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(´・ω・`)ブランク解消の意味で書いてたら何か凄いスイスイ書けたので思わず投稿した。後悔するかもしれない。

 吾輩はモンスターである。

 名前は多分ない。

 だが、ただの名無しのモンスターと思うことなかれ。

 どうにも自分には人間だった時の記憶がある。

「生まれ変わったら怪物だった」ということはなく「ただ人体実験の結果、怪物にクラスチェンジ」というホラー映画でよくあるような話としてはありがちな設定である。

 ちなみに「モンスター名」がないだけで「ユーノス」という人間だった頃の名前はあるが家名はなし――貴族じゃないから当然だね。

 今後使うことがあるのかどうかは不明なので名前うんぬんは正直どうでも良い。

 さて、何故俺が自身を「名もなきモンスターと定義したか?」なのだが……自分の姿が知識の中にあるどの生物とも似ていないから、である。

 つまり、冒頭の台詞などただのヤケッパチ。

 この大した学歴もなく「特筆すべき点はなし」という至極真っ当な理由で徴兵を避けることができなかった凡骨のオツムで絞り出したものがこれでは、戦況の悪化故の兵力増強のための措置に真っ先に槍玉に上がるのも致し方なし。

 おまけに俺を実験台にしたマッドな科学者はとうの昔に死んでおり、その実験に命令を下した帝国も今は存在しているかどうかも怪しい。

 二百年ほど前に廃棄された研究施設の中で目を覚まし、泣いたり喚いたりして無気力になり、現実が受け止められず奇行に走ったところで、ようやく少しは冷静さを取り戻して状況を把握しようと周囲を探索したらこの結果ときたもんだ。

「冷凍睡眠装置とか一体いつから実用段階に入ってたんだよ」というツッコミが脳内で起こっているが、まさか映画や漫画でしか見たことのなかったものが現実にあるとは思わず、未だにドッキリを疑っている。

 しかし、俺が怪物になったという現実離れした現実が、これが本当のことなのだろうと薄々理解させられる。

 それと現在の時間がわかったのは施設の中にまだ生きている機器があったためである。

 現在は北皇歴1872年――俺の生まれは1648年で軍人となったのは18歳であり、実験体となったのも同年――つまり機械が故障していない、もしくはこれが誰かの脚本でないのであれば、俺は200歳超えという超高齢者であり、無事帝国兵として職務を全うし年金暮らしのはずである。

 ところがその帝国が最早ない可能性が極めて高いことで俺の人生はお先真っ暗どころか「人生」はとっくの昔に終了し、残る余生は怪物生という有様だ。

 我が人生に一体どれほどの悔いがあったのやら。

 そもそもの話、帝国がまだあるのであればとっくの昔に目が覚めてなければおかしい。

 つまり勇ましき我が祖国はこれらの実験が行われていたことが把握できない状況にまで追い詰められたか、もしくは滅んだ――過去の情勢から鑑みて「帝国は滅んだ」と見る方が無難であろう。

 何せ周辺国全部が敵に回って大戦争という状況である。

 こんな三流映画的な人体実験を敢行するほど追い詰められていた帝国が残っていられるはずもなく、きっと「トンデモナイ新兵器」とやらで国ごと消し飛ばす羽目にでもなったに違いない。

 そうでもなければ冷凍睡眠装置の維持限界までぐーすか俺が眠っていられたことに説明がつかないのだ。

 俺が一体何をしたというのか?

