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君と、もう一度。  作者: れんティ
出会い編
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口は災いの元

 「で、そこんところどーなんですか?先輩方」

「そうですね、俺もその辺は知りたいと思っていたところです」

「あ、あたしも!」

「あら、面白そうじゃないですか」

いつの間にか乗ってきた二人も加わり、昼食を交互に頬張りながら詰め寄る。そろそろ止めておかないと、がわら先輩が怒り出すだろうな。千鶴も気がついたのか、さっさと自分の弁当に興味を戻している。そんなことしたって爆発は避けられないぞ。増す見通し気がいる限り。真澄はまったく気づかずにその場の勢いでその線を飛び越えるし、良樹はわかっていながら面白さを優先して踏み越す。つまり、俺たちが自制しようが、この二人がいる限りがわら先輩が怒り出すのは、

「もう!いい加減にしなさい!先輩をからかわないで!」

決定事項なのだ。

 がわら先輩にお説教されるかたわら弁当は確実に俺の体内へと飲み込まれていき、四例がなる頃にはきれいに空になっていた。

「ほら、四例なったぞ。教室に戻らないとダメなんだろ?」

「そうね。四人ももういいわ。遅れないように教室に戻りなさい」

 手早く弁当を片付けていた螢先輩が、がわら先輩を引き連れて部室を出て行く。方っておいたらいつまでも続きそうだった説教が終わったのはいい事だが、螢先輩に借りができてしまった。後で返しておこう。

「いやー、久し振りに聞いたな、小笠原先輩の説教。真澄ちゃんと安倍は初めてか?」

「ええ。勉強になったわ。引き際はちゃんと心得ておかないとダメね」

「ま、これに懲りたらもう少し相手を良く見るんだな。お子様は特に」

「あ!今あたしの方見てお子様って言った!これでも高一ですよーだ」

「ほら、戻るわよ。遅れたらまた説教かもしれないでしょ?」

千鶴の一言に、良樹と真澄のハイテンションコンビがわー、ギャー、と駆け出していく。その様子にため息をつきながら、千鶴と二人で後を追った。


 「えー、今日は、球技大会で各自が出場する競技を決めます」

六時間目に作られた学級活動時間は、球技大会での役割分担を決めるものだ。とはいえ、入学及び進級から二週間足らずで行われるのだから、生徒はおろか教職員まで親睦を深めるためのレクリエーション扱いだが。

「去年もやったから知っているとは思うが、球技大会では学年ごとに試合を行い、添うよう成績で順位を決める。試合は五種類、それぞれ野球、サッカー、バスケ、テニス、バレーボールだ。後は、学級委員、それぞれの希望を取って、できるだけそれに沿う形で出場者を決めてくれ」

担任の指示に従って、学級委員が教壇に上がる。男女それぞれ一名が、男女それぞれの分担を決め始める。

 五分後。

 話し合いは紛糾し、教室は混沌を極めていた。

「だから、得意な奴を中心にすればいいだろ!」

ゆっくりと、苛立ちが上ってくる。

「ちげぇって!それよりもまずやりたいやつから順番に決めりゃあいいだろ!」

体の奥深くから、まるで沸騰した水のようにぼこぼこと。

「何言ってんだ!ある程度の強さが無いと楽しめるものも楽しめねぇだろうが!」

ここまで苛立ったのはいつ以来だろうか。最後に親と喧嘩したとき以来だったか。そこまでではないか。まあ、クラスメイトに向かってこれだけの苛立ちを感じたのは、高校入って以来初めてな気がするな。

「だからって勝手に割り振るのは自分勝手だって言ってんだよ!」

まあ、積極性があるのはいいことだといわれているし、気まずい沈黙が続く話し合いよりは、こうやってクラスのためを考えた発言が出る方が何倍かは良いに違いない。もっとも、それは暮らす全体で話し合いを行っている場合に限るのはでないだろうか。少なくとも俺はそう思っている。

「ああ!?てんめぇ誰がいつそんなこと言った!?」

「ハァ!?テメェ自分の発言すら覚えてねぇのかよ!」

現在俺の視界で繰り広げられているように、二人の男子生徒が周囲の戸惑いなんてどこ吹く風で怒鳴り合うのは、逆にクラスのためになっていないのではないかと感じるのだが。異論があるならば何なりと言ってほしい。

 とはいえ、そろそろ止めないと議論が喧嘩にすり替わりそうなので、誰か行きある人間が止めてくれないかと思うんだが、他力本願ではダメなのだろうか。生憎期待の対象である先生は職員室へと何事か引っ込んだ後帰ってこないため、クラス内での解決が望ましいのだが。そうもいかない。今にも殴りかかりそうな剣幕で怒鳴りあう奴らの間に入っていこうとするような命知らずなどいないらしい。俺勝て、イライラしつつも止めに入ろうとは思わないわけで。

 「……おい、これ、早く止めた方がよくね?」

不意に飛んできた後方からの小声は、無論良樹のものだ。良樹の席は俺のすぐ後ろ、会話はたやすい。

「だろうな。そろそろ手が出てもおかしく無さそうだ。どうする?オレらで一人ずつか?」

「下手に出て行っても余計刺激するだけだろ。ここは学級委員あたりに任せようかと」

「いや、あのがり勉には無理じゃね?体育はからきしだぞ」

「何で力づくで止める前提なんだよ。話術ならいけるんじゃないのか?」

一旦学級委員へと視線を向けた良樹は、黙って首を振った。

「あの様子じゃあ、まともな判断は望めなくね?」

つられて、少し横へと視線を動かす。怒鳴り散らす二人から少し離れたところで、おろおろと頭を抱えていた。

「……だな。かといって俺たちがしゃしゃり出るのも、最善かどうかは疑わしいだろ」

「このまま殴り合いまで行くと、この時間潰れるぞ。そうすると昼休みに集まってくれ的な話になるじゃん。オレは嫌だぞ」

「俺だって嫌だよ。……とりあえず、口で言って収まるかやってみるか」

わざと音を建てて立ち上がり、議論以上喧嘩未満に割ってはいる。後ろから小さく励まされたが、この際無視して構わないだろう。

「あのさ、落ち着けよ。もう少し周囲に気を配ったほうがいいと思うぞ。お前らのやってることは口論であっても議論じゃないだろ。……端的に言うと迷惑だ」

いかん、つい本音が。どうも苛立って言葉の加減ができていない。後ろから小声で「言いすぎだ!」とか指摘された。その通りだ。火に油を注いだというか、何と言うか。俺の悪い癖だ。やっぱり、余裕が無いときは黙っている方が吉だな。肝に銘じておこう。

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