108
(´・ω・`)お猫様のご機嫌取りに時間を使い過ぎた。
気づけば再びダメおっぱいと揃って正座をさせられていた。
まだ授業中だったので怒られるのは致し方なし。
しかしながら事の発端であるノーパン娘と同じ扱いであることには異議を申し立てる。
ちなみに脱がしたパンツは俺の頭の上にある。
エルフの下着には何種類かあるが、今日ダメおっぱいがはいていたのは一枚の長い布の両端を僅かに折って隙間を作り、そこに紐を通したものである。
なので結び目さえ解けば足を尻尾で掴んでいても下着を脱がせることは難しくはない。
そして箱から下着を取り出したところで6号さんから「待った」がかかり、この状況――という訳である。
「罰は私が与えますから、ダメおっぱいの相手をしないでください」
ついに6号さんからも「ダメおっぱい」呼ばわりされ、驚きと絶望の表情で俺を楽しませてくれる。
確かに俺としても今は隣の痴女よりも魔法の修練を優先したい。
魔法が使えるようになったことで俺のワクワクが止まらないのだ。
取り敢えずこの正座をさせられている状況から一秒でも早く脱するため、賄賂として帝国産の下着が詰まった箱をそっと差し出す。
「いりません」
冷たい笑顔で拒絶された俺は、しょんぼりしながら箱から取り出した黒の下着を隣で正座させられているノーパン娘の頭に被せる。
「代わりにこれをはくと良い」と目が合ったダメおっぱいに笑顔で頷く。
すると「パンツ返せ!」と座ったままの姿勢で殴りかかってくるが、残念ながら手が届かない。
当然俺の頭の上の下着にも手が届くはずもなく、手が空振る度に揺れる乳を眺めながら「がっがっ」と笑う。
「あなたも、彼女で遊ぶか、魔法の練習するかどちらかにしてください」
呆れた口調で俺をたしなめる6号さんに、思わず頭を垂れて反省の色を見せる。
魔法の発動を成功させた今、この集中力を活かすべく真面目に取り組むのが合理的な判断である。
俺は正座を崩すことなく再び指を立て意識を集中する。
それから僅か5秒後には先ほどと同じ小さな火が指先に灯る。
やはり感覚を忘れないうちに練習するのが正解だった。
黒の下着を投げ捨てたダメおっぱいが俺の指先に灯る火を見て変顔……もとい、忌々しそうな目つきになっている。
ふと練習がてら、空いたもう片方の手で紙とペンを取り出し、サラサラと汚い字でこう書いた。
「ダメおっぱいは火の魔法が使えないの?」
その紙を見せた途端「ぐぬっ」といううめき声にも似た声がその口から発せられる。
(思い返せばこいつがまともに使っていた魔法って小さな光球を出すだけだったよな)
一度指先の火を消して、再びペンを紙に走らせる。
「質問だが、人によってどんな魔法に適性を持つかは異なるのか? またその判別方法は存在するのか?」
俺が書いた質問内容を見た6号さんは頷くと、魔法で地面の土を操作して図式を描く。
「魔法の適性に関しては『総当たりで調べる』という外ありません。ですがある程度の法則性はあります」
地面の図式が6号さんの指の動きに連動するように変化する。
俺はそれを眺めながらその図式の内容を読み取ろうとする。
伊達に魔法書を幾つも読み耽っていたわけではなく、類似するものや全く同じものが記憶にあり、全てはわからなくとも「なんとなく」で思いついた単語を指で地面に書く。
「火、水、風、土」とゲームではよくある四属性だ。
それを見た6号さんは頷き、先ほど描いた図式を並べる。
時計回りに火、風、水、土となるように配置されたそれを見て、俺は本で読んだ内容を思い出した。
「確か、自らが得意とする対面にある属性が不得手となりやすく、両隣の属する魔法は問題なく使用できる」
それを紙に書いて見せると「その通りです」と6号さんは笑顔で応じる。
ちなみに光と闇は別枠で、この4種に加えて複合属性というものがあったと記憶しているが、まだ早すぎるのだそうだ。
「今は基本を学び、土台を作る時です」
6号さんの言葉に俺は頷く。
基礎を疎かにするべきではないことくらいわかっている。
俺は膝を崩して胡坐をかくと再び指先に火を灯す。
但し左右同時に、だ。
そして次に右手の中指を立て、人差し指と同時に点火。
次々と指を増やし、5本同時に火を灯したところであることを思いついた。
それを紙に書いて6号さんに見せると彼女は頷く。
「では、行きます」
俺は頷き、指先を広げて訓練スタート。
「右手人差し指、左手親指、両手薬指――」
6号さんの指示通りに火を灯していく。
指先で付いたり消えたりする火を眺めながら訓練を続けていくと、不意にくらりと立ち眩みを感じた。
俺の状態を確認した6号さんが訓練を中断し、何かわかったらしく頷いている。
「どうやら魔力量は一般的な人間とほとんど変わりはないようですね」
その意味を直ちに理解できず、俺は首を傾げると、6号さんは丁寧にそれが何を示すのかを教えてくれた。
「つまり、生活に使う範囲の魔法が適切な利用法です。間違っても戦闘に使おうとはしないでください。先ほどのような状態となり、最悪意識を失います」
「魔力量を増やすにはどうすればいい?」
「それに関しては『わかっていない』と言うべきでしょうか……そもそも魔力量が増える、ということ自体がほとんど例外的な事象ですので、生まれ持ったものが全てと言われています」
つまり、俺は生活を便利にする程度の魔法しか扱えないということか?
