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魔塔主の弟子②

読んでいただきありがとうございます。

うっかり改稿前の文章を投稿してしまい、訂正したものを再度投稿いたしました。(16:35)

(朝に読んでくださっていた方はすみません)

「こちらが食堂です。一階には食堂と談話室が、二階には図書室があり、全て共用スペースとなっております。食堂は朝六時から夜九時までなら何時でも利用可能ですが、食事を自室へ持ち込むことは禁じられておりますのでご注意ください」

「研究に熱中し過ぎて部屋から出てこない奴が多くてさぁ。生存確認のためのルールなんだよね。ほら、食堂に顔を出さない日が続くと食べてないってわかるでしょ?」


ハキハキと淀みなく説明をしながら魔塔内を案内してくれるクローディアと、補足説明を入れてくれるメルヴィン。

そんな二人のあとを私はついて歩いている。


「二階の図書室にはかなりの数の蔵書がございます。しかし、本を借りたまま返却をしない者がほとんどですので必要な資料があれば購入をオススメします」

「そうなんだよ〜。借りたら借りっぱなしの奴ばっかりでさぁ」

「魔塔主様も二十冊以上が借りたままになっておりますが?」

「…………」


上司であるメルヴィンに臆することなくビシッと告げるクローディア。

その背筋はピンと伸び、歩く姿勢はブレることなく、仕草の一つ一つが洗練されている。


(まるでマーサさんみたい……)


きっと彼女もマーサさんと同じ貴族出身なのだろうと予想がついた。


「三階より上は魔塔に所属する魔術師たちの私室と研究室になります。今回は急でしたのでソフィアさんには空いている六階の部屋を使ってもらいま……」

「あ! 待って待って。三階にも一部屋空いてるよね? そこにソフィを案内してくれる?」


途端にクローディアの眉間にシワが寄る。


「三階は魔塔主様がご自身専用エリアになさった場所では?」

「だからだよ。ソフィは僕の研究に必要不可欠だからね。すぐ側にいてくれたほうが色々と都合がいいんだ」

「……わかりました」


渋々といった様子で返事をするクローディア。

しかし、次の瞬間には切り替えたように表情も声のトーンも元に戻る。


「それでは部屋の準備をしてまいりますので、ソフィアさんの案内はお任せしてもよろしいですか?」

「うん。よろしくー」


そして、クローディアは一礼すると、私たちに背を向けて階段を上っていく。


(すごい……)


自由奔放なメルヴィンの補佐を務めているだけあって、不測の事態にも対応し慣れている。


(優秀な人なんだなぁ)


去っていくクローディアの背中を見つめながらそんなことを考えていると、ひょいっとメルヴィンが私の顔を覗き込んだ。


「ソフィの部屋を勝手に決めちゃってごめんね? 嫌じゃなかった?」

「別に嫌じゃないけど……。でも、魔塔主専用エリアに私がお邪魔しちゃって大丈夫なの?」


先ほどのクローディアの反応を見るに、メルヴィンが無茶を通しているんじゃないかと思ったのだ。


「大丈夫大丈夫。研究の邪魔をされたくないから僕が勝手に三階を独り占めしてるだけだし」

「…………」


それは職権乱用なんじゃ……。


「そういえば、魔塔主なのにメルヴィンの部屋は最上階じゃないのね?」


なんとなく偉い人ほど上の階に部屋があるイメージだったので、三階という中途半端な階が少し意外だったのだ。


「歴代の魔塔主は最上階の部屋を利用してたみたいだけど、僕は遠慮させてもらったんだ」

「そうなの?」

「だって食堂は一階なのに部屋は最上階だなんて不便すぎるでしょ?」

「…………」


どうやら(まご)うことなき職権乱用のようだ。


その時、誰かの言い争う声が階段の上から響く。


「黙れ。バカ」

「あーっ! 俺のことバカって言ったぁ!」

「バカをバカと呼んで何が悪い?」

「また言ったな? 謝れよ……って、えっ?」


言い争いながら階段を下りてきた二人の青年は、メルヴィンの姿を見つけるなり目を丸くする。

そして、背の低い赤髪の青年がメルヴィンを指差しながら叫んだ。


「魔塔主サマじゃん!!」


その瞬間、背の高い藍色髪の青年が赤髪の青年の頭を(はた)く。


「うるさい。あと、魔塔主様を指差すな」

「痛ってぇ! 魔塔主サマ! こいつが俺のことを殴りましたよ!」

「軽く(はた)いただけだろ。バカ」

「またバカって言ったな! 魔塔主サマ! こいつが俺のことをバカって言いました!」

「そうだよねぇ。リックはちょっとおバカなだけだよねぇ」

「ほら! 魔塔主サマもこう言ってんだろ! ちゃんとバカの前に「お」を付けろよな!」

「…………」


言い争いを続ける二人の登場に、どうすればいいのかわからず固まる私。

すると、赤髪の青年とばっちり目が合ってしまう。


「あれ? この子って……もしかして魔塔主サマの新しい弟子?」

「そうだよ。ソフィアって言うんだ」

「それじゃあ、俺の(おとうと)弟子になるんじゃん! ん? 女の子だから妹弟子?? ……まあ、いいや。俺の名前はリック。よろしくな」

「ソ、ソフィアと申します。よろしくお願いします」


早口で捲し立てるリックになんとか挨拶を返す。


「そんで、こっちの背が高いのがダレル」

「ダレルさんも、よろしくお願いします」

「ああ」

「こいつはめっちゃくちゃ陰険だからな。ソフィアもあんま関わんないほうがいいぞ」

「おい」


ダレルと呼ばれた紺色髪の青年とリックが再び睨み合う。


「ダレルもリックも僕が拾ってきた弟子なんだけど、かなりの問題児でね」


どの口が言うんだろう……と思いながら、私はメルヴィンに向かって口を開く。


「メルヴィン。問題児だなんて言い方はよくないわ」

「あ! そっか……そうだよね。ごめんねソフィ。怒らないで」

「これくらいで怒らないわよ」


そのまま甘えるように差し出されたメルヴィンの頭をよしよしと撫でてやる。


「あのー……」


おそるおそるといった様子でリックに声をかけられ、睨み合っていたはずの二人が私たちを凝視していることに気がついた。


「えっと……ソフィアは魔塔主サマの恋人ってこと?」

「は……?」

「だって魔塔主サマを名前で呼んでるし、頭撫でてるし……」


そう指摘され、私の頬はみるみる熱を帯びていく。


ここは誰の目もない廃棄の森ではなく魔塔の中。

しかも、組織のトップであるメルヴィンの頭を撫でるなんて……。


「ち、違うんです! その、誤解で……えっと……」


慌てて否定しようとするも、なんと言って誤解を解けばいいのかがわからず、私は言葉に詰まってしまう。


「うん。恋人じゃないよ」


すると、メルヴィンがさらりと助け舟を出してくれた。

その言葉にホッとしたのも束の間、私の背後からメルヴィンの両腕がするりと伸び、きゅっと抱きしめられるような形になる。


「ソフィは僕の特別なんだ。だから触らないでね」


次回は9/20(土)に投稿予定です。

よろしくお願いします。

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