表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/44

木箱の中身

読んでいただきありがとうございます。

※本日4話目の投稿です。

よろしくお願いいたします。

私が廃棄の森に捨てられて十年が経った。

幼かった私も十八歳になり、現在も廃棄の森の集落で暮らしている。


しかし、三年前にアンナとコーディが立て続けに亡くなり、一年前にとうとうマーサまでも亡くなってしまった。


しばらくは寂しさに耐えきれず泣いてばかりの日々だったが、時間をかけてようやく気持ちの整理がつき、今ではペットたちのおかげで寂しさも紛れつつある。

きっと、これからも私はこの集落で暮らし、いずれマーサたちのように老いていくのだろう。

それほどまでに森での暮らしが当たり前になっていた。


──だが、『変化』は何の前触れもなく突然現れる……。



(なんだろう……?)


今日は天気がいいからと私は薬草採取に向かい、その帰りに廃棄場を通りかかったところ、見慣れない大きな木箱を発見する。


気になって木箱に近寄ると、それは私一人では抱えきれないくらいの大きさで見るからに頑丈な作りをしていた。


(うーん……)


廃棄場に置かれているということは、おそらく森の外……ソウルバーク王国から持ち込まれたものだと思われる。


一体何が入っているのだろうか?


しばらく悩んではみたものの、どうにも好奇心に駆られた私は蓋を開けて中身を確認してみることにした。

危険なものが入っている可能性ももちろんあるが、その時は逃げればいい。

そもそも森の中は危険で溢れかえっている。


(それに、木箱(これ)は大丈夫な気がするのよね……)


そんな森で長年暮らしている経験の賜物か、私は危険かそうではないかが何となくわかる勘のようなものが磨かれていた。


(日持ちのする食料品だと嬉しいんだけどなぁ)


廃棄場といえば罪人が捨てられる場所だが、わざわざ木箱に人を詰めるなんてことはしないだろう。

そんなことを考えながら蓋を開けてみると、艶のある黒髪の青年が手足を折りたたみ、三角座りをした状態で箱の中に収まっていた。


(え………?)


秒で予想が裏切られ、固まる私。


すると、黒髪の青年が顔を上げ、ゆっくりとそのまぶたひらかれる。


途端にドキリと心臓が跳ねた。

その整った顔立ちに見惚れ、琥珀色の瞳とばっちり目が合ってしまう。 


「こんにちはお嬢さん」

「へ?」

「いい天気だね」


まるで隣人と偶然会ったかのような気安さで箱の中から声をかけられた。


「そ、そうですね」


混乱したまま私もよくわからない返事をする。


「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど……ここってどこなのかなぁ?」


木箱の(ふち)を両手で掴み、ひょこっと顔を出した青年は、混乱する私のことなどお構いなしに会話を続ける。

その首には黒のチョーカーが巻かれていた。


「ここは廃棄の森ですけど……」

「あー……そうなんだ。やっぱりそうじゃないかと思ったんだよね」


そう言って、木箱から顔だけを出してきょろきょろと辺りを見回している青年。


そんな彼の反応に私は違和感を覚える。

なぜなら、この森に捨てられる人間は罪人であるはずだからだ。

それなのに、目の前の青年はなぜか捨てられたことを理解していない様子で……。


「あの、あなたは罪を犯してここに捨てられたんじゃないんですか?」

「んー……どうやら僕はさらわれたみたいでね。気づいたら木箱に詰め込まれてこの場所にいたんだよ」

「ええっ!?」

「それでどうしようかなぁって考えていたら君が現れて……あっ! 僕の名前はメルヴィン・オーデン。ソウルバーク王国で魔術師をやっているんだ」

「魔術師……?」

「そう。魔術師って言っても研究がメインなんだけどね」

「…………」


攫われて捨てられた割には悲壮感も危機感もない様子のメルヴィン。

逆に、私のほうがあまりに突飛な情報の数々にパニックになってしまう。


(罪人じゃないのに捨てられて……そんなことってあるの!?)


そこまで考えたところで、私はハッと気がつく。


(危ない危ない。この話が嘘かもしれないのに……)


突拍子のない話でこちらを混乱させ、判断力を失わせてから目的を達成するのが詐欺の常套手段だと教わった。

メルヴィンが詐欺師だという可能性だってあるのだ。


そう考えると、目の前の彼がどうにも胡散臭く思えてくる。


「それにしても、こういう狭い箱の中って意外と落ち着くんだね。僕、嫌いじゃないなぁ」

「そうですか……」


私は会話をしながらじりじりと後退していく。


「あれ? どこに行くの?」

「あ……えっと……用事を思い出したので家に……」

「えー……せっかく仲良くなれたのに」


残念そうに眉尻を下げるメルヴィン。

たった数分にも満たない会話をしただけで仲良し認定されたことに私は驚く。


「そっかぁ……もう帰っちゃうのかぁ。僕、これから一人でどうしよう……」


へにょりとさらに眉尻は下がり、心無しか琥珀色の瞳まで潤んでいるように見える。

おそらくメルヴィンは私より年上であるはずなのに、その表情はまるで捨てられた子犬のようで……。


(うっ………!)


そんな彼の姿を目の当たりにした私は、湧き上がる衝動を必死に抑え込んでいた。


(ダメよ! 何でも拾ってきちゃダメってマーサさんにも散々注意されたでしょ!)


生き物を拾ってくるたびに、元の場所に返してきなさいと叱られた日々を思い出す。

マーサが亡くなって一年が経ち、彼女のいない寂しさを埋めるように、私は言いつけを破って生き物を連れ帰り面倒をみるようになってしまっていたのだが……。


「ねぇ、僕も一緒に行っちゃダメ?」


こてんと首を傾げ、琥珀色の瞳が何かを訴えるようにじっと私を見つめる。


「あの、その……」


さらに上目遣いでうるうると私を見つめて……。


「ご、ごめんなさい!」


その視線の圧に耐えきれず、私はくるりとメルヴィンに背を向けた。


(さすがに男の人を拾うのは無しだと思うの!)


しかも、素性も何もわからない木箱に入った人……。

いや、この森でまともな素性を求めるのは違うとわかっている。

それでも自身の安全のため、私は心を鬼にして……。


「へくちゅっ!」


振り返ると、メルヴィンがズズッと鼻をすすり、手の甲でゴシゴシと鼻をこすっている。

可愛いくしゃみだな……なんて思って凝視していると、今度は「きゅるるる〜」と何とも頼りない音が響いた。


「そういえば何も食べてなかったなぁ」


少し照れたように笑うメルヴィン。

可愛いお腹の音だな……なんて思うと同時に、彼はいつから食べていないのだろうかと心配になってしまった。


「あ………」


そして、再び琥珀色が私を捉え、(すが)るように見つめられると完全に身動きが取れなくなる。


(どうしよう……?)


このまま置き去りにすれば、メルヴィンは魔物に襲われて命を落としてしまうかもしれない。

それに、彼の話が全て本当だったとしたら、罪人でもないのに私が見捨てたせいで……。


なぜか庇護欲とともに罪悪感まで湧いて出て、私の頭の中をぐるぐると回る。


(ああっ……もうっ!)


結局、私はみずから木箱に近づき、その中に手を差し伸べるのだった。



明日からは(ストックが切れるまで)毎日1話ずつの投稿になります。

朝の8時頃を予定しています。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