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ロードリック Side.メルヴィン②

読んでいただきありがとうございます。

※今話もメルヴィン視点です。

『やあ。君が噂のメルヴィン・オーデンだね? ぜひ私の側近になってほし……』

『お断りします』


それがロードリックと初めて交わした会話。


オーデン伯爵家の次男である僕は、幼い頃から魔法が得意だった。


初歩魔法をアレンジして高火力にしたり、魔法の同時発動がいくつまでできるかチャレンジしたり、新たな魔法を創り出したりしていると、大人たちは驚愕の表情を浮かべながら「天才だ」と口にする。


そんなことを言われても「やってみたら出来た」という感覚しか僕にはない。

しかし、周囲の大人たちは違ったようで、このまま進めば魔術師団長の地位も夢じゃないなんて期待を向けられる。


だけど、僕自身はそんなものにさして興味はなかった。


だって、僕が魔法を使うのは僕自身のためだけだったから。

興味が湧いたから、どうなるのか知りたかったから、なんとなくやってみたくなったから……。

そんな他愛もない理由。

それなのに、周りはさも当然のように僕が魔術師団に所属することを望んでいる。


(面倒だなぁ……)


そんな僕が王立学園に入学してすぐのこと。

ロードリック第一王子が直接僕のもとへ訪れ、側近にならないかと声をかけてきたのだ。

もちろん即断った。


『それは……理由を聞いても?』

『面倒だからやりたくないんです』


僕は言葉を選ばずに思っていたままをロードリックへ伝えた。

すると、ロードリックは激昂するどころか大声で笑い出す。


『そのままの君でいいから、私の側近になってくれないか?』

『…………』


結局、第一王子直々の申し出を父が引き受けてしまい、僕はロードリックの側近として正式に任命される。


だが、それは思っていたより悪いものではなかった。

ロードリックが僕に何かを強制することはなかったし、僕がどんな態度を取ろうが全てを受け入れてくれたのだ。


『私はたまたま第一王子に生まれただけの凡人だから』


それがロードリックの口癖。

だから優秀な人材に助けてもらいたいのだと。


(凡人ねぇ……)


たしかに、目に見えて飛び抜けた才能も強烈なカリスマ性もない。

だけど……。


人誑(ひとたら)しは才能だよ)


なぜか放っておけずに手を貸したくなる……そんな天性の人誑し。

僕だってロードリックの側にいるうちに、いつの間にか絆されていったのだから……。


だが、十年前のあの日、ロードリックが僕の目の前で突然倒れてしまう。

すぐに王城へ運ばれたが、そのまま箝口令が敷かれ、何度も面会を求めたが会うことは叶わず……三ヶ月も経たない内にロードリックの死が公表された。


聖女の名を騙った『まがいもの』がロードリックを完治させると豪語し、王家から金を巻き上げ、その罪により処罰されたのだという。

つまり、ロードリックの死因はあくまで病死だが、それは『まがいものの聖女』の所為(せい)であると王家と神殿が触れ回ったのだ。


(ロードリックが死んだ……?)


呆気ない。あまりにも呆気なさ過ぎる永遠の別れ。

それと同時に自身の立場を突き付けられ、乾いた笑いが(こぼ)れる。


(何が側近だ……何が天才だ……)


いくら持て(はや)されようが、現時点で爵位も地位も何の功績も持たない僕では、病のロードリックに寄り添うことも何かしてやれることはないかと悩むことすら許されなかったのだ。


それに、どうにも腑に落ちないことがある。


(ロードリックはなぜ死んだんだ……?)


(やまい)によって人が死ぬことは特別でも何でもない。

僕の目の前でロードリックは倒れたのだから、何らかの病に罹っていた可能性は高い。もしくは毒物か……。

しかし、この国には聖女がいる。

平民ならばともかく、第一王子のロードリックが『まがいものの聖女』から治療を受けていた……。

王家が公表した内容をそのまま受け入れるのは無理がある。


当時の僕はロードリックを支持する派閥に所属しており、そんな派閥の力を借りて死の真相を探ろうとするも見事に空振りに終わってしまう。


理由は簡単。ロードリックが死んだからだ。


派閥はロードリックの人望により形成されたもの。

そこに僕自身が築いた人脈なんてものはない。

トップを失った派閥は瓦解し、残された者たちは新たなポジションを求めて奔走する。


ロードリックは病で死んだ。

元凶の『まがいもの』は処罰された。


全ては終わったことなのだからと、皆は僕に手を差し伸べてはくれない。


(ああ、なるほど)


人を動かし何かを得るには、やはり地位や人脈が必要不可欠であると気づいた瞬間だった。


(ロードリック。やっぱり君は凡人なんかじゃなかったよ……)


僕は魔術師団への勧誘を蹴り、魔塔への所属を希望した。

そして、この国に蔓延(はびこ)る病について研究を重ね、地位を築き、ロードリックの死の真相を今もなお探り続けている。


(だけどソフィは当時八歳。仮にソフィがまがいものの聖女だったとして、八歳の少女が王家から金を巻き上げる……?)


どうもピンとこない。

そもそも、どうやって聖女だと偽り王城に潜り込めたというのか。


(だったらソフィは本物……?)


しかし、僕が瘴気中毒で倒れた時、彼女が治癒魔法を使う素振りはなかった。


(もし聖女であることを隠しているなら、あれぐらいじゃ治癒魔法を使う理由にはならないか……。もっと大怪我でもすれば……)


そんなことを考えていると天井から吊るされたランプの光が明減し、ふっと消えてしまう。


「あ……!」


どうやらランプの中に設置された魔石の魔力が切れてしまったようだ。

僕は軽く背伸びをし、ランプから魔石を取り出して魔力を充填しようとして……。


「あれ?」


どうして魔法が使えないのだろう……と、そこで自身の首に嵌められた魔封じの首輪(チョーカー)の存在をようやく思い出す。


「そういえば魔力が封じられていたんだっけ?」


木箱の中で目を覚ましてすぐ魔力が封じられていることに気がついたが、それが首輪(チョーカー)のせいであることも、だいたいの仕組みもわかってしまった。


だからこそ、ついつい首輪(チョーカー)を後回しにし、いつの間にか忘れてしまっていたのだ。


(よっぽど僕が目障りになったんだろうなぁ)


魔力を封じ、廃棄の森へ捨てられる……僕がこんな目に遭う心当たりは大いにあった。


治癒の女神ファムラーシルを讃え、国中の聖女を有する神殿。

特に、王家を含む貴族の治療は聖女に頼りきりなため、神殿はかなりの権力を得ている。


そして、閉鎖的な国の方針も相まって、病や怪我の治療薬の研究そのものが我が国では進んでいなかった。

そんな状況の中、『聖女を必要としない治療方法』を魔塔主である僕がいくつも開発すれば、いずれ聖女の威信と必要性が揺らいでしまう可能性があるわけで……。


さらに、僕は聖女が扱う治癒魔法についての研究も始めていた。

これに関しては秘密裏に動いていたつもりだったが、どこからか情報が漏れてしまったのだろう。


(まさか神殿がこんな実力行使に出るとは思わなかったけど……あ!)


この家の元住人コーディも僕と同じ治療薬の開発者だ。

しかも、僕とは違い平民であった彼ならば、罪を(なす)り付けられて追放された可能性も……。


そんなことを考え始めてしまい、やはり魔封じの首輪(チョーカー)の件はどんどんと僕の頭の片隅に追いやられてしまうのだった。

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