104 とある剣聖のぼやき
(´・ω・`)調子がぼちぼち戻ってきてる。
やりたくねー。
正直に言えばマジで怖い。
「悪夢」を殺して食ったとかアホかと。
幾ら魔法が通じないエルフの天敵って言っても、その部分差し引きしてもアレ結構ヤバいモンスターだったかんな?
実際にやりあったワシが言うけど、アレマジで魔法効かんからな?
「どうせ報告盛ってんだろ?」とか思って挑んで思いっきり死にかけた。
もうちょっと正確に報告しろよ。
あの「効果が極めて薄い」じゃなくて「ちっとも効きません」とかにさぁ……いや、マジで死にかけたよ?
仮にその能力なくても結構厄介なモンスターだからな、アレ。
んで、報告だとそいつは一方的に殺して食ったんじゃろ?
そいつとやれと?
ハイハイ、拒否権ないんじゃろ。
もうやだ、エルフの守護者とかやりたくない。
っていうか388歳の爺をいつまで働かせる気じゃよ。
氏族長だからってもうちょっと……はい、後継者育てるのサボったワシが悪いです。
だってしょーがねぇじゃろ!?
精霊剣は選ばれた者にしか扱えないんじゃから!
あ、ハイ……はい、可愛い娘に限定したのはワシです……ほんと、すんませんでした。
待って、まだ傷が癒えてないの、腰も痛いの……はい、とっくに治ってます、看病してくれる娘さんの尻が最高だったから嘘ついてました。
だってしょーがねぇじゃろ?
あの娘、ワシの伝記愛読してるファンだって言うから!
めっちゃ献身的に世話してくれるし、撫でても揉んでも事故と疑わないからやりたい放題……ごめん、言わないで!
行くから、ちゃんと一戦交えてくるから!
報告?
はいはい、しますよ……ちゃんとやればいいんじゃろ?
はぁー、昔は「お兄ちゃん」と呼んで慕ってくれてたのに……ワシ悲しい。
あ、ハイ、すぐに行きます今すぐ行きます!
あー、何処かにワシの代わりができる男はおらんものかのう。
とまあ、こんな感じに追い出されてな、その……何だっけ?
そうそう……アルゴス、そいつをちょっと斬りに行くことになったわけよ。
確かそいつ支配の魔法で捕まって色々調べられてたんじゃろ?
勿論その情報を……え、ないの?
いやいやいや、おかしいじゃろ。
何でないの?
え、そのアルゴスが燃やして残ってない?
偶然とかではなく?
態々戻って研究所を燃やした?
……なんか聞いてるより随分知能高いんだけど?
あー、それでフォルシュナのとこの嬢ちゃんが執着しとるのかー……納得だわ。
あそこも難儀というか不幸というか……上手い具合に噛み合ってくれるなら良いのじゃがのう。
それで、じゃ……研究記録はなくともある程度の情報は持って来とるのよな?
うむうむ、我が氏族ながら抜かりがないの。
んー……これ無理じゃね?
他所の国の戦闘記録なんてよく手に入ったのう、と感心するけれども……この「等級の低い魔剣では傷を負わせるのも難しい」ってのはどういうこと?
あ、そのままの意味なのね、こいつ硬ぇな。
だったら魔法で……あ、魔法も効いてないわけね。
いや、でもそれ人間の、じゃろ?
あ、第三位階相当の魔法を使えるのがいた?
ほー、人間もできるのがいるのー……え、それ殴って無傷?
ごめん、言ってる意味がわかんないんだけど……詳細は書いてる通り?
いや、ますます以って意味わからんよ。
あー、これもしかして「こいつも魔法が効きにくいからワシ案件」って流れ?
いや「そうです」じゃねーよ。
言っとくが精霊剣は魔法が通じない相手には効果激減だかんな?
その上でこんな危険な怪物を388歳の老人に押し付けんの?
うん、まあ確かに現状ワシは「エルフの里最強」だよ、それは認める。
けど、それはこいつがあってこそなんよ。
おまけにもう何十年と衰える一方でな……もう全盛期と比べると泣けてくる。
あ、それ聞く?
それ聞いちゃう?
帝国との戦争じゃワシはっちゃけてたからなー、あの「戦車」だっけ?
動く鉄の箱に砲を乗せたやつ。
あれを一刀両断してさー、そりゃあもう帝国兵は大慌て。
あの頃帝国からワシなんて呼ばれてたと思う?
えー、言っちゃうの?
それ言っちゃう?
そこは言わせて欲しかったわー。
あ、もう時間か……うむうむ、迎えご苦労。
はぁ~、行きたくねぇ。
で、渋々歩いて向こうに着いて、ちょっと話して通らせてもらったら奴さん本なんか読んでんだよ。
しかも魔法の入門書。
「ちょっとそれはないんじゃない?」と言いたくなったが、それ以上の問題にすぐ直面した。
こいつおかしい。
精霊剣のプレッシャーまともに当ててんのに平然としてる。
いやいやいや、これ言ってしまえば対怪物特攻よ?