 ちょっと軍に徴兵されて「君、いい体をしてるねぇ。今軍の研究で軍人の肉体を強化する実験をやってるんだ。薬を飲むだけの簡単な実験でリスクなしの素晴らしいものなんだけど、よかったらどうだい? ああ、これは定員いっぱいになったら締め切るもので、先着順だから後になって『やっぱりお願いします』と言われても枠がないなんてこともあるから。っていうかぶっちゃけ残り十名切ってるんだ。どうだい、やってみないかい?」なんて如何にもな勧誘に引っかかっただけである。

 同意書を書かされている時に思い留まるべきだった。

「気が付いた時には二百年後、化物になって冷凍睡眠から目覚めました」とか笑い話にもなりはしない。

 そう考えると今の状況がいっそ笑えてきた。


「ガッガ、ガッハ……」


 声を出したら泣けてきた。

 人語が喋れないんだよ……さっきもそれでがおがお泣いた。

「がおがお泣く」とはまた斬新な表現である。

 念の為に言っておくが「鳴く」じゃないし、涙は出てなかったがちゃんと「泣く」である。

 人間離れこそしているが、見た目も辛うじて「人型」と言えなくもない風貌で、ほぼ全身が硬い外皮に覆われ、尻尾を生やした身長三メートルオーバーの爬虫類と哺乳類の中間……いや、爬虫類寄りみたいなゴッツイモンスター。

 どうにかして自分の全身を確認したが人間だった頃の名残がほとんどない。

 あと地味に体毛が全くないことにショックを受けた……これは体毛がないだけであって決してハゲではないと言っておく。

 二足歩行で目が2つに鼻と口、それに耳らしきものがちゃんと2つあったところでこの甲殻のようなカチコチ体皮とご立派な尻尾のおかげで人型離れが進んでいる。

 だからと言って流石に切り落としたいとは思わない。

 だってすっげー痛そう……っていうか絶対痛い。

 おまけに二足歩行より両手も使った四足歩行の方が気持ち安定する――いや、手が若干長い気がするから「もしかして……」程度に思ってたんだが、軽く走ろうとすると重心の都合上手も使ったほうが安定した。

 この時は自分が完全に人間を辞めてることに否が応でも自覚させられた。

 だが時間が経てばこの現実を受け入れざるを得ない状況に嫌でも気がつくし、いつまでも現実逃避をしていては何も始まらない。

 そんなわけで「能力の方はどうなっているのか?」と試しに研究所の外壁を徐々に力を入れて殴り続けて見たところ――壁が凹み拳は無傷という結果には驚きを隠せなかった。

 加えて痛みに対してもかなりの耐性があるらしく、金属製と思われる扉を強めに殴っても痛みがない。

 試しにほぼ全力で殴ると扉が折れ曲がり、真っ暗な通路をバウンドしながら音を立てて吹っ飛んでいった。

 勿論拳は無傷で痛みもない。

 更に蹴りを壁に放ったところ轟音を立てて外壁が割れた。

 金属製の扉を壊し、コンクリートの外壁を粉砕する様に「やっべ、俺強くね?」とちょっと面白くなってしまったが、ここは施設内部――暴れるのは色々不味い。

 とは言え、この身体能力はまさに「遺伝子強化兵計画」の面目躍如と言ったところである。


(しかしこれだけ暴れても誰かが来る気配はなし……というか警報すら反応しないのか)


 まるでここには誰もいないかのような静まりっぷりに不安になってくる。

 本当に200年後の世界なのだろうか、と自分の両手を見る。

「遺伝子強化」と言うより「合成獣」とかの方がしっくりくるレベルの変化っぷりだが、能力面においては文句無しで合格であろう。

 問題があるとすれば被験者が人間の原型を留めていないことが挙げられる。

「がおがお」としか声が出ないとか「意思疎通に難あり」と評価せざるを得ず、一体この計画を推し進めた人物は遺伝子強化兵を一体どのように運用するつもりだったのか?

 答えを口にするまでもない、と察してしまう辺りに帝国の末期感が窺われる。

 そんな風に一人……もとい一匹で黄昏れつつ、汚れた鏡で自分の風貌を改めて確認する。


(これ絶対討伐対象とかになって狩られるタイプだよな)


 取り敢えず誰かに会おうとする考えは吹き飛んだ。

 巨大モンスターを討伐するゲームだったなら、贔屓目に見ても中ボスくらいにはなれそうな見た目なのだから仕方ない。

 加えて家族や友人、恋人……はいないので知り合いが一人として生きているわけがない。

 仮に生きていたとして、一体この面を下げてどうやって会えというのか?


