11
見切り発車だけどようやくプロットらしきものが出来上がりつつある。
次の人間さんが出てくるのは3話くらい先になりそう。
はい、地下室の入り口前で佇む一匹のモンスター、俺です。
あのね、入り口が見つかったのはいいの。
でもね、小さすぎて通れないの。
折角見つけて扉も無理矢理開けたのに入れないとかそれはない。
(よし、壊すか)
即座に力技の決断を下すことに最早躊躇いはない。
徐々に染まっていく脳筋思考にはもう歯止めがかからないようだ。
とは言うものの、この手段以外ないわけだから仕方がない。
入り口の周囲をべきべきと壊し、この体が通れるサイズまで拡張すると、梯子に手と足の指をかけてゆっくりと降りる。
着地地点に何かあるわけではないのだが、この体重がドスンと着地したら地下室の中に影響があるかもしれないのでその配慮だ。
「さあ、お宝ちゃんは目の前だ!」と意気込み薄暗い地下を見渡すが、予想よりかなり狭い。
おまけに棚が3つにテーブルと椅子があるだけで他には何もない。
見た目厳重に施錠されていたであろう、古ぼけた棚――ガラスが一切使われておらずその中を知るには開ける他ない。
扉を守る鎖と鍵は既に錆びついており、軽く引っ張るとバキリと音を立てて崩れ落ちる。
俺は壊さぬようそっと扉を開けた。
(……瓶?)
棚の中身はギッシリと詰まった瓶。
中身もまだ入っており、ラベルの文字もきちんと読める保存状態の良さである。
(おい「ランディール1555」に「フージー1619」って酒じゃねぇか!)
見れば全てが酒だった。
おまけに古めの年代が書かれたものばかりということは、この棚は高級酒用のもののようだ。
「ガッハー」と溜息を吐くと次の棚の鎖を引きちぎる。
だがまたしても棚の中身が瓶。
予想通りと言うべきかこちらも酒瓶しかなかった。
そして最後の棚にも酒瓶があった。
一応グラスも色々と取り揃えており、本もあったが全て酒のカタログだった。
(……飲兵衛にも程があるだろ)
まさか地下を作ってそこを丸々趣味に使うとか職権乱用も甚だしい。
一体どこのどいつがこんな地下室を作ったのかとじっくり調べたところ地下からは何もわからなかった。
けど地上ではわかった。
この基地にいたのは「対セイゼリア前線総司令部」の大佐殿。
名前までは読めなかったが、命令書らしきものから読める範囲で情報を得たところ、ここの基地は戦車を川の向こうへと送るために作られたものであることが判明した。
(基地の規模の割に戦車があったのはそういう理由か。そう言えば確かどこかの川を渡ろうとして橋を作っていたが、それを尽く崩壊させられて作戦が進んでいないとかなんとか聞いた記憶がある)
「もっと川幅が狭いところからなら橋など必要ないだろうに」と思ったが、今と昔では地形が随分変わってしまっている。
情勢だって異なるのだからできない理由が何かあったのだろう。
そんなわけで酒を飲む気にもならず、持っていく気もない俺は地上部分の探索を再開。
そして再び見つけた地下室では出てくる出てくる白骨死体。
明らかにここ一年くらいのものなので「お前らどんだけゴブリンに食われてんだよ」とツッコミを入れたくなる。
ちなみにゴブリンは人肉を普通に食べるので、男はモグモグ女はニャーンである。
使える銃の一つでもあればと思ったが、収穫らしい収穫はなかった。
ガックリと肩を落とした俺だが、ここで一つ閃いた。
(あれ、これだけハンターがやられているってことは、その装備品やアイテムがどこかにあるんじゃね?)
この予想が大当たり。
念入りに探したところ、隠すようにどうみても人間用の武器や防具、魔法道具と思しき何かが見つかった。
簡単に分類するとこんな感じだ。
武器
剣×7 槍×2 斧×2
防具類
盾×5 金属鎧×2 革鎧×8
道具
松明×10 謎×3
この中で欲しいのは道具のみ。
金属製品も捨て難いが持っていったところで嵩張るだけだ。
武器防具はさておき、用途のわからない謎の道具――これは既に一つ持っており、先程手に入れた物と同一のものである。
合計4つになったわけだが、この小さなステッキのようなアイテムが一体何をする代物なのかさっぱりだが、ハンターがよく持っている物と考えれば用途も自然と絞れてくるはずである。
今日は一度仮拠点に戻る予定なので、確認はそちらで行うとして全て持って帰ることにする。
そんなこんなで探索を無事終了。
成果は思ったほどではなかったが、なにもないよりかはずっと良い。
軍事基地跡を探索したらハンター用品ばかりが手に入ったというのも変な話ではあるが、地理的な情報を得ることもできたので一先ずはここらで一度戻る。
荷物を入れるには丁度良い頑丈そうな箱もあったので、これに入れて持ち帰ることにする。
帰る頃には夕方くらいにはなっているので、時間の調整も兼ねて周囲を探索しつつ帰路についた。
日も落ち始めた頃、無事仮拠点に到着。
道中何事もないのは良かったが、特に何も見つからなかったのは注意力不足か、はたまた本当に何もなかったか?
行きと帰りで少々道を変えた程度ではやはり駄目なのかもしれない。
置いていた荷物も木箱の上にトカゲがいたくらいで変化はなし。
消費期限のわからぬ乾パンをポリポリと齧りながら、水を飲みつつ干し肉の塩加減に文句を言う。
適量がわからないので図体を考えれば少量程度に抑えた食事をし、手に入れた用途不明のステッキもどきを指で摘んでマジマジと眺める。
(材質は木製。長さ25cm前後で細い先端部分には見たことのない鉱石らしき物がはめ込まれている。スイッチは……なし、と)
取り敢えず振ってみるが何も起こらない。
強く振ってみても変化はなし。
キーワードに反応するとかの場合、俺の声では無理がある。
その場合この棒が無用の長物と化す。
俺は「がーがー」言いながらカチカチとステッキで石を叩きながらどうしたもんかと考える。
(これが予想通り魔法関連の品物であった場合、俺が魔力か何か使用する必要があった場合もゴミとなる。あとはどういうケースが考えられる?)
あれこれ使用法を考えていたら気がつけばステッキの先が赤く光っていた。
そっと指を近づけてみると熱い。
枯れ葉に押し付けると燃えたので、どうやら着火用の魔法道具だと思われる。
ハンターがよく持っているのも納得の道具である。
使い方を検証したところ、3回杖の先を叩くでスイッチが入り徐々に温度が上がっていくようだ。
「電気コンロみたいな感じか」とありきたりな感想を抱きながら、問題としていた着火関連が解決されたことを素直に喜ぶ。
火は文明の始まりを告げる。
「文明的モンスター生活の始まりだ!」なんて言ってみたところで「がおがお」喧しいし、肉を焼くくらいしか今はまだやることがない。
文化的な暮らしは遠い――今日はもう寝よう。
まあ、眠くはないし眠れないから起きているんだけどね。
それならばいっそのこと、夜間での行動がどのようなものかを知っておくために、明日の予定であった北上を今から行うのはどうだろうか?
しばし考えてみたところ、結論は「アリ」である。
俺は荷物を全て大きな箱に詰め込むと、それを両手で持って移動を始めた……のは良いのだが、思いの外箱が邪魔だ。
仕方がないので箱は廃棄、二つのリュックに入る分だけ物を入れて荷物整理を開始。
整理が終わると布で包んだ魔剣を紐を使って背嚢に縛りつける。
それを腕に通して走行に問題がないことを確かめる。
こうなると俺のサイズに合うリュックか鞄が欲しくなるが、そんなものが一体どこで作られているというのか?
無い物ねだりをしても仕方がない。
(よし、これなら走れるな。空き瓶は一本あれば大丈夫だろうし、取り出した乾パンも早く食べれば問題ない)
意外と乾パンの容器がかさばっていたので全て取り出し、別の袋にまとめて入れる。
明日の昼にはなくなる予定なので、少々雑でも問題はない。
では出発――仮拠点に別れを告げて、夜間移動の開始である。
施設内部にいた時を除けば夜に活動するのはこれが初めてとなるわけだが、思いの外問題がない。
夜目が利く上、視覚や聴覚、おまけに嗅覚でも周囲を探ることができるので、少し意識をするだけで問題なく行動ができることは判明した。
昼間は見かけなかった夜行性の動物や昆虫がチラホラと見受けられ、中々に新鮮である。
やたら深い森の中を突っ切っているので少々怖くはあるが、その辺はすぐに収まったので支障はでない。
野生動物の鳴き声を聞きながら軽く走る程度の速度で北上するのだが、月がちょくちょく雲に隠れるせいで何度か方向修正を必要とするが、概ね北へと進むことができた。
多少の観察を挟みつつも真っ直ぐ北へ北へと移動を続け、気がつけば夜明けが近づいている。
(流石にあれだけ走り続ければ息も少し切れるか)
呼吸を整えるよう深呼吸をすると空を見上げる。
周囲の木々が邪魔ではあるが、見えないわけでもない空はもうじき日の出となる。
一度荷物を降ろし、少し早い朝食を摂る。
乾パンと干し肉を適度に食らい、空き瓶に入れた水を飲む。
川の水はそこそこ飲んだが、未だ体に変化はないので恐らく飲料水としては合格ということで良いだろう。
そのまま日の出まで体を休めていると木々の合間に漏れる光が少しずつ増えていき、暗い森が徐々に明るくなっていく。
朝日が昇る。
同時に俺の視界に大きなものが映った。
(でっかいな……何の木だ?)
20mはあろう大木を見つけた。
実際はもっと大きいかもしれないが、見える範囲からの予測でその大きさだ。
丁度良い位置なのでそちらに登って周囲を見ることにすると、その大木に向かい歩いていく。
木登りは得意ではないが、この体のスペックなら問題はないだろう。
木の太さも十分あり、俺が掴まったところで折れる心配はなさそうだ。
近づくとわかるのだが、本当にでかい。
俺が両手を広げたくらいの太さなのだから「何故この木だけこんなに大きいのか」という疑問も湧いてくる。
念の為におかしなところはないか調べてみたが、特に何かを見つけることはできなかったので木登り開始。
この体重を支えることくらいは難なくできる肉体能力ならば容易なことだ。
そして周囲の木々を抜けるほどの高さまで来たところで振り返ると、ようやく見つけたかったものが目に飛び込んできた。
それはかつてコンクリートの森だった場所――今や緑に覆われた廃墟。
そう、旧帝国の街の廃墟で間違いない。
俺はようやく自分の正確な位置情報を掴むために必要なものを見つけることができた。




