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神殿と内通者

読んでいただきありがとうございます。

※この話の前話(21話)で、改稿前の文章を投稿してしまいました。(現在は改稿したものを公開中)

申し訳ありません。

話の繋がりがおかしいな?と感じましたら、お手数ですが前話のご確認をお願いいたします。

「ちょっと、メルヴィン!」

「だって、ソフィってば無防備すぎるんだもん。だったら僕が他の奴らに言い聞かせないと」


何を言い聞かせるのかは不明だが、とりあえず後ろから抱きついてくるメルヴィンの腕をぐいっと押し返す。


「あの、メルヴィ……じゃなくって、魔塔主様は冗談を言ってるだけなんです!」


リックとダレルに向かってそう訴えてみるも、二人からは「ははっ」と乾いた笑いを返される。

そして、研究の続きがあるからと言ってリックとダレルはそそくさと立ち去ってしまった。


(あ……)


あっという間の出来事で、彼らを呼び止めることもできず……。

その場に残された私はキッとメルヴィンを睨みつける。


「もう! メルヴィンったら、どうしてあんなことを言ったの!?」

「えー? 僕は事実しか言ってないよ」


うっかりメルヴィンを名前で呼び、頭まで撫でてしまったのは私が悪い。

だけど、誤解を解くどころか追い打ちをかけるような真似をしたのはメルヴィンだ。


「きっと誤解されちゃったわ……」

「ソフィは僕と誤解されるのがそんなに嫌なの?」


なぜかメルヴィンがムッとした表情(かお)になる。


「だってメルヴィンの弟子じゃないと私は魔塔にいられなくなるじゃない」


魔塔では様々な研究や実験が行われているため、特別な許可を得た者しか中へ入ることはできない。

だからこそ、私のような罪人が身を隠すにはぴったりなのだとメルヴィンから説明を受けていた。


それを弟子ではなく恋人だから魔塔に入り浸っていると判断されれば、魔塔から追い出されてしまうかもしれない。


「んー……それはそうなんだけど……。ソフィが僕の特別だって言っておけば、僕とソフィがずっと一緒にいても変に思われないでしょ? まだ犯人がはっきりしていないし、なるべく単独行動は控えてほしいんだよね」

「犯人?」

「僕を廃棄の森へ捨てた犯人」

「………っ!」


その時、誰かが階段を下りてくる足音が耳に届き、私は思わず口を(つぐ)む。


「魔塔主様、ソフィアさんの部屋の準備が整いました」

「ああ、クローディア。ありがとう」

「いえ。ついでに魔塔主様宛の郵便をいつものテーブルの上に置いておきましたので後ほどご確認を」

「わかった。君も研究があるだろうし、もう(さが)っていいよ」

「かしこまりました」

「それじゃあ行こうかソフィ」


そう言って、メルヴィンは私の左手を掴んで歩き出す。


「あ、あの、クローディアさん、ありがとうございました!」


私はクローディアに慌ててお礼を言い、メルヴィンに引っ張られるようにして階段を上っていく。

そして、連れていかれたのはメルヴィンの研究室だったのだが……。


「何これ……」


部屋の壁に沿って設置されたいくつもの本棚。

そのせいで研究室内が狭く感じられ、圧迫感がすごい。


しかし、問題は本棚に並んだ資料らしき本が何冊も抜かれていて、その抜かれたであろう本が床に平積みされていることだ。

そんな平積みの本の山があちこちに点在し、本以外にも脱ぎ捨てられた服や紙の束や何の用途に使うのかわからない薬瓶やらが床に落ちていて……。


「こんな散らかった部屋で研究しているの?」

「大丈夫大丈夫。このフロアの全部の研究室が僕のものだからさ。散らかってきたなーって思ったら別の研究室に移動しているんだ」

「…………」


出たな、職権乱用……。


「ここは隣が執務室になっているんだよ。来て」


メルヴィンが研究室の奥にある扉を開け、私を手招きする。 

言われるがまま中へ入ると……。


「あ………」


執務机と、来客用のソファとテーブルだけが置かれたシンプルな部屋。

そもそも物が少ないこともあるが、散らかった研究室に比べて執務室はとてもキレイに保たれていることに驚く。


「この部屋は書類仕事に使ってるんだけど、重要な書類をなくさないようにクローディアが時々掃除をしてくれているんだ」


クローディアさん……そんなことまで……。

魔塔主(メルヴィン)の補佐がものすごく大変そうで、つい同情してしまう。


「それで、さっきの話の続きだけど……メルヴィンは魔塔から攫われて廃棄の森へ連れていかれたの?」


隣に座ろうとするメルヴィンを何とか向かいのソファに座らせ、話の続きを促す。


「ううん。あの時は王都から少し離れたメイブっていう街に馬車で向かっていたんだよね。その途中で意識がなくなって……気づいたら木箱の中だったってわけ」


話を聞きながら、木箱の蓋を開けてメルヴィンと目が合った瞬間を思い出した。


「僕がメイブに向かうことも、どの馬車に乗っているのかも、僕を攫った犯人たちは把握していた」

「だから犯人は魔塔の中の誰かってことね?」

「いや、正確に言うと主犯はおそらく神殿関係者で、奴らに僕の情報を流した内通者がこの魔塔内にいるんだと思う」


メルヴィンの首に巻かれていた魔封じの首輪(チョーカー)が、神殿が管理する『神の遺物』であったこと。

犯人たちがメルヴィンに直接手を下さず、廃棄の森に捨てたこと。

この二つが理由だとメルヴィンは続ける。


この国では死刑が禁じられているため、廃棄の森への追放刑が存在する。

しかし、それは殺人そのものがこの国では起こらないという意味じゃない。

孤児院にも、両親が殺されてしまったせいで孤児となった子供もいた。


魔法を封じられ、意識を失ったメルヴィンならば簡単に殺せたはず。

けれど、わざわざ木箱に詰めて廃棄の森へ運んだ……。

その理由が『信仰』にあるとメルヴィンは考えているようだ。


「どうやって意識を失ったかは覚えてないの?」

「んー……実は徹夜明けだったから、馬車の中でウトウトしちゃってて……」


それって意識を失くしたんじゃなくて、居眠りしてたんじゃ……。


そう思ったりもしたが、さすがに木箱に詰め込まれれば目が覚めるだろう。

居眠りをしている隙に薬で深く眠らされたか、それ以前の食事に薬が盛られていたのか……。


「まあ、そういうわけだからさ。魔塔の中であってもソフィが聖女だとバレないように気をつけてほしいんだ」


つまり、内通者に私が『まがいものの聖女』だとバレてしまえば、その情報は神殿にも伝わってしまうということ。


「そうよね……。私が生きていることが知られたら、また廃棄の森へ連れて行かれてしまうものね」

「いや、逆だよ」

「え?」

「ソフィの生存が神殿側に伝われば、ソフィは囚われて一生神殿の管理下に置かれる……。神殿はもう二度とソフィを手放さないだろうね」

「それって……」


言っている意味がわからず、黙ったままメルヴィンの言葉の続きを待つ。


「この国では、もう十年以上新しい聖女が誕生していないんだ」



次回は22日(月)に投稿予定です。

よろしくお願いします。

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