(親父はともかく、姉……は大丈夫だな。となると心配するのは妹だけだが、姉さんがいるなら大丈夫か)


 ふと家族のことが気になったが、凡骨を絵に書いたような俺と違いうちの女は妙に強い……というよりハイスペックだ。

 母親に至っては「女傑」という言葉が似合いすぎたほどであり、姉はモデルをやっていた時期があるだけあって容姿に優れ、尚且学歴も自慢できるレベルという超人である。

「俺なんかが心配するまでもない」という結論に早々と至り、少しだけ気が楽になった。

 親父?

 どうせ女の尻でも追っかけて流れ弾に当たってくたばってるだろうよ。

 ともあれ、ここから生きて出ないことには何も始まらない。

 差し迫った問題として、この部屋の機器や電力がいつまで持つかは不明なので行動は早いほうがよいだろう。 

 そんなわけで取り敢えずぶん殴って壊れた扉から研究室を出たわけなのだが……小一時間ほど出口を探してみたところ、それらしいものは何も見つからなかった。

 電気の供給も俺が目覚めた部屋以外はどこも止まっており、真っ暗で狭い通路をおっかなびっくりのっしのっしと歩いている。

 地味に天井が低いせいで大きく前屈みにならざるを得ず、自然と両手両足で歩く羽目になっている。

 さらに歩く度に爪が床に当たってカッツンカッツンと音を立てており、この音が反響して雰囲気が出すぎて正直怖い。

 暗いことも相まってまるでホラーゲームのようである……というか、廃施設にモンスターというのはまんまホラーゲームである。


(照明がない視界不良の廃棄された軍施設に徘徊する怪物――どう見てもホラーゲームだよな)


 もっとも、やたら夜目が利くせいで割と普通に見えているのだが、やはり本能的に暗闇を恐れてしまうのは俺が元々人間だったせいだろう。

 そう思っていたのだが、恐怖心など気がついた時には何処かへ行っていた。

 まあ、兵士にしようとして体弄くり回しているのだから「怖くて動けません」とかあったら大問題である。

 多分その辺も何か弄くられているのだろうと深く考えないようにする。


(しっかし広いな、この施設)


 この体には通路は狭く感じるが、それに反して部屋の方はそこそこ広いものが多い。

 虱潰しに一つずつ部屋を当たっているが、未だに出口と思しき通路はなく、自分が迷子になったかのような錯覚に囚われる。

 正直に言うと多分錯覚ではなく、絶賛迷子中である。

 せめて人間の姿であった頃に内部を見て回れていたら良かったのだが、どうも記憶にある施設と今いる施設は別物らしく、見覚えのあるものが何もない。

 こうなると案内板が欲しくなるが、部屋や通路を探してみるがそれらしいものは一切見当たらず、研究のための設備や実験のサンプルと思しき何か、ボロボロの紙の資料の束、何かよくわからない電子部品といった細々とした物が見つかるばかりである。

 というか幾らそれなりに見えるからと言っても光源なしでの探索は無謀過ぎて効率が悪いにも程がある。

 あと文字を読むのが本当に辛く、何でもいいから明かりが欲しい。

 このままアテもなしに彷徨い続けて良いものかとしばし悩むが、考えるより体を動かすことの方がまだ得意な性分。

「何か役に立ちそうなものを持っていくため」ということにして、もうしばらくこの探検気分を味わうことにする。

 そんな具合に探索を始めて早速問題が発生。

 入手した道具が小さすぎる……いや、体が大きくなったために物が小さすぎてもの凄く扱いづらい。

 例えばライターを手にしたものの、サイズが小さすぎて使えなかった上、ムキになって着火しようとしたらあっさり壊れてしまい、この体の力加減が中々に難しく大きく息を吐いた。

 他にも懐中電灯を見つけたは良いのだが、親指と人差指で摘むように持つ他なく、電源が中々入れられないことに苛つき、力を入れすぎて破壊してしまうという結果には思わず苦笑い。

 なお、どれも電池が切れており使える物は一つもなかった。

「そりゃそうだ」と外殻とも言えなくないやたらと硬い肩を落とすと、俺はまたのっしのっしと研究所内を歩き回る。

 そして見つけた。

 いや、見つけてしまったと言うべきか?

