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お叱りを受けること約10分――紙に書かれた「ダメおっぱいに煽られたので舐め回す必要があった」という俺の主張がようやく認められたことで解放となる。
なお「私を騙したゴツゴツに一泡吹かせたかった」とする隣で涙目で正座させられている乳出し娘の主張は却下された。
「どっちもどっちです。お願いですから、このダメおっ……アーシルーをこれ以上ダメな娘にしないでください」
得心する部分があるのだろう。
思わず「ダメおっぱい」と言いかけた6号さんが慌てて言い直すも、俺はニマニマとそれに頷く。
ダメおっぱい呼びの公認も近い。
そんな訳で折角だから「この際だからこの娘の魔法の訓練もしては如何か?」という俺の提案に、少し考える素振りを見せた6号さんが「それもいいですね」と頷いた。
「え……幾ら私でもこんな初歩からやるんですか?」
絶望した顔を見せるダメおっぱいに指を差して笑ってやる。
「あなたもアーシルーに合わせるのは止めてください」
6号さんからお叱りを受けるが、それをダメおっぱいが指を差して笑ってくる。
そこに水がだばーっと上からかけられ、破れた上着が水に流されたわわな果実が二つとも丸見えとなった。
「これで洗う必要はなくなりましたね。着替えてから戻ってきなさい」
有無を言わせぬ圧力に、ダメおっぱいが小さく「はい」とだけ頷くと衣服を正してペタペタと小さな水溜まりを作りながら屋敷に戻っていく。
去り行くその背中を見送りながら「やはり本体以外はさっぱりだな」と俺の中の評価が正しいことを改めて確認する。
乳以外に価値はないと言えど、それ以外のマイナス部分を帳消しとまではいかないまでも良いところまでは巻き返しており、最近はそのダメっぷりに少しばかり陰りが見られたが、いつもの状態に戻りつつあることに安堵する。
俺は「今日も素晴らしい乳だった」と満足気に頷くと、6号さんとの甘い時間――があるはずもなく、彼女から「あれを少しでもまともに戻すのにどれだけ苦労したと思っているんですか」と恨み言を言われた。
どうやら俺の想定以上にこちらではダメっぷりを披露していたようだ。
それはさておき、魔法のお時間である。
ようやく魔力を認識し、それに干渉できるようになったことで、俺は魔法を使う前提を満たすことができたと言える。
後はこの魔力を魔法と言う形に変えるだけなのだが、次に必要なのが6号さん曰く「非常に強いイメージです」ととても簡単に言ってくれた。
「まずは体内を巡っている魔力を指先に集めて放出するイメージをしてみてください」
6号さんはそう言って指を一本立て、そこに魔力を集中させる。
魔力を感じ取ることができるようになった今なら、彼女の指先に集まっているものが魔力であるとわかる。
この目に見えないがはっきりと感じる圧迫感を煮詰めてこれでもかと濃密にしたのが、あの精霊剣から感じた圧だ。
(完全に同じとは言い切れないが、それでもその正体に近づいたのは大きい。魔力を感じ取れない俺ですらプレッシャーを感じた。別の何かも混じっている可能性はあるが、これは大きな情報だ。もしもの時のためにも、情報収集と分析はしっかりやっておかなくてはな)
指を立ててその先に魔力を集めるが……その動きが酷く遅い。
確かに干渉の仕方は体得できたはずである。
指先に集めているはずなのに一向に集まらないことに首を傾げていると、6号さんがその答えを教えてくれる。
「最初はそんなものです。如何に思い通りに体内の魔力を動かすかは、その者の熟練度に因るところが大きく、そこを鍛えることが初心者脱却に必要となるでしょう」
6号さんの言葉に俺は「なるほどな」と頷くと再び意識を魔力に向け集中する。
それからしばし「魔力をどのように動かすことが効率的か」を考えながら指先へと集めていると、不意に通りが良くなるように流れる瞬間があることに気が付いた。
イメージを切り替えつつ、先ほどの感触を再現しようと試みる。
俺が思い描いたのは血液――心臓が体中に血を送るように、体内の魔力を動かし始める。
「自分に合ったイメージができたなら、次はその工程を素早く、そして精密に行えるよう繰り返して下さい」
教本の内容と同じ言葉を耳にしつつ、指先へと徐々に集まり出した魔力――次はこれを放出する工程に移るわけだが、本に書かれたやり方であれば、まずは「穴をあけるイメージ」で体外へとゆっくり出すのが基本だったはずだ。
他にも幾つかあったが、まずはそれから試してみるとあっさりと成功した。
魔力が指先から漏れ出ているのが俺でもわかる。
わかるのは良いのだが……止まらない。
チョロチョロと魔力が漏れ出る様はまるでお漏らしだ。
折角集めた魔力がなくなりそうだったので、慌てて空いた穴に蓋をする。
「意外と器用ですね。この分だとすぐに魔法は形になりそうです」
嬉しそうに言う6号さんに俺も頷いて返す。
しかし6号さんはこちらの魔力の動きをしっかりと把握することができている。
この辺はエルフ故か?
