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君と、もう一度。  作者: れんティ
クリスマス編
76/126

パーティー:其の九

 「それじゃあ、今日はありがとうございました」

「私たちも楽しかったわ。ありがとう」

「お前ら、気をつけて帰れよ」

「ええ。分かってます」

 玄関まで見送ってくれた先輩二人に挨拶して、数時間前に辿った道を戻る。周囲は真っ暗だ。

 それもそのはず、現在時刻は午後八時半。冬じゃなくても日が落ちた時間だ。

 そんな中にあっても、俺たちのテンションは下がらない。具体的に言えば、真澄と良樹がそのままで、それに栄介が釣られるような形だ。それを、俺と千鶴と蜜柑さんが一歩引いて見ている。

 良樹はあれ以降何事もなかったかのように振舞っていて、俺もそれに便乗している。けれど、良樹に言われた言葉はまだ俺の頭の中をぐるぐる回っている。

 「どうかしたんですか?」

不意に横合いから声が飛んできて、危うく凍った道路で足を滑らせるところだった。

「いや、別に。どうかしたのか?」

「いえ、さっきから上の空なので……」

「あ、悪い。なんか喋ってたか?」

「いえ。そういうわけではないんですけど……」

「あなたがぼんやりしてるのが、蜜柑は心配だったのよ」

しどろもどろの蜜柑さんをフォローするように、反対側から千鶴が入ってくる。なるほど、そういうわけか。

 「悪い、大丈夫だから。ちょっと、神原駅についた後のこと考えてた」

半分本当で、半分嘘だ。ただまあ、これくらいの虚実のない交ぜは許して欲しいところだ。

「あの、どうしてそんなことを考えてたんですか?」

「ん? だって、この暗い中を女子だけで帰らせるわけにはいかないからな。どうやったら全員が少ない労力で安全に帰れるか、考えてた」

「相変わらずのフェミニストね」

「ここで誰かが襲われたら、目覚めが悪いだろ」

どうも、今日の千鶴は辛辣だ。まあ、理由は後で聞こう。おそらく教えてくれないだろうが、言わないよりマシだ。

「そうですか……そういえば、皆さんの家って、どのあたりなんですか?」

最後の問いかけは、前で騒いでいて真澄たちにも向けていたらしい。少しだけ声量が大きくなったそれは、しっかり届いていた。

「んー、私は、商店街の東口から、高校側に歩いて五分くらいだよ」

「僕は神原駅の向こう側です。駅から徒歩十分くらいですね」

「あ、なら清水だけ駅で合流とかすればよかったな、悪い」

「いえ、大した距離じゃないですから」

「オレは東口から……って、綾野も知ってるか」

「あ、はい。樋口さんのお家は知ってます」

「ところで、蜜柑さんの家はどの辺なんだ?」

「あ、私ですか? 高校のところからバスです。峰山の方なんですよ」

峰山といえば、高校からならバスで十分くらいか? まあ、遠くはないが、近いとも言えない。

 それに、問題は他にもある。

「……結構、ばらけてるわね」

「そうだな。都合よく同じ方向、ってわけにはいかねぇか」

「どうしますか?」

「まあ、俺と良樹で三人手分けして送るよ。清水にわざわざこっちまで来させるわけにはいかないからな」

「僕は構いませんが。大した距離じゃないですし」

「まあ、人手が足りねぇわけじゃねぇから、気にすんな」

まあ、神原駅についてから考えればいいか。

 そんな先延ばしを結論として、騒ぎの中に身を投じた。


 「まーまま。で? 栄介は好きな人いんのか?」

「柏木には聞かないんですか?」

「じゃあ真澄ちゃんもだ」

「えー! あ、あたしも?」

「おう。誰か一人を問い詰めるのは不公平だからな」

「さっき俺を質問攻めにした罰だな」

「あさ兄ちゃんだって答えてないじゃん!」

「俺は、良樹には答えたぞ」

「まあそういうことで、免除だ」

「えぇー!」

前方から聞こえてくる、そろそろ近所迷惑になりそうな騒ぎ声を聞きながら、私は隣を歩く蜜柑を盗み見た。

 どこか憂いを含んだ顔。眼鏡の奥に潜んだ目は、じっと一点だけを見つめてる。

 朝陽の、背中を。

 それはただ単にぼんやりしてた朝陽が心配なのかもしれないし、珍しくはしゃぐ彼が珍しいのかもしれない。見つめる理由は数多あれど、私は直感的に悟っていた。

 蜜柑は、朝陽が好きだと。

朝陽を見つめる表情は、清水先輩とよく似ているから。叶わない想いを抱いて、それでも想い続けているのが、その表情でばればれだから。

でもまあ、蜜柑にはまだ希望があるんだけど。

 その希望を私や真澄ちゃんが壊してしまうかもしれないことが、怖い。

 「蜜柑、ぼんやりしてると危ないわよ」

「はっ、はい! すいません……」

「いえ、謝らなくて良いわ」

 だから、そんな表情を見ない振りして、見ていなくて済むように。蜜柑の意識を私に向ける。向けさせる。

 その間だけは、恋愛の事なんて気にせずに、普段通り友達でいられるから。

 なんて、都合のいいことだけど。

 本音を言ってしまえば、他の人が朝陽を見つめるのが嫌なだけ。

 そんな事、私に言う権利も資格もないのだけど。怖がって足踏みしている今はまだ。

 いつか朝陽の隣で、誰にも文句を言わせない立場から、視線を牽制したい、なんて。ちょっと猟奇的かしら。

 その立場は、なんて言うのかしらね。

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