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君と、もう一度。  作者: れんティ
出会い編
8/126

疑問

 朝陽のおかげで更に紛糾した口論は先生の帰還により沈静化したし、その時間の内に無事分担も決定。

 そして、球技大会当日。時刻は午後三時。

「二年総合優勝は、七組です!」

あの二人も、行きすぎはあれど良かれと思ってやったこと、役に立ったらしくて何よりね。私――安部千鶴はといえば、サッカーでただピッチの中心付近に居座り、ボールが来れば近くの味方に渡す作業に没頭していたわ。いい幹事のアシストになったときもあれば、キラーパスになったこともある。五分五分、活躍したとは言えなくもないし、足を引っ張ったといえなくも無いわね。どちらを見るかは、見る人間によってといったところかしら。

 そして、私を含む二年七組のクラスメイトたちは、高揚した雰囲気をまとって、教室へと戻ってきていた。

「いやーよかったな!優勝だぞ、優勝!」

「そうね。いい思い出になったんじゃない?」

「相変わらず冷めてんなー!もっと喜んだらどうなんだよ!」

優勝と言う栄光に興奮しているのか、いつもより熱の入った口調の樋口君がやけに私に絡んでくる。別に迷惑ではないのだけれど、基本ローテンションな私では扱いに困るのよ。朝陽のように誰とでも接するなんて芸当、私にはできないし。

 妙に頑固で、自分が正しいと思ったことは何が何でも貫き通そうとしていたあの頃の朝日とは、どこか違って見える。まだ再会して二週間足らずの私が言えたことではないけれど、明らかに朝陽の考えと違うようなことでも、笑って受け止めているもの。大人になった、ってことかしらね。

 ――――――ちづ、変わったよな

「……変わったのは、あなたの方でしょ。あさ君」

少し低かったはずの背も、顔中に浮かんでいた笑みも。きっと今体力で競っても、私はどれ一つとしてあなたには勝てないでしょうね。

「お?何か言ったか?」

「いえ、何でもないわ」

物思いから顔を上げれば、お祭り騒ぎと化した教室が目に映る。その先に、唇の片方だけで器用に笑う朝陽が見えた。

 「えー、じゃあ、注目!」

唐突に、学級委員の女子生徒が声を上げた。喧騒の中に響き渡ったその声につられて、ほぼ全員がそちら――――教壇へと目を向ける。

「えー、打ち合わせの件なんですけど、今日の夜で大丈夫ですよね?ダメな人は挙手を」

沈黙が下りる、誰一人手を上げようとはせず、話の流れに身を任せていた。

「じゃあ、場所はこの近くにある焼肉屋の予定なんで、午後六時にお店の前に集合してくさい。予算としては、三千円弱を目処にしているんで、それくらいで足りると思います。それでは、よろしく!」

打ち上げ、ね。この近くってことは歩いて二十分と少しと言ったところ。朝陽は、行くのかしら。あの場で手を挙げなかったってことは行くんでしょうね。

 「お前ら席につけー」

ほとんど入れ替わりのように担任が入ってきて、お祭り騒ぎは一旦沈静化する。

 担任からの簡単な連絡を受けた後、解散となった。


 「それでは、球技大会総合優勝を祝して、乾杯!」

学級委員の音頭に続いて、三十名分の声が重なる。少々騒がしい人もいて、咄嗟に周囲の迷惑を考えてしまった。

 「千鶴、焼けたぞ」

「あら、ありがとう」

さすがに三十人が一度に囲めるテーブルはなく、五、六名ずつ四テーブルに別れての打ち上げとなっている。これなら、別にクラスで行う意味もなかったのでは内科と思ってしまうけど、全員が同じく浮かんで食事をすることに意味があるということにしておくわ。でないとうどんで首つって死ね、とか言われそうだし。

 「あの、ちょっと聞きたいんですけど」

目の前に置かれたお皿に乗る、丁度良く焼けたお肉を眺めながら物思いに耽っていたら、クラスメイトの声で現実へと引き戻された。私を引き戻した女子生徒とは席が近く、他のテーブルに座る人たちよりは仲がいい。名前は、綾野蜜柑。

「どうしたの、綾野さん」

「あの、お二人って付き合ってるんですか?」

朝陽の、コンロの上のお肉をひっくり返す手が止まり、樋口君が白米を喉に詰まらせる。話の当事者である朝陽の方がリアクション薄いって、どういうことなのかしらね。

「……いえ、そういう関係ではないわね」

「え、そうなんですか?でも、いつも一緒にいますよね」

「それを言うなら樋口君や真澄ちゃんたちも一緒じゃないかしら」

「一緒に登下校してますよね?」

「真澄ちゃんと三人でね」

「部活も一緒ですし」

「たまたま私の入った部活に朝陽がいたのよ」

「名前で呼び合ってますし」

「幼馴染だもの。それに名前呼びなら真澄ちゃんや樋口君もそうじゃないかしら?」

だからと言って付き合っている、なんて言い出すのは、結論を急ぎすぎじゃないかしら。同じことが当てはまる朝陽と真澄ちゃんも、付き合ってないもの。

「でも、朝陽の弁当は安倍が作ってるよな」

ここで、思わぬところからの横槍。樋口君、あの後そのことについては触れないし、広まってもいないから興味を失ったと思っていたのに。こんなタイミングで言ってくるなんて、狙ってたのかしら?だとしたら陰湿の一歩手前よ。

 そんな思いを込めてそちらを向くと、樋口君はいつも通りに薄ら笑いを浮かべていた。常にあの顔だから、表情から考えは読み取れないのよね。

「え!じゃあ、やっぱり付き合ってるんじゃないんですか?」

「朝陽の昼食が、いつもバランスが悪い絡みかねて言ったのよ。さすがに心配だったの」

ちらりと当事者、朝日の方を窺うと、何食わぬ顔でお肉をひっくり返している。さっきから焼いてばかりだけど、ちゃんと食べれているのかしら。

「朝陽、あなたちゃんと食べてるの?」

「ああ、さっきからちょっとずつな。心配しなくても大丈夫だぞ」

そういう割りに、お茶碗のご飯はほとんど減っていないし、タレもつけた様子が無い。まったく、こういうことには本当に無頓着なんだから。

「ほら、トング貸しなさい。交代よ」

 こうやって妙に世話を焼いてしまうのは、幼馴染で手間のかかる存在だからなの?

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