それとも修練次第でこの域に俺も到達できるのだろうか?
今は紙に質問を書ける状態ではないので、これが終わったら聞いてみよう。
こんな具合に思わぬ才能を見せることになり、予定よりも早く次の段階へ進むことになった。
「では、お待ちかねの魔法を使ってみることにしましょう」
そう言ってポンと手を打つ6号さんに頷き返し、早速教本通りに集めた魔力にイメージを重ねる。
「魔法とは、魔力による現象の再現です。人はこれを行う際に『詠唱』という形でその過程を同一にしなぞることで発現させています。同じ魔法を繰り返し使う場合には有効な手段ですが、今回のように何でも良いから形にする場合には用いることはありません」
人間が魔法を使う時は大体詠唱をしていると記憶していたが、そういう意味があったのかと思わず説明を聞き入ってしまった。
ちなみに人間でも修練次第でエルフのように無詠唱で魔法を使うことは可能らしいが、寿命の関係でその域に到達するのは難しいそうだ。
やろうと思えば火や水を垂れ流すくらいなら一端の魔術師でも可能だが、そのようなやり方ではすぐに息切れしてしまうとのこと。
結果、人間の間では詠唱を用いることが基本となり、無詠唱のために訓練するようなこともなくなった、というのがエルフ達の見解のようだ。
思わず「ほー」と聞き入ってしまい、集中を欠いてしまうが、再び魔力を指先に集めるのはスムーズに行えるようになっていた。
取り敢えず最初の魔法は「小さな火を指先に灯す」というのが定番らしい。
なので科学的に火をおこす過程を魔力でイメージ……するも不十分なのか、それともやり方が悪いのか反応はなし。
しばらくそのままのジッと指先を見つめて集中する。
着替え終わったダメおっぱいがやってきて何か言ってるが無視。
そのまま無視しつつ、指先に火を灯すためのイメージを練り上げ続けていたところ、急に集めた魔力が無くなり始めた。
一瞬焦ったのも束の間、見事俺の指先には小さな火が揺らめていた。
「……嘘」
目を見開くダメおっぱいがそう呟くと、俺の指先に灯る小さな火を吹き消した。
「……」
「……ふっ」
しばし見つめ合ったまま停止していたところ、ダメおっぱいが笑い、俺がその両肩に手を置いた。
「待った! 待って! また破く気でしょ! また私のおっぱい晒す気でしょ!?」
「わかっているなら話は早い」と俺は頷き力を込めた――ところで6号さんに止められた。
「服もタダではないんですよ。アーシルーへのお仕置きは、私がやっておきますからそこで止めて置いてください」
俺は渋々ダメおっぱいの肩から手を放す。
しかしその直後に勝ち誇った顔をして鼻で笑ったのを俺の耳は見逃さなかった。
シュバっと素早く伸ばした尻尾がダメおっぱいの足を絡め捕る。
そして有無を言わせぬ宙吊りに悲鳴が上がるが、それを無視して丸見えになった下着を隠すように抑えるその腕で寄せられた本体に手を伸ばし……良いことを思いついた。
(宙吊りにしている今なら逃げられない。そして口実は今しがたこのダメおっぱいが作ってくれた)
俺はのっしのっしと尻尾にダメおっぱいを吊るしたまま自分の荷物へと向かう。
その先にあるのは先日受け取り拒否されたお荷物――貴様への罰はもうわかるな?




