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君と、もう一度。  作者: れんティ
クリスマス編
72/126

パーティー:其の四

 全員で囲んだ大きな机の他に、キッチンに作られたカウンターにも所狭しと料理が並ぶ。その中で、螢先輩が不意に立ち上がった。ちなみに、席順はがわら先輩、螢先輩、良樹、栄介、真澄、俺、千鶴だ。

 とはいえ、それは予定された行動。誰もその行動に驚くことなく、自分のコップに手を伸ばす。注がれているのは、ジンジャーエール。ちなみに、料理の目処が立った後、俺が買ってきたものだ。俺と千鶴だけが知っている、『あの』ジンジャーエール。……ヤバイ、にやける。さあ、千鶴と俺を除く六人は、どういうリアクションを取ってくれるのだろうか。ちなみに、カウンターには空のコップが六つと普通のジュース。アフターケアは万全だ。

 「じゃあ、メリークリスマス」

「メリークリスマス!」

って、乾杯の音頭ってこれでいいのか?

 そんな懸念はともかく、全員がコップを掲げ、頭上で軽く打ち付けあう。

 そして、一斉に口を付けた。

 俺と千鶴は恐ろしさを知っているから、微々たる量を舐めるだけ。そしてがわら先輩も、一気飲みなんてしないのか、俺たちより少し多い量を口に含んだ。そして、むせる。

 で、他の五人はといえば。

「うおっ! ごほっ! な、何だこれ!」

「けほっ、けほっ、こほっ! な、なんなんですかこの飲み物!」

「うあっ! の、喉が……!」

「ひゃあうー! な、何これぇー!」

「こ、これ、結構きますね……!」

良樹は持ち前のノリでコップ一杯を一気に飲み干し、栄介は二口ほどを口に含んだ。螢先輩もコップの四分の一くらいを一気に飲み、真澄も半分を一気飲み。蜜柑さんも一口より多いくらいを飲んだらしい。

 異口同音に炭酸の強さと生姜の効きを呻いた後、笑いを堪えるのに必死な俺を睨んでくる。がわら先輩は螢先輩の隣で便乗してるし、千鶴は呆れた顔でちびちびコップを傾けている。なにやら、四面楚歌な雰囲気になってきたぞ。

「このジュース、買って来たのって朝陽だよなぁ?」

「……ああ、そうだな」

まだ顔を引き攣らせた良樹が俺に厳しい視線を送るが、先のリアクションが頭をチラついて、そこまで怖さは感じない。

「ってことは、朝陽。味を知ってて買ってきたんだよな?」

「そりゃそうですよ」

「で、知っててあたしたちに飲ませたんだー」

「そういうことになるな」

「その反応を見たかったわけですか」

「ああ。まあな」

「朝陽さん。これおいしいですね」

「あ、だろ?」

ここで、空気を読まない蜜柑さんの発言。少しずつ俺の首を絞めている気だったらしい余人は、一様に不満と呆れを化合した視線を蜜柑さんに向ける。その意味を測りかねてか、蜜柑さん首を傾げるばかりだ。

「ああ、もういい!」

そして、蜜柑さんの発言で気勢を殺がれた被害者四人は、俺への断罪を諦めたらしい。

「八神君、嫌いな人がいた場合のケアまで考えて準備したのはいいけど、さすがにやりすぎよ」

その代わり、がわら先輩からの説教を食らってしまった。

 とはいえ、ただ食らったのでは、イタズラの反応と釣り合わないので、もう一つ爆弾を投げておく。

「彼氏の仇ですか?」

「そ、そうよ」

俺としては、もう少し顔を赤らめたり視線を逸らしたりして欲しかったのだが、がわら先輩はどもっただけで終わってしまう。

 ここは、真澄や良樹あたりに交代しておこう。

「やっぱ、付き合って二ヵ月半以上たつと、そんな意識が確立されるんですね」

案の定、入ってきたのは良樹だった。その二つ隣で、真澄もニマニマしながら二人を見ている。おあつらえ向きに隣り合った二人は、居心地の悪そうな顔だ。

 ふと、首を傾げる。

 斜め前で顔を逸らしあっている二人は、なんと言うか、甘くない。この二年間見続けてきたピンク色の雰囲気は、そこには無い。それどころか、隠しきれない闇色を見た気がして、咄嗟に思考を止めた。

 「……とりあえず、飯食おうぜ」


 「あー、これおいしい!」

「そう言ってもらえると、何よりね」

「亜子先輩が作ったんですか?」

「それはね。あとそれと、それは私が主に。後は二人の料理よ」

並んだ料理を皿に取って、各々が好きに食べていく。そんな形式だ。そして、自分が作った――千鶴と手分けしてだが――料理を褒められると言うのは、満更ではない。

 「綾野、お前それ、飲めるのか?」

「え? あ、私、辛いものとか好きなんです」

良樹と蜜柑さんの会話を小耳に挟み、すかさず乗っかっていく。

「さすが。このジンジャーエール、なんか癖にならないか?」

「わかります! 喉が焼ける感覚があるのはそうなんですけど、それを押してでも飲みたいと言うか……!」

「そうそう! これ、林間学校のときに初めて飲んだんだけど、忘れられなくてさ」

どんどん会話が熱を帯びていく。それに伴って音量も血圧も上がっていく。

「あそこにあったんですか……飲みたかったですね」

「ま、今飲んでおけよ」

 「柏木、それどこにあった?」

「ふむ? あそこだよ」

「ありがとう」

 「安部、あの会話にはついていけないわ」

「私も、さすがに無理よ」

そんなにマニアックなことは言って無いのだが。はなはだ遺憾だ。確かに、千鶴は甘いものの方が好きだよな。

 良樹と話す千鶴の笑顔が、なんだか癇に障って、蜜柑さんとの会話にのめりこんだ。

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