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(´・ω・`)風邪ひきなう。

 翌朝――目を覚ましてみると妙に屋敷の方が慌ただしい。

 どうやら何かを運び入れているようにも聞こえるが、それが何なのかまでは残念ながらわからない。

 しかし音で色々と聞き分けることができるようになりつつあることに、成長を感じずにはいられない。

 もっとも、それがモンスターとしての部分であることから内心は少々複雑だ。


(予想では俺の拠点を破壊するための道具か何か、と言ったところだろうが……)


 床に置いた際の音から察するに、結構な重量があるようにも思える。

「一体どんなものを用意したのか」と少し興味が湧いてくる。

 言ってしまえばエルフが持つ兵器、またはそれに準ずる何かである。

 魔法的な道具であることは言うまでもなく、それの威力次第では俺の脅威となり得る。

 まさかただの掘削機械とかではないだろうし、エルフの魔法技術がどれほどのものかを見ることができるという視点が抜け落ちていたが故のお得感。

 そう考えれば拠点を犠牲にしても悪くない取引だったかもしれない。

 ともあれ、予定では明日出発のはずなのでそれまではお預けである。

 今日一日は朝から魔法の修練に励みつつ、6号さん劇場にも備えなくてはならない。

 だがその前に朝食だ。

 何もせずとも用意される飯の美味さよ。

 それまでは黙って魔力制御の訓練に勤しむ。

 昨日一日やってみてわかったのだが、魔力を消費しなければ訓練自体は長時間続けることができる。

 但し、集中を継続することでの精神的な疲労は確実に存在する。

 なので制御訓練をしばらく行い、次に発動を交えた実践的な練習。

 ある程度魔力を消費したところで休息を取るのが効率的と思われる。

 また、回復中は通常通りに活動しても問題はなく、日常的なものはこの間に済ませてしまうのも良いだろう。

 この時間管理に「まるで廃ゲーマーみたいだな」とゲームセンターの予約時間を中心に生活をしている、とニュースで報じられた一部のゲームにのめり込み過ぎた人達を思い出す。

 流石にそこまで行き過ぎてはいないが、今の俺には兎に角娯楽が足りていない。

 魔法の訓練が娯楽に近い感覚であることは否めないが、これは間違いなく俺が強くなるためには必要なことである。

「これ以上強くなる必要があるのか?」という疑問はあるが、三人目が見つかった際、自分よりも強い可能性は十分考えられる上、昨日見た「精霊剣」のような俺を両断できそうな武器がある以上、強さを求めることは必要である。

 とは言っても、俺が魔法でできることなど高が知れている。

 それでも現状伸びしろのある分野であることには代わりはなく、相手の意表を突くという意味ではまさに適正である。

 問題はどのように使用するのが最も有効かつ効果的か、である。

 これに関しては未だに答えが出ていない。

 昨日見せたように「火を噴く」などは正にただの「芸」である。

 一部の火を噴くモンスターがいる以上、真新しさは何処にもなく、むしろ「あ、こいつ火を吹くぞ」で終わる気がしてならない。

 だが、普通に使った場合はどうだろう?

 ゴブリン等の人型のモンスターの中には極稀に魔法を使うものがいる。

 されど如何にもモンスターという姿をした俺が魔法を使えば、それはもう予想外も良いところだ。

 このことから俺は一つの方針を導き出した。


「普通だけど普通じゃない魔法の使い方をする」


 これが中々に難しい。

 ただでさえ魔法のド素人が「度肝を抜く」とまではいかないまでも、相手の意表を突く使い方をしようと言うのだ。

 そんな名案がホイホイと出てくるはずもなく、もうしばらくは用途は未定のまま訓練だけを積み重ねることになりそうである。

 目標は定まっているので焦らずじっくりと考えればよい、と出された食事を上品に食べながら気味悪そうにこちらを見るエルフの女性の視線を堪能する。

 まさか一日で驚愕から不気味へと変化するとは思わなかった。


(もうちょっと驚いてくれてもいいと思う)


 この文句の付けようがないテーブルマナーを見よ。

 テーブルもなければ手にしたものが包丁である。

「これは何処の事件現場だ?」と警察官も真っ青な光景に口を挟める者などおるまい。

 ちなみに包丁は人間用なので持ち手が小さく、実は結構集中する必要がある。

 力を入れすぎると壊してしまうので、それなりの時間練習に費やしていることも追記しておく。

 そんな感じで朝食を終え、食器をまとめてお盆に乗せて屋敷の方まで持って行く。

 向こうの都合で厄介になっているとは言え、セルフサービス精神でお行儀よく振る舞う。

 さて、川へ行くにはまだ時間があるのでそれまでは魔法の訓練だ。

 そうやって胡坐をかいて両手をそれっぽく広げて目を瞑っていると、誰かがこちらに向かっていることがわかった。

 俺に用があるエルフなど彼女くらいしかいない。

 予想通り、6号さんが俺の前に姿を現す。


「こちらの準備ができましたので、あなたの拠点へ行くことになりました。そちらは大丈夫ですか?」


 思わず「がっ?」という声が素で口から洩れた。

「明日ではなかったのか?」とメモに書くと、6号さんは「予定よりも早く準備が完了しましたので」と返す。

 まさか遠慮なく飯を食い過ぎたか、と不安になったが、続く「男衆が頑張ってくれた」との言葉に良いところを見せようと夜を徹して準備に取り組むエルフの姿を思い浮かべ、安心したような残念なようなと複雑な気分になる。

 しかしながら6号さん劇場への参加が見送られたのが正直痛い。

「楽しみにしていたんだがなぁ」と腰を上げ、荷物を手に取りのっしのっしと移動を開始。

 取り敢えず予定より早くなったエルフの秘密を拝むとする。

 それを一言で言うならば「箱」だった。

 サイズは持ち運びのできる衣装ケースほどで、黒一色の重厚な存在感が地面に鎮座していた。


(全部で5つ、ね。まさかただの爆弾ではあるまいな?)


 兵器として見るならば確かに収穫なのだが、もうちょっとエルフのイメージというものを大事にして頂きたい。

 これをどのように使用するかの確認はできないものか、と取り敢えず近くにいたエルフにその黒い箱を指差す。


「触るなよ」


 やはり身振り手振りでは意思疎通は難しい。

 結局、この箱の説明はなく、準備を終えたエルフ達が出発するべく専用の背負い籠に収納して歩き始めた。

 結構な重量があるらしく、運び手はいずれもよく体を鍛えた者達ばかりである。

 彼ら以外にも護衛役の剣と弓を持った戦士っぽいエルフや、その他の荷物を運ぶ者に見た目術者っぽいフードを被った者、そこに6号さんを加えた合計24人が今回のメンバーのようだ。

 先導しようと前に出たところ、俺の位置は最後尾とのこと。

「後ろから襲われるとは考えないのか?」と不思議に思っていたところ、6号さんが「そもそもあなたと戦っても勝ち目がない」との答えを頂いた。

 紙に何かを書いたわけでもないのにこれだけの意思疎通が可能なのだから、同じエルフ連中には見習って欲しいものである。

 そんな訳でしばしエルフに合わせてゆっくり歩いて川へと到着。

 男性陣の頑張りがなければ今頃ここでキャッキャウフフしていたかと思うと、無意識に男性陣を見る目に負の感情が宿る。

 ちなみにエルフの皆様方は魔法を使って川を軽く飛び越えていた。

 重い荷物を背負っていてもそれができるのだから、魔法を使わせればエルフはやはり侮れない存在である。

 川をザブザブと歩いて渡った俺はエルフの一団の後ろに付いて行く。

 この周辺は俺がよく通るのでモンスターはほぼ近寄らない。

 警戒はエルフに任せ、魔法の訓練をしながら拠点まで歩くとしよう。

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