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君と、もう一度。  作者: れんティ
クリスマス編
73/126

パーティー:其の五

 食事の開始から一時間が経ち、全員の空腹も大分埋まってきた。それに伴い、メインは食事から雑談、ひいては余興へと移っていく。

「よし、誰か何かやれ。多少の騒音ならこの家は大丈夫だ」

「螢先輩、よく知ってますね」

「そりゃあ、幼馴染だからな」

 「んじゃあ、オレ、歌います!」

良樹の歌? ……あ。

 「ちょ、お前待てっ……!」

俺の制止も空しく、手早く携帯を操作して歌声の無い音楽を呼び出すと、良樹がのっけから全力で歌いだす。――――中学時代、『ガキ大将』と呼ばれた歌声で。

 「……下手なんですね」

もちろん、あだ名の元ネタとなったガキ大将ほど破壊的ではないが、一般的な基準から判断すると下手な部類だ。それも、最底辺。

「……ああ。あいつは下手なんだ。中学のときは、『ガキ大将』なんて呼ばれてた」

呆れを交えた顔で聞いていた六人が、一斉に納得したような顔で苦笑する。その間も、良樹は熱唱している。部活のせいか、生来か、全力を出すと掠れる声で。基本あいつは外で走り回っている方があってるんだから、その運動能力を生かして何かやればいいのに。何故苦手意識もある歌を選んだ。

 「……あーああー!」

歌い終えた良樹が、聴衆に向けて自慢げな顔をする。おい、今の歌のどこにそんな表情ができる部分があった。

「あー、うん。なかなか聞けない歌だな」

螢先輩、濁せてないですから。さすがにそれを言うのははばかられるけど。

「耳直しに、あさ兄ちゃん歌って!」

良樹が席に戻った後、真澄が携帯を差し出してくる。そこに表示されているのは、無料動画サイトにアップされた、カラオケバージョンの歌。俺が好きなライトノベルがアニメ化された際の主題歌だ。ちなみに二年前の曲であり、俺の十八番でもある。

「いや、まあ歌ってもいいけど、これ、皆知ってるのか?」

「この歌、知ってますか?」

俺の問いを聞くが早いか携帯のディスプレイを待機していた六人に提示する。そこから返ってきた答えは、俺の予想と違うものだった。

「あら、これなら知ってるわよ。原作好きだもの」

「あ、俺も観てたな」

「私も、螢と一緒に」

「私も、美術部の先輩に聞かせてもらったことあります」

「オレは、朝陽の十八番だし」

「僕も、原作は読みました」

……マジか。これ、俺歌うしかないのか?

「あさ兄ちゃん、歌は普通に上手いのに、いっつも歌わないじゃん! こういうときは歌わないと!」

いやまあ、俺自身歌うのは好きだし、場を盛り下げる気は無いから、まあいいか。

「……分かった、歌うよ」


 朝陽が樋口君と場所を交代して、真澄ちゃんから携帯を受け取る。おもむろに、曲が流れ始めた。

 アップテンポなのに歌声は物静かという、アンバランスな音楽が響く。お風呂でいつも歌ってるから、朝陽の歌は可もなく不可もないものだと知ってる。けれど、真澄ちゃんや樋口君以外は、朝陽の歌を初めて聞いたみたい。

「……なんというか、普通?」

「ええ、聞くに堪えないわけじゃないけど、絶賛するほどでもないわね」

「樋口先輩の後だからかなり上手く聞こえますけど、実際そこまでってわけでもないですよね」

「あー、やっぱり普通だね」

「お前、歌わせといて酷くないか!?」

間奏に入り、歌う必要がなくなった朝陽が真澄ちゃんに対して抗議を挿む。けれど、真澄ちゃんはどこ吹く風で、ニコニコ笑ってる。……真澄ちゃんも、大概ね。

 「んじゃ、次は亜子先輩にでも歌ってもらいますか」

歌い終わった朝陽は、携帯を真澄ちゃんに返しながら、いい笑顔でそうのたまった。

「え!? ど、どうしてよ?」

「だって、ここは副部長に手本をと」

「それなら螢でもいいし、そもそも私はもう副部長じゃないわよ!」

「ああ、そうか。じゃあ千鶴で」

どうやら個人を標的にしたものじゃなくて、無差別だったみたいね。

 唐突に振られた私は、この流れが続くことによるテンションの下降を避けて、まあ、平たく言えば盛り下がるのを避けて、渋々その提案を受け入れた。ただし、私一人は恥ずかしいのよね。

「分かったわ。ただし、蜜柑も一緒よ」

「へ!? わ、私ですか!?」

「ええ。旅は道連れよ」

「いや、旅じゃねぇだろ」

「いいじゃない、私一人じゃ恥ずかしいのよ」

「それが本音か」

朝陽と樋口君の冷静なコメントに聞こえない振りをしながら、蜜柑の手を引いて立たせる。二人で歌えるものって、何かあったかしら。


 千鶴の歌声に蜜柑さんが控えめに被せるような歌が終わり、亜子先輩が結局押し出される。渋々前に立った亜子先輩は自身の携帯から歌を流すと、淡々と歌い始めた。

 歌い始めたのはいいのだが、選曲が笑えない。

 亜子先輩が歌っているのは、恋人と別れた後の心情を詠った歌だった。

「……縁起でもねぇな」

「いいんですか、螢先輩」

「まあ、所詮曲だしな」

そう言いつつも、螢先輩の口元は引き攣っている。

 周囲を見回すと、千鶴も清水も微妙な表情だ。ただ一人、真澄だけは能天気に満面の笑みだが、あいつはあれでいい。逆に悩んでる方が俺は驚くだろうな。

 曲が進むにつれ徐々に亜子先輩の歌声に熱がこもっていき。

 俺たちの顔は引き攣っていく。

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