 俺が目覚めた時に見た光景と同じ部屋――つまり、俺とは別の被験者がいる部屋だ。

 その作りは酷似しており、円形の部屋の中央に冷凍睡眠のカプセルがあり、その周囲に様々な機器やモニターが置かれ、外壁からは十数本のパイプが中心に向かい伸びている。

 パイプを踏み潰さないように注意しながら恐る恐る中心部へと近づく。

 すぐに俺は気がついた。

 冷凍睡眠装置は稼働しておらず、俺と同じ姿をした怪物がカプセルの中で眠ったように死んでいた。

 ただ呆然と立ち尽くす。

 自分もこうなっていたかもしれないと想像してしまったのだ。


(俺は、運が良かったのか?)


 だが果たしてこれを「運が良かった」と言って良いのか自問する。

 人として生を受け、怪物として生きることになった今、果たして「生き残った」ことは幸運か不運か判断がつかない。

 ただ考えることが増えてしまったことにお気楽ムードは鳴りを潜め、暗い気分で探索を続行した。

 そしてまた見つかった。

 結果として全部で8つの冷凍睡眠装置を発見することができたが、その全ては何らかの理由で稼働していなかった。

 カプセルが破損し干からびた被験者。

 失敗だったのか、明らかにおかしな細胞の変異を見せて朽ち果てた残骸。

 中には装置の外に出ていた者もいた。

 だが死んでいた。

 死因は不明だが、どうやらこの部屋から出ることができず、ここで息絶えたことは窺える。

 俺は、彼らとは離れた場所のカプセルの中にいた。

 これが何を意味するかは、今となっては断定はできない。

 所詮は憶測でしかない。

 しかし、それでも――


(俺は、運が良かったのだろうか?)


 繰り返しそう思ってしまうのは、きっと仕方のないことなのだろう。

 これ以上この場所を調べる気が起きず、何一つ持ち出すことなくその場から離れる。

 その日はもう、何もする気にはならなかった。

 とは言ったものの「今日」とやらがいつまでなのかは正確なところ不明であり、気分的なものである。

 一応日時を知ることができる機器はあるものの200年もの歳月が流れている。

 これが果たして正確なものなのかどうかは言うまでもなく、日付が変わる正しい時間なぞわかるわけもない。

 やる気はなくともやらざるを得ない状況下、しばし落ち込んだ後は再び探索タイムとし、せめて明るい材料がないものかと大きくなった体には狭い通路をのっしのっしとゆったり歩く。


(そうだ。何をするにしても、まずはここから出ないことには始まらない)


 そう、何をするにしてもまずは出口である。

 仮にここにまだ用があったとしても、また戻ってくればよいだけのことだ。

 曲がりなりにも軍関係の施設である。

 こんな体になったとしても、役に立つものはきっと残っているだろう。

 そんな具合に希望を胸に新たな扉を開けると、そこには半分以上が岩と土砂で埋まった状態の部屋に行き当たる。

 しばしその状態を観察して思う。

 ここ相当深い地下施設とかないよな?



主人公はゲーム「Evolve」に出てくるモンスター「ゴライアス」を灰色にした後、棘を無くして上半身を少しゴツくした感じを想像すると「大体そんな感じ」になります。

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― 新着の感想 ―
ゴライアスくんは基本にして奥義みたいなキャラだったから好きだよ
[一言] よく考えると「逆キャプテン・〇メリカ」やなあ(笑)。作者さんは意識されました?
[一言] evolveのやつみたいなかんじですかね?って質問しようとして最後まで読んだら正にその通りでびっくりした
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