その結論に達した俺は肩を落としつつも、他に何か方法はないかと6号さんに質問する。
「それができていれば人間の中にももっと多くの魔術師がいると思います」
ごもっともな意見だが、それでも俺は諦めきれない。
「では、効率的な魔力の運用をすればどうか?」
しばし考えて出した案に対しても色よい返事は貰えず、申し訳なさそうに「それでも一回が限度でしょう」とのお言葉を頂いた。
さらに「たった一度の意表を突く手段として用いても、実用的な効果は望めない」と止めを刺された。
「確かにあなたが魔法を使えば初見では間違いなく驚きますが……」
そう言葉を濁す6号さんを見て理解した。
攻撃手段として用いるのは無理そうだ、と……ならば別の用途を考えるまでである。
そのヒントは先の戦いにあった。
「それと、魔法に因る肉体の強化には専用の媒介を必要とします。例えばシュバード老の精霊剣等がそれに該当しますが……かなり希少な道具ですので、手に入れるのは難しいかと……」
早速望みが断たれたが、まだまだ案はある――と思っていた。
「そもそもシュバード老が先ほどの戦闘で見せた魔法はほとんどが複合、もしくは魔力の消費が大きなものです。あなたが扱えるものではありませんよ?」
結論としてはあの戦闘の中に俺が参考にできるものはない、ということである。
俺はがっくりと項垂れる。
(つまり、この少ない魔力量でできることなど高が知れる。工夫しようにも使えるリソースが少なすぎて何もできない、ってことか)
それでもモンスターが魔法を使えば驚かせることはできるだろうが……ただそれだけの一発芸である。
とは言え、そのチャンスをものにできるだけの身体能力は持ち合わせているはずだから、一発芸と言えど馬鹿にはできない。
俺は考える。
効率的にこの少ない魔力を運用し、相手の隙を作るにはどうすれば良いかを考える。
その時、組んだ腕にそっと何かが触れた。
思考に耽っていたせいか、ダメおっぱいの動きに反応できず、その手が俺の腕に触れるまで全く気が付かなかった。
「一体何の用なのか?」とそちらを見ると目が合った。
そして優し気な表情で笑いかけるダメおっぱい。
その意図が掴めずしばし見つめあう二人――意味を理解した時、俺は何とも言えない表情をしていた。
(こいつまさか……俺を仲間認定した!?)
あろうことかこのダメおっぱいは魔力量が少なく、まともに魔法を実戦投入できない俺を「碌に魔法が使えない子」というグループの仲間として認めたのだ。
この「あんたのこと誤解してた」と言わんばかりの慈悲に満ちた笑みは、俺の思考を吹き飛ばすには十分だった。
大体二分後――黒のパンツ一丁のダメおっぱいと俺が6号さんの前で正座させられていた。
俺は女性用の衣服をダメにしたことによる「器物損壊罪」で、ダメおっぱいは再度「猥褻物陳列罪」でのお説教である。
実際のところ、少々の差異あれど本体がおっぱいなのでその罪状は固定化しても問題ないはずだ。
取り敢えず、この一件で俺は本日の夕食の食材の確保を命じられ、ダメおっぱいは屋敷内の清掃を命じられた。




