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君と、もう一度。  作者: れんティ
クリスマス編
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パーティー:其の一

 十二月も二十日を過ぎ、いよいよ冬となった窓の外の冷気も、七人が怠惰に過ごすこの教室にまで影響を及ぼすことはない。しかも俺や千鶴の座っている席はストーブの風が背中に直撃するから、もはや暖かいを通り越して暑いんだが。

 そんなことを考えながら、本のページをめくる。螢先輩と亜子先輩、真澄と千鶴、蜜柑さんの話し声が響くだけの、気だるげな放課後。

ちなみに、先輩達二人は週に一度、どこかのタイミングで一日過ごしている。曰く、息抜きらしい。受験のことを聞くと睨まれるので、口にしないのが暗黙の了解だ。

 「もうすぐクリスマスですね」

「そういえば、商店街でもイベントやってるわよね」

「町中クリスマス一色ですよ。一ヶ月くらい前からですけど」

「ねぇねぇ、二人はクリスマスパーティーとかやらないの?」

「そういえば、考えてなかったわね。クリスマスに予定は入ってないし」

「私は、美術部の先輩がやるって言ってたんですけど、騒がしいのは苦手なので……」

「確かに、美術部の三年生って、すっごくテンション高いんですよね!」

「じゃあ、この面子でやらないか?」

三人の姦しい会話に入っていったのは、螢先輩。さすが、文芸部のイベント担当。本当なら総務なんだが、それはがわら先輩の担当だ。

「え、できるんですか?」

「ああ、問題ないぞ。栄介も来るだろ?」

「文芸部でやるって言うなら、行きますけど」

「それなら、私の家でやればいいわ。七人くらいなら大丈夫だから」

「がわら先輩、ご両親は?」

「仕事で帰ってこられないって、先に言われているわ。許可は後から取るけれど、九割方大丈夫よ」

それなら問題ないかもしれないが、それにしたって色々かかると思うのだが。

 そんな俺の心配を余所に、段取りは着々と決められていく。

「じゃあ、二十三日でどうですか? クリスマスイブイブです」

「柏木、不思議な言葉を作るなよ」

「いいじゃん!」

「問題は無いけれど、二十四日じゃなくていいの?」

