますか?」
人を呼び、先触れを出させる。
既に時間の問題となっているかもしれない。
焦燥感に駆られ私は歩く。
この道が滅びでないことを祈りながら。
(´・ω・`)ちょっと体調崩し気味。二話分割許して。




