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(´・ω・`)ちょっとした大掃除することになったら、無くしてたと思っていたゲームと攻略本が……!
まあ、予想していなかったわけではない。
正直なところ、これまでは自然調和委員会という極めて特殊な立ち位置にいる人物が偶々発言力を持っていたことで成立していたに過ぎない。
それはエルフの里やその周辺にモンスターがほとんどいないことを見ればわかる通りだ。
だから長居する気にはなれなかったというのもあるが、こうなってしまっては後の祭りである。
「これはどういうことか……説明して頂けますね、カシアル・ゼサト?」
「勿論だとも、ルシェル・フォルシュナ」
俺の拠点こと帝国の遺跡から戻った一行を待っていたのは、完全武装の戦士達による包囲。
しかもしっかりと距離を取って見えない位置に陣取っているのがいやらしい。
数をそれとなく数えてみたが、30から先はその隠密能力の高さも相まってやる気がなくなった。
護衛である男衆も各自武器に手を伸ばし、何時でも応戦できる状態だが、如何せん囲まれているというのは分が悪い。
川を渡って森に入る直前、しかもこの暗闇とあっては森の中のエルフを視認することは困難である。
どう見ても地の利は向こう側にあり、それを指揮していると思しき男が、今6号さんと睨み合っている。
特に警戒していなかったが故に、視覚以外での探知を怠っていたのもあるが、川を越えたところという最も油断するポイントだったことがエルフ達の反応が遅れた理由だろう。
(同族相手に隠蔽系の魔法まで使っていたっぽいな。記憶が確かなら、どっかのお偉方……なんだが、エルフって年取ってるように見えない上に美形ばっかだから誰が誰かとかわかりにくいんだよな)
特に男。
女性の場合、身体的特徴などで判別しやすいのだが、男となると筋肉の付き方とか持ち物くらいでしか判断ができない。
それもこれも揃いも揃って同じような服装、髪型ばっかりだからだ。
「我々は里の安全を第一に考えている」
「その結論がこれか。野蛮にもほどがある」
「ははっ、野蛮と来ましたか!」
両手を広げ笑うお偉いさん。
魔法の明かりのおかげで良く見えるが、それはつまり的であるこちらも良く見えているということである。
そして俺の視線はある一点に集中している。
「言葉を交わすことができる相手と言葉も交わさず、矢を突き付けることが野蛮でないとでも?」
普段の6号さんとは違い明確に口調に棘がある。
当然と言うべきか、武装したエルフに囲まれている状況を看過できないのだろう。
「これは異なことを! もしや、あなた方のところには報告が行かなかったので?」
二人の話が耳を通り抜け素通りして行く。
何故ならば、対面するエルフの武装集団の中にビキニアーマーを装備したエルフの女性がいるからだ。
先ほどから動かずに悠長にしていたのは彼女を見ているからである。
(まごうことなきビキニアーマーだ。サイズは2号……流石に3号はない。いや、まさか実在するとは思わなかった)
俺は感心しながらただの露出狂としか思えない装備の彼女を観察する。
その間にもお偉方二人による牽制は続いているが、そんなことは知ったことではない。
エルフが装備してるのだから恐らく魔法的な効果があることは間違いない。
恐らく視線を集めるとかヘイト管理系の効果とお見受けするが、そんなことよりその装備を6号さんに着用して頂きたい所存である。
(面積的に考えると非常にそそる。正面からでも見えるであろう下乳とか最高だろ。横から見ても下から見ても隙がない。というか下から見た……ダメだ、頭部がでかすぎて股下に潜り込めない!)
妄想は留まることを知らず、6号さんの次にダメおっぱいがその標的となり、俺の頭の中ではビキニアーマーを着用し、無意味にジャンプするエルフの姿があった。
「聞いていないとは言わせませんよ? そちらのモンスター……食った相手の能力を自分の物とするとなれば、放置する理由はないはず。しかしあなたは里の理念とは違うお考えをお持ちのようだ」
「その懸念は晴れました。アルゴスにそのような能力はない」
二人のやり取りなぞそっちのけで、脳内ではゴブリン相手にへっぴり腰で剣を振るうも、乳を揺らすだけでまともに当てることはできず、息切れしているダメおっぱいが尻を平手打ちされているシーンが再生されている。
あの低スペックエルフの言動から可能な限り忠実に再現した結果、非武装の3匹のゴブリン相手に翻弄され、馬鹿にされ、最終的には片乳を放り出した状態で息切れして剣が杖替わり状態となり、手拍子でリズムを取りながら代わる代わるスパンキングをされるという無残な結末を迎えた。
なお、このシミュレートは年齢制限の都合上この先の上映はありません。
「……何があったかは存じませぬが、だからと言って『はい、わかりました』と言えるとでも? そもそも、あなたがそれを確信するだけの根拠を得たとしても、そこの知能あるモンスターに騙されている可能性は否定できない。貴方の中で懸念が晴れたところで意味はない。まさかそれを信用しろとでも?」
男の言い分に6号さんが歯噛みする。
状況は彼女にとって分が悪いようだが、根本的に自然調和委員会の理念に無理がある話なのだ。
(んー、ここはこれ以上6号さんの立場を悪くしないためにもこちらから動くべきか?)
妄想が取り敢えず終了したので状況を整理する。
若干聞き流していた部分はあるが、問題は粗方俺にあることは想像に難くない。
なので、ここは俺が引けば済む話であると予想する……のだが、じっくりと周囲の状況を探っているとあることに気が付いた。
(ちょい待て。これ精霊剣……いや、違う。違うが……類似した何かがある。しかも反応が4つ)
魔力を知覚できるようになったからこそわかるのだと思うが、あの時感じた肌に張り付くようなチリチリとした感覚が4つもある。
強弱の違いこそあれ、恐らくは類似品。
性能は間違いなく低いだろうが、それが4つ――距離的に考えれば遠距離攻撃をするものと見て良い。
(となると弓、か……そう言えば戦車の装甲を貫通して乗員が射抜かれていたって話どっかで聞いたな)
それが与太話ではないとなれば、向こうは本気である。
ついに帝国との戦争時に用いた兵器まで持ち出して来たとなれば、下手に戦うことを選択すればこちらも無傷では済まない。
「魔弓まで持ち出すとは……議会の承認を得ているのですか?」
「その発言、まるで後ろのモンスターを庇っているように聞こえますな」
男の返しに「貴様!」とこちらの男衆が前に出ようとするが、それを手で制する6号さん。
一応今の発言で俺の予想は当たっていることが判明した。
彼女の立場を考えればこれは大きなミスだが、こちらを慮ってのことなので何も言えない。
あくまで俺を庇うという立場を崩さないのは俺としてもよろしくない。
流石に戦車の装甲を貫くとなれば、無傷という訳にはいかないが、だからと言って状況を座視するという選択肢もない。
なので俺は堂々とメモ帳を取り出すとペンを走らせながら前に出る。
6号さんの制止を物ともせず、向こうの代表の前まで来た俺はメモを見せる。
「お届け物だ」
そう書いた紙を見せて運んできた金属の塊をドスンと地面に置く。
そして6号さんに向き直ると再びメモ帳にエルフ語を書き始める。
後ろで何か言っているが、それを完全に無視してメモ用紙を千切ってそれを見せる。
「面倒なことは自分達で勝手にやってくれ。私は新しい住処を探しに行く。飯は今度来た時にでも食わしてくれればよい」
「いや、あなたにも関係がある話なんだけど……」
メモを見て脱力する6号さんだが、後ろの代表は立ち去ろうとした俺の背中に声をかける。
「何処へ行く気かな、アルゴス?」
俺は一つ大きな溜息を吐くと、6号さんに渡したメモを返してもらい男の目の前に突き付ける。
「ふん、逃げる気か?」
わかりやすい挑発である。
魔力を知覚できる今となっては、俺が動けば後ろの三人が何かするのは目に見えている。
そして4つの魔弓――何をしようとしているのかなどわかりきっている。
だから俺は手にしたメモの裏にこう書いて見せてやった。
「拘束、足止め3 魔弓4」
お見通しだと言わんばかりに喉に手をやり鼻で笑う。
不敵な笑みが消え、忌々し気にこちらを睨みつける代表――この距離で喧嘩を売れるのは勇ましいことだが、どうせ魔法的な防御アイテム持ってて最低でも一回は防ぐことができるんだろ?
だからこちらからは仕掛けない。
仮にやるとすればまずは周囲から落とす。
そして「そちらの考えなどお見通しだ」と言わんばかりの態度が彼を苛立たせる。
恐らく俺が追記したメモの内容を「わかっていることを全て書いたわけではない」と深読みしたことで迂闊な行動に出ないと思うのだが、向こうには向こうの都合がある。
ここで俺を仕留めるつもりでいるからこそ、これだけの人員と「魔弓」という武器も用意してきているのだ。
向こうは万全かどうかは知らないが、相応の準備をしてきていることは間違いない。
故に、確実に意表を突く一手が欲しい。
小さな舌打ちと動いた腕――俺の備えは正しかった。
「イインダナ?」
俺は喉にやった手を動かし、つたないエルフ語を披露して見せた。
(´・ω・`)ビキニアーマーを着て涙目でorzとなっている女性エルフを中心に輪になって踊るゴブリン達が交代で尻を容赦なく叩く画像を検索したが該当するものはなかった。