それの圧を受けて何で冷静なんだよ。
普通狂乱状態とか逃げ出すとかするだろ?
何で平然と座ってんだよ。
こいつ鈍感なの?
それとも耐えきっちゃうくらいバケモンなの?
うわー……ますますやりたくなくなってきた。
だから事故に見せかけて時間を稼ぐ。
ついで嬢ちゃんとこのお尻もチェック――うむ、若い娘は良い。
情けないところを見て油断を……してないね、ワシの渾身の演技に騙されんとは中々やりおる。
ならばと上から目線で口火を切る。
だって剣聖なんじゃもん……エルフの守護者とか呼ばれてる身だからやらんといかねーんだって。
わかってるから嬢ちゃんもそんなに睨まないで!
まあ、わかってたけどワシの強者オーラにも動じない。
というか、精霊剣にしっかり目が行っとるな。
やはり強くともモンスター、こいつが相当気になると見える。
はぁ~、やりにくい。
ワシより剣の方ばかり警戒しとる。
取り敢えずここでやり合うわけにもいかんから場所を変える。
嬢ちゃんの方は言い聞かせることができたが……正直折れんで欲しかった。
道中どうにか油断を誘おうと色々話を振ってみるが、ずっと視線は精霊剣。
いやもうここまで警戒されててどうやって斬るんだよ、って話だ。
だからもういっそのことバラしてみた。
ついでにこっちの目的も暴露。
そしたら何かやる気出してやんの。
話すんじゃなかった。
これはもう「奇策でも使って一撃入れるしかねぇな」とこっちも腹を括る。
初手は精霊剣の強化ブーストをフル活用して幻影で初動を誤魔化しての一撃離脱――のはずがきっちり反応されて回避された。
反撃を警戒して咄嗟に風爆を顔面にお見舞いしたが、その反動を利用して尻尾でワシの横っ腹を打ち付けてきおった。
「その尻尾伸びんのかよ!」と目測と違う長さに毒づいて吹き飛ぶ。
あ、吹き飛ばされた、ではなく「吹き飛んだ」ね、ここ大事だから間違えないように。
魔法で防御していたからダメージはないはずなのに、少しばかり接触してるんだから如何に鋭い一撃だったかが嫌でも理解できる。
だが、その巨体で跳ぶのは悪手じゃ、と言っておこう。
飛ばされながらも魔法を使えば空中で軌道を変えることなど容易い。
その着地を狩らせてもらおうというわけなのだが、ワシの剣を拳でいなし、それどころかカウンターまで狙ってきよった。
「なんちゅう反応速度しとんじゃ!」と咄嗟に風爆をもっかいぶち込む。
空を切った拳を見てチャンスとばかりに斬りつけてやったが、感触がおかしい。
おまけに付けた傷は気合で瞬時に治して見せたと思ったら指を動かして「かかってこい」と笑いやがる。
流石にワシちょっとキレたね。
だからちょっと本気だした。
うん「ちょっと」だけ、本当に本気だしたら全然いけるけどね、それが目的じゃないから。
初手と同じ方法で接近だけして幻影を重ね掛け。
モンスター相手にはよく効くんだわ、これ。
でも結果は散々だったわ。
爆裂の魔法からの一撃はものの見事に位置バレてたし、危うく捕まるところだったから肝が冷えた。
おかげで冷静さを取り戻せた。
取り敢えず一回は斬れた。
傷は想定より小さくてすぐに治されたけど、斬れることには違いない。
つまりこれでワシ、義務果たした。
よってこれ以上戦う必要なし。
はい、止め!
この戦闘は終了!
で、こうやって歩いて帰ってきたってわけだ。
堂々と背を向けて帰ったのが幸いしたんじゃろうな、戦闘続行はなくて助かったわ。
ちゃんと見てたろ?
ワシちゃんと一太刀浴びせたよ?
これワシの武勇伝の一つに加えてええぞ?
評価?
あー……全盛期のワシでどうにか、ってところじゃな。
正直一対一で勝てる気がせん。
おうおう、お疲れさん。
流石にワシも疲れたから家帰って休ませてもらうぞ?
あ、あとさ……あのバケモンについて確認とっといて欲しいんだけどさー……あいつ、食った相手の能力を自分のものにするとかそういうタイプのモンスターじゃねぇよな?
そそ「暴食のキメラ」って御伽噺に出てくる食った生き物の能力を獲得するやつ。
斬った時の感触っていうか抵抗というか……まあ、そんな感じのものがさー、強弱の違いはあれどそっくりだった。
何って……悪夢に決まってるんだろ。
最後にもう一度だけ確認するぞ?
あのバケモン……放置していいんだな?
ワシ知らんよ?




