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違和感

読んでいただきありがとうございます。

※ソフィア視点に戻ります

※本日は2話投稿します。


「ねぇ、ねぇ」

「う……ん……」

「起きてよ、ソフィ」

「ふぇ?」


(まぶた)を開けた途端に、メルヴィンの満面の笑みが視界に入って……。


「昨日のバゲットサンド美味しかったよ。あれって何の肉?」

「…………」


たしか、昨日の朝も同じ光景を見たような……。

まさにデジャヴ。


だが、昨日とは確実に違う箇所がある。


「待って、ここ私の寝室なんだけど?」


前回は寝室をメルヴィンに譲ったため、仕方なく私はダイニングの床で寝ていた。

だから、寝室から出てきたメルヴィンが、寝ている私の顔を覗き込むのは仕方がなかったのかもしれない。


だけど、昨夜からメルヴィンはコーディの家に寝泊まりしていたはずで……。


「そんなの僕は気にならないから大丈夫だよ?」

「そこは気にしなくちゃダメでしょ!?」


この集落の家にはそもそも鍵が付いていない。

だからといって、家主の許可もなく出入りするのはよくないとメルヴィンにお説教をする。


「でも、ペットの聖獣たちは勝手に出入りしてるってソフィが言っていたから」

「…………」


まさかの自身をペットと同列扱い。


「それに、お腹が空いたから朝ごはんも作ってほしくって」

「…………」


しかも、餌を自力で確保するペットたちより手が掛かる。


「あと、ランプの魔石が切れちゃったからソフィに充填してもらおうと思ったんだ」

「…………」


なぜ私はこんな厄介な男を拾ってしまったんだろう……。


とりあえず、私の家に入る時はノックと声かけをするようメルヴィンに約束させ、私は身嗜みを整えてから朝食の準備にかかる。


「美味しかったよ。ソフィ」

「それはよかったわ」


朝食を終え、ダイニングテーブルを挟んでメルヴィンと向かい合って座る。

そして、溜息を吐きながらメルヴィンに話の続きを促した。


「それで、バゲットサンドがどうしたの?」

「挟まっていた肉の種類が知りたいんだ」

「あー……あれは魔物の肉よ」

「えっ!? 魔物って食べられるの?」


そう驚いたあと、メルヴィンはハッと何かに気づいた表情になる。


「まさか……」


そして、テーブルの下で(くつろ)いでいるムィちゃんを見つめて「先輩……」と切ない声で小さく呟いた。


「ちょっと! ムィちゃんは魔物でも食用でもないわよ!」

「あ、そっか。じゃあ……」

「ピィちゃんも違うから!」


グリフォンのピィちゃんに視線を向けたのは「鶏肉っぽかったから」と謎の言い訳をするメルヴィンを睨みつける。


「それじゃあ魔物の肉ってどうやって手に入れるの?」

「狩るのよ」


と言っても、私は攻撃系の魔法は使えず、武器を使って戦うことも難しいため、罠を仕掛けて魔物を捕獲している。

元騎士だったアンナに罠の作り方から仕掛けるコツ、魔物の解体方法まで教わったのだとメルヴィンに説明をした。


「余った魔物素材は買い取ってもらえばいいし」

「魔物素材!?」

「そう。毛皮とか角とか骨とか……魔物や部位によって価値は様々なんだけどね」


魔物素材と聞いた途端に瞳をキラキラと輝かせるメルヴィン。

どうやらコーディの研究ノートにも魔物素材について記されていたらしく、この話題をきっかけにメルヴィンから怒涛(どとう)の質問攻めが始まってしまう。


「ちょ、ちょっと待って! 私はそこまで魔物素材に詳しくないから!」


琥珀色の瞳がギラギラへ変化し、知的好奇心を爆発させるメルヴィンに慌ててストップをかける。

まだ出会ってたったの二日だが、何となくメルヴィンの性格がわかってきたように思う。


(メルヴィンはきっと『研究馬鹿』ってやつね……)


十年前、病床に伏せっていたロードリックとの会話を思い出す。


『あの塔? あれは魔塔と呼ばれていて、研究馬鹿な魔術師たちがいるところだよ』

『研究馬鹿? それって悪口なんじゃ……?』

『まさか! 優秀過ぎて興味のあること以外には見向きもしないっていう意味だからね? 私の友人にも研究馬鹿が一人いるんだよ』


そう言ってロードリックは愉しげに笑う。


一ヶ月にも満たない期間だったが、ロードリックは王族らしからぬ気安さで私と接してくれていた。


(メルヴィンは(自称)魔塔主だし、かなりの研究馬鹿のはず……あっ!)


そこでようやくメルヴィンが魔術師であることも思い出した。


「ねぇ、そんなに知りたいなら魔法で狩りを手伝ってくれない?」


そうすればメルヴィンは魔物素材を手に入れることができ、私も狩りが楽になる。

一石二鳥な思いつきをメルヴィンに提案してみたのだが、返ってきたのは予想もしない言葉だった。


「あー……僕、今は魔法が使えないんだよね」

「え?」

「この森に捨てられた時に魔力が封じられちゃったみたい」


そう言いながら、メルヴィンは自身の首に嵌められた首輪(チョーカー)を指先でトントンと叩く。


「何それ?」

「魔封じの首輪(チョーカー)だよ。ただ、出回っている医療用の魔封じの腕輪とは違うものだけど」

「医療用の腕輪……?」


メルヴィンの言葉の意味がわからず困惑する私。


「そっか、十年前はまだ開発されていなかったね」


そのままメルヴィンが説明を始める。


魔封じの腕輪とは、『魔力過多症』を患う子供たちのためにメルヴィンが開発した医療用の魔導具なのだという。

普通は身体の成長に合わせて徐々に魔力が増えていくものだが、幼少期に一気に魔力量が増えてしまう病を魔力過多症と呼ぶ。

そして、溢れ出る魔力をコントロールできずに、自身や周りの人々まで傷つける魔力暴走を引き起こすのだ。


だが、メルヴィンの開発した魔封じの腕輪を装着していれば、溢れ出す魔力を腕輪の魔石が吸い込み、魔力暴走を事前に食い止めるのだという。


「だけど、この首輪(チョーカー)は僕が開発したものとは全くの別物。おそらく遺跡から発掘された神の遺物……それに手を加えて改良したものなんだと思う」

「神の遺物……」


ぽつりと呟いた自身の言葉が部屋に響く。


神の遺物とは各地に存在する遺跡から時折発掘される魔導具の総称で、女神ファムラーシルの遺物として神殿が管理と保管をしていたはず……。

十年前、神官から説明された内容を思い出しながら私は言葉を返す。


「それじゃあ、神殿の関係者がメルヴィンに首輪(チョーカー)を嵌めたってこと?」


途端にピリッとした空気が流れた……気がした。


(え?)


思わずメルヴィンの顔に視線を向けるが、彼の表情に変化はない。

一瞬の違和感……。

だが、その違和感の正体を掴むより先にメルヴィンが口を開く。


「うーん……。誰かが改良しちゃってるし、神殿関係者だと断言はできないんだけどねぇ」

「でも、このままだとメルヴィンは魔法が使えないってことよね?」

「少し解析すれば首輪(チョーカー)の解除は可能だと思うんだけど……。それより魔物素材のほうが僕は気になるし……」

「どう考えても魔法が使えるようになるのが先でしょ!?」


首輪(チョーカー)の解除を後回しにする意味がわからない。


どうやら、メルヴィンにとって首輪(チョーカー)の解除はやればできるが面倒くさいもので、より興味を惹かれる魔物素材のほうが優先度は高いということなのだろう。


そのまま説得という名の会話は続き、先ほどの些細な違和感の痕跡(こんせき)跡形(あとかた)も無く消えてしまうのだった。


もう1話投稿します。

よろしくお願いいたします。

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