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君と、もう一度。  作者: れんティ
初詣編
82/126

年越し:其の一

 久しく耳にしていなかった音が、二重奏となって俺の耳に届いた。千鶴も手元から顔を上げたから、片方は千鶴の携帯だろう。

 鳴ったのは、文芸部も連絡に使用しているトークアプリの通知音。誰からかは分からないが、こんな時に送ってくるのは良樹くらいだろうか。それにしたって千鶴にまで連絡する用事なんて、思いつかないが。

 とりあえず棒の先端にウエットティッシュをつけたような道具を壁に立て掛けて、携帯の元に歩み寄る。

 一度千鶴の携帯を手に取ってから、慌てて交換する。同じ機種の同じ色、しかもカバーはスマホの裏面を覆うだけのシンプルなもの同士。居候を始めてから間違えた事は一度や二度じゃ済まない。千鶴も同じ。

 閑話休題。

画面に表示されたのは、文芸部連絡用のグループだった。 どの家も大掃除で忙しいと思っていたのだが、そうでもないらしい。

『みんなは、初詣どうするか決まってますか?』

送信者は真澄。大体イベントの始動はこいつだから、別に不自然でも何でもない。ただ、他の人も忙しいだろうと予想できるこのタイミングなのは、今頃思い出して慌てているからか。

「千鶴、初詣どうする?」

「……そうね……」

台所の掃除を行っていた千鶴が、シンクを磨く手を休めずに思案し始める。

 その答えを待つ間に、携帯の方はぽつぽつと答えが返り始めた。

『僕はまだ決まってないよ』

『私は、元日の夕方頃に行こうかと思ってます』

栄介と、蜜柑さん。まあ、初詣なんて、元日の思い立ったときに行くくらいでしかないから、二日前から考えている蜜柑さんの方が特殊なのだろう。

「元日の昼以降に行けばいいんじゃないかしら?」

「じゃあ、そう言っとくぞ」

「私のも打っておいてくれない?」

「お前の口調をトレースするなんて芸当はできないぞ」

「手が洗剤だらけなのよ。いちいち洗ってられないじゃない」

「だったら、それが終わってからで問題ないだろ」

「分かったわ」

『元日の昼以降に行こうかと』

送信完了。先輩たちは俺たちのように自分たちで大掃除をしているだろうから、返事はもう少し後だろう。


 その予想通り、全員の答えが出揃ったのは俺たちが掃除を一通り終えた、夕方だった。

『じゃあ、細かい予定はみんな決まってないんですね?』

『そういうことでしょ』

『まあ、そうよね』

『それなら、みんなで行かないですか? この七人で、ってことですけど』

『いいのじゃないかしら?』

『いいぞ、何時だ?』

『そうですね、蜜柑先輩が夕方頃ってことなので、それくらいでどうですか?』

『構わないよ。僕は別に予定なんてないから』

『俺も無いぞ』

『私も、特には無いわ』

『私は、四時頃までおばあちゃん家に挨拶に行くので、それ以降でお願いします』

『蜜柑さん、それ結構ハードスケジュールじゃないか?』

『大丈夫です。おばあちゃんの家って言っても、河崎ですから』

『それならまあ、体力的には問題ないか』

『じゃあ、六時でどうですか?』

『僕は賛成』

『私も賛成です』

『私も賛成よ』

『結構暗いぞ。大丈夫か?』

『全員、常時二人以上での行動。特に女子は必ず男子と共に行動する事。これでどうだ?』

『それなら、賛成です』

『じゃあ、このルールを破ったら、身の安全は自己責任。及び一ヶ月間毎朝部室の掃除だ』

『部長、本気ですか』

『それくらい危険だってことだ』

『この近くの神社って言ったら、神原神社だろ? あそこ、峰山も山川も山内の方まで含めてもかなり大きめだから、混むぞ』

『そういえばそうね』

『じゃあ、ルールは守って、午後六時、鳥居の前でどうですか?』

『賛成。じゃあそういうことで』

『ええ。よいお年を』

『気が早いぞ清水。後一日ある』

『先輩は、大晦日までスマホを弄るしかないかわいそうな人なんですか?』

『おい』

『まあまあ、じゃあそういうことで、よいお年を』

『千鶴!?』

斜め前のソファから、我慢しきれずに笑う声が聞こえてくる。

「お前な……」

「だって、可愛そうな人なんでしょう?」

「去年まではな。家にいても、本読むかゲームするかくらいだったし」

店が休みになるお盆と正月は、俺の一番嫌いな時期だった。一日中居間にいるあの人たちのせいで、満足に食事も取れない。おまけに他の店も休みだから、駅前まで年中無休の店を探して足を伸ばしたものだ。

「あら、今年は?」

分かってるくせに。

 そう呟いてみたはいいものの、当の千鶴は純粋な興味だけを顔に浮かべて俺のことを見ている。わかっていないのか、演技なのか。

 まあ、別にどちらでもいいか。

「千鶴とかいるしな。現に今、俺は部屋に引きこもって本を読んでるわけじゃない」

「……それもそうね」

素っ気無い奴だな。まあ、いつもそうか。

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