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(´・ω・`)長年使っていたキーボードが引退……なのは良いんだが、PC買い替え時の付属品のやつが認識されないとかドス〇ラさんしっかりしてくれませんかねぇ?
ともあれ「奪ったのか?」と問われれば「はい」と答えるしかなく、俺は「強敵だった」とそこはかとなく「危険な存在の排除をした」ことを匂わせる。
「あのサイズの武具を扱うモンスターともなれば……オーガですか?」
「大型のオークだ」
俺が見せたメモに考え込むような素振りを見せる彼女を横目に、少しばかり長文を書き始める。
6号さんも俺が何か書き始めたのと確認すると、しばし追記の出来上がりを黙って待つ。
「この周辺にはオークはいない。東側にもいないことは確認している。これだけの規模の土地がありながらゴブリンばかりということで、ここら一体は『そういう勢力圏なのだ』と納得しがちだが実態は違った。森の南部にオークが集まっていた。その数は万に達しようと言うほどだ。その頂点に君臨していたのが、あれらを持ったオークのボスだった」
あまり待たせるのも悪いので、一度ここらでメモを切り取り6号さんに手渡す。
それを読んでいる間に続きを作成。
以前は手のサイズの割にペンが小さく細かい字を書くのに苦労していたが、やはりこれだけ書き続ければ上達もしてくる。
ついでにエルフ語も上達しているはずであり「体に似合わず字が奇麗」とか言われるようになるにはまだ時間は必要だろうが、そう遠くない未来のはずだ。
「問題はそのオークの集団が南へと進路を取り、人間の国家と戦争をしていたことにある。このままオークを放置し、その勢力圏を拡大させ続ければやがて森の資源は枯渇する。そうでなくとも衝突する可能性が高まり続けることは明白だった。故に叩けるうちに統率している頭を潰した」
続いて渡されるメモ用紙を読んだ6号さんの表情が曇る。
「森を自然に任せ続けた結果がこれですか……」
エルフとしては自然のまま放置した結果がこれなので、色々と思うところがあるのだろう。
現に悲痛な面持ちで6号さんが考え込んでいる。
「本来ならばゴブリンとオークが争い、数を減らしているからこのようなことにはならないだろう。しかし今回はオーク側に統率する者が現れた。ゴブリンに統率個体が現れた場合、どのようなことが起こるかは知識にある。しかしオークの場合はどうなるのだ?」
ゴブリンほど増殖する速度はないとは言え、オークも環境が整えば恐ろしい早さで増えるのは知っている。
しかしゴブリンと違い、オークは必要とする環境に条件が多く、帝国の歴史の中ではほとんど見られていないどころか、意図的に作られたもの以外は確認されていない。
「我々エルフとしても、好ましくない状況が出来つつあった……ということですね」
この話はこれで打ち切られることとなった。
席を立った6号さんを見送り、地下で眠ろうかと思ったがある懸念が生まれた。
(俺だけ地下で寝るとか生き埋めにされる危険があるな)
しないとは思うができないわけではないので、本日は外で魔法の訓練をして夜を過ごす。
幸い昨日は普通に寝ていたので何の問題もない。
ただ、拠点地上部で眠るエルフからは少し離れておいた方が良いだろう。
ほぼ全員が俺を警戒しているのは仕方がないことであり、多少は離れておかねばきちんと休息が取れず明日に障る恐れがある。
ということで夜はひっそりと更けていき、気が付けば空が明るくなっていた。
それだけ集中して訓練していたということだが、目に見えるほどの上達はまだ実感できない。
拠点に戻ると既にエルフ達は慌ただしく動いており、持ち込んだ装置を地下へと下ろしている真っ最中だった。
当然と言うべきか、精密機械を扱うが如く慎重に運んでいる。
俺からすれば両手を伸ばして軽く飛べば届く高さだが、エルフにしてみれば二階建てくらいの高さである。
ロープで落ちないように括って、上と下で合図を送りながら慎重に下ろしている。
ちなみに既に一つ下に送ったようで、今見えている装置の数は三つとなる。
俺の姿を確認した6号さんに軽く会釈をし、指を差して「手伝おうか?」と伝えてみるが、軽く手を振り「大丈夫です」と返ってきた。
やはり精密機械と同じような扱いらしく、俺が触るのをよしとしないようだ。
ただ待っているのも暇なので、朝食を取りに狩りへと出かける。
あのペースだと地下に運ぶだけでも結構な時間が必要だろう。
朝食を摂る時間くらいはあるはずだ。
そう思って獲物を確保し、解体からの流れるような一人焼肉パーティをしていると、肉体労働に勤しむ男衆からの視線をひしひしと感じた。
(エルフと言えど、肉体労働には肉か……)
仕方がないので自分の分は程々に、彼らの分を残しておくことにする。
俺もとある限定版欲しさに短期バイトで肉体労働に従事したことがあり、その時に食った焼肉の美味さは今も覚えている。
ちなみに今回は点火の際に魔法を使用している。
小さな火を制御することくらいは容易にできるようになってきた。
これならあの点火用魔法道具が要らなくなる日も近いだろう。
そんな訳でまったりと肉を焼いて食いながら、魔法の練習に励み、トラブルもなく装置を全て地下に運び終えたエルフ達が地上へと戻ってきた。
俺はそんな彼らを手招きして鉄板と残しておいた薄切りの肉を指差す。
「いや、食わんぞ?」
男衆の一人が事も無げに言う。
俺は信じられないものを見るような目で首傾げてみせるが、女性陣から「休ませてあげてください」と懇願された。
「若さの足りない連中だな」と心の中で呟くが、思えばエルフの寿命は300歳以上である。
また見た目が若い時間も長く、彼らが見た目通りの年齢でないことなど明らかであり、肉よりも休息を選ぶおっさん世代である可能性も十分ある。
それならば無理強いはするまい、と俺は残った肉を焼き一気に頬張る。
その後、後片付けをした辺りで装置の起動へと移る様子が窺えたので、そこで俺が待ったをかける。
「何か忘れ物ですか?」
6号さんのそう言って作業を停止させる。
俺は言葉を選びメモにペンを走らせた。
「ここにあるものを見てみたい。何があるのかは見当が付いているが、エルフが『禁忌』と定めるものをこの目で見て、それが本当にそこまで危惧するべきものなのかを確かめたい。手間をかけるようだが、持ってきてもらえるか?」
これには全員が難色を示した。
一応地下までこちらも付いて行く旨を伝えたのだが、それでも全員の表情が一致している。
説得に時間がかかるかと思ったが、ここで6号さんが折れてくれた。
どうやらここにいる全員が蜘蛛男の失敗作を見ているわけではないらしく「一度見ておく必要がある」という判断の結果らしい。
またこれを知ることで「旧帝国的価値観を持つなら理解してくれるだろう」という願望もあるようだが、それを正直に言う辺りが6号さんは天然なのか計算づくなのか判断が難しい。
権力者の鶴の一声によって、一同が地下へと移動を開始。
僅かとは言え電気が使用可能な拠点を廃棄するのである。
思うところはあるが、使える電化製品の少なさから利用価値は決して高くはなく、発電施設がいつまでもつかも不明とあれば、切り捨てることも視野に入れなくてはならない。
「いずれする選択」を今したに過ぎない。
そう思うことで折り合いをつけているつもりだが、やはりこの姿になってから最も長い時間を過ごした場所だ。
思うところがないとは言えず、つい内部を意味もなく歩き回ったり手を伸ばして何かに触れてしまう。
どうせなくなるのだから、と「欲しい物があれば持っていけ」と大盤振る舞いしたところ、蜘蛛男の失敗作を確保に向かった数名を除く者達が物色を開始。
やはり興味があったらしく、顕著なところでは本棚の本が全て無くなっていた。
……おい、エロ本持っていった奴誰だ?




