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彼女の正体は? Side.メルヴィン①

読んでいただきありがとうございます。

※今話はメルヴィン視点です。

差し伸べられたのは少女の細くしなやかな手だった。

その手を掴んだ僕は木箱の中から引っ張り出され、廃棄の森に作られた罪人たちの集落へ辿り着く。


(ソフィに着いてきて正解だったなぁ)


僕の判断基準は興味を惹かれるか否か。

いや、一度気になり始めるとそのことで頭が埋め尽くされ、納得のいく答えを見つけるまで僕は止まれなくなってしまうのだ。


だから、廃棄の森に捨てられた自身の状況よりも、ソフィアのことが気になって仕方がなかった。


(だって、魔物と瘴気が蔓延(はびこ)る廃棄の森でどうやって生きているのか……そんなの気になるに決まってるよね)


そして、今はコーディ・ウィットロックの研究内容が気になって気になって……。

結果、ソフィアに頼み込んで元コーディの家に寝泊まりする許可を得た。


それからは寝具や生活用の魔石やらを全て彼女に準備してもらい、ついでに食事も運んでもらい、僕は快適な状態でコーディの遺した研究ノートに没頭している。


(うーん……)


彼の研究ノートに書かれていたのは、この森に自生する様々な薬草の特徴や効果と『魔物素材』と呼ばれる原料の数々について。

魔物素材は薬にも魔導具の材料にも使われるという、なんとも使い勝手のよさそうなものだった。


ソウルバーク王国は結界によって魔物の侵入を防ぎ、他国との交易にも規制がかかっているせいで魔物素材は全くと言っていいほど流通していない。

その代わり、鉱山に囲まれているため魔石を含む鉱石などの資源は豊富である。


(コーディは集落(ここ)で新薬の開発をしていたわけじゃなさそうだね)


新たな薬の開発に着手した内容はノートのどこにも見当たらず、見つけたのはコーディの筆跡ではない数々の調合レシピ……。

つまり、保管庫に並べられた薬はコーディが調薬したもので間違いないが、別の誰かが開発した調合レシピを元に作られたものであるということ。


(なぁんだ……)


期待はずれではあるが、今思うと予想できた結果でもあった。

保管庫内の薬瓶は自身の研究の成果を誇るというよりも、誰かが使うために並べられていたのだから。


(きっと、ソフィのため) 


彼女曰く、コーディの背丈は僕より少し低いくらいだという。


それなのに、ちょうどソフィアの目線の高さに合わせて並べられていた薬瓶たち。

おそらく、年齢的にもソフィアがこの集落に一人残されることをコーディは予想していたのだろう。


(ソフィってば大事にされていたんだね)


コーディの過去を聞いたソフィアが、信じられないといった様子で驚いていたのがいい証拠だ。

現に僕も、噂で聞いていたコーディ・ウィットロックの人物像との違いを感じていた。


その時、腹から空腹を訴える音が鳴る。


「あ………」


僕は大きく息を吐いて椅子から立ち上がると、同じ姿勢を取り続けていたせいで凝り固まった身体を伸ばした。


そして再び座り直し、ダイニングテーブルに置かれたままのバゲットサンドにようやく手を伸ばす。

(かじ)りつくと肉の旨味と甘味のあるタレが口の中に広がり、野菜のシャキシャキ感がいいアクセントになっている。

バゲットは少々硬かったが、空腹だった僕は夢中で咀嚼していた。


ただ、肉の食感がこれまで食べたことのないもので、何の肉なのかが少しだけ気になる。


(明日ソフィに聞いてみよっと)


胸元まで伸びた栗色の長い髪に、アメジストを思わせる薄紫の瞳を持つ少女。


最初はただの興味で、自分の知的好奇心を満たすために彼女に取り入った。

だけど、森に捨てられた見知らぬ男をソフィアは受け入れ、手厚く看病までしてくれたのだ。


『拾ったからにはちゃんと面倒をみるのは当たり前のことでしょ?』


僕をペットと同列に扱う彼女を思い出し、再び笑いが込み上げる。


面倒見がよくてお人好しで無防備なソフィア。

おそらく本人の性質もあるが、この集落で長年暮らしてきた影響も大きいのだろうと推察する。


(アレが罪人ねぇ……)


僕の思考は、かつて集落(ここ)で暮らしていた罪人たちへと移行していく。

ソフィアから聞いた残りの二人の名前にも心当たりがあったからだ。


マーサ・エインズワースは、五十年近く前に当時の第二王子の婚約者だった元侯爵令嬢。

聖女を害そうとした罪を第二王子が暴き、婚約を破棄されたマーサは北の修道院へ送られ、聖女と第二王子は真実の愛で結ばれた……という史実に基づいた物語が今でも劇団の人気演目になっている。


そして、我が国初の女性騎士団長として名を馳せたアンナ・アッシャーだが、クーデターを企む組織との繋がりが露見し、『堕ちた騎士団長』と呼ばれ国の歴史に名を残していた。


(だけど、ソフィは……)


彼女がこの森に捨てられたのは十年前だと言っていた。

僕の記憶にある限り『ソフィア』という名前の重罪人に心当たりはない。

しかし、十年前に起きた『事件』にならば充分すぎるくらい心当たりがあった。


(ロードリック……)


その名とともに、輝くような金の髪に柔らかく細められた紅い瞳と穏やかな笑顔を思い出す。


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