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君と、もう一度。  作者: れんティ
クリスマス編
71/126

パーティー:其の三

 「着いたぞ」

螢先輩が立ち止まったのは、俺や千鶴の家よりかなり大きな家。これなら、確かに八人で騒いでも問題ないだろう。

 「ってことは、その隣が天野先輩の家ってことですか」

良樹の言葉に、左隣へ視線を移す。がわら先輩の家と比べると小さく見えるが、一般的な大きさの家。

「……まあ、そうだ。ともかく中入れ」

促されるままに玄関に入り、靴を脱ぐ。一番最初に騒ぎ出したのは、例によって例のごとく真澄だ。

「お邪魔しまーす! ……わあー! 広いですねー!」

「いらっしゃい。みんなも適当にくつろいでくれて構わないわ」

「んじゃ、お言葉に甘えて」

「あ、小笠原先輩、手伝いますよ?」

「ありがとう。それじゃあ、料理のできる人は手伝ってくれるかしら? 後の人は、螢の指示で飾り付けをお願いするから」

思い思いの返事の後、がわら先輩の後に続いたのは千鶴だけだった。

「あら、樋口君や蜜柑はともかく、朝陽はこっちよ」

「え、マジ?」

「たりめーだろ。ほら行け。期待してるぜ?ワイルドキッチン優勝コンビ」

無理やり立たされた俺は背中を押され、千鶴たちに追いつかされることになる。まったく、人の家の台所って、慣れないから難しいんだけど。ああ、千鶴の家は例外な。

 「とりあえず、必要な食材を切ってくれない? 調味料とか、その辺の工程は慣れていないと難しいだろうし」

「分かりました」

受け取った包丁で、目の前の食材を切っていく。これくらいなら、五分もあれば終わるだろうか。


 まな板の上に置かれた野菜に真剣な目を向ける朝陽から目を逸らして、自分に与えられた仕事をこなす。

「安倍さん、次はこれをお願い」

「あ、はい」

小笠原先輩も料理は得意らしくて、私たちが手伝うのはごく初歩的かつ簡単なものばかり。

 そのはずだったのだけど。

「ちづ、そっちの鍋は?」

「そろそろよ。そっちはどうなの?」

「もう少し。この後もう一つあるんですよね?」

「ええ、そのつもりだったのだけど、大変なら削って大丈夫よ」

「いえ、平気ですよ。ちづ、胡椒さっき使ってたよな」

「そこよ。それと塩はそこ」

「ん、っと……?」

「フライ返しはそこよ」

「さんきゅ。ちづ、鍋」

「あら、ほんとね」

現在調理を行っているのはもっぱら私とあさ君の二人。小笠原先輩は右手を冷やしながら、台所の端で監督を行ってもらっている。

 その原因は、使い終わった鍋を、その後すぐに洗おうとしたから。私が目を離した隙に、というとなんだか先輩がいたずらっ子のように思えるけど、そうではなくて。私が使い終わった鍋を、シンクに運ぼうとしたのが間違い。火を消して数十秒という鍋を掴んでしまったのだから、火傷は必至。軽いとはいえ水ぶくれになったり痕が残ったりしては大変だから、今は保冷材で冷やしている。

 そんなこんなで、現在の調理担当は私とあさ君。慣れないキッチンと慣れない料理。そしてタイトなスケジュール。目が回るとは言わないけど、気は張らないとならないわね。

「あさ君、フライ返しは?」

「使ってる。悪いが菜箸で頼む」

「分かったわ」

「ちづ、その皿」

「はい。あなた指についてるわよ」

「え、マジ?」

「まったく。洗いなさいよ」

「はいはい」

これじゃあ、いつもと変わらないわね。


 「おー、さすがブレイカーズ。やるなぁ」

飾りつけの途中、良樹先輩が声を上げた。

 つられてその方向へ目をやると、確かにあさ兄ちゃんとちづちゃんがかなりの勢いで料理をしてる。さっき火傷だ何だって大騒ぎだったから、亜子先輩は後ろで見てるだけみたい。

 さっきの記憶が気になって、紙の輪を繋げた飾りを窓に引っ掛けている螢一郎先輩を盗み見る。

 亜子先輩の火傷騒ぎを聞きつけて、我先にと飛び出していったのは当然のように螢一郎先輩だった。保冷材をタオルに包んで、亜子先輩の右手に縛り付ける。物の位置を把握していないとできない速さだったけど、あたしが気になったのはそこじゃない。

 右手に縛り付けられている間の、亜子先輩の視線。容態について話をするときの螢一郎先輩の表情。

 どこか気まずさがあるというか、どこかぎこちないというか。付き合いたての初々しさとは違うかたちで、距離を掴みかけているというか。

 まあ、部外者といって差し支えないあたしが、そんな細かいことまでわかるはずもないんだけどさ。

 今はとりあえず。

「良樹先輩、落ちますよ?」

「え? うお! あっぶな!」

椅子の端まで身を乗り出してる良樹先輩がおでこを腫らす前に、注意しておこう。

「おい! 栄介、その椅子……」

「うわ!」

椅子大きく揺れて、栄介君が尻餅をつく。

「……かなり揺れるぞ……って遅かったか」

そっちは盲点だったよ。ごめんね、栄介君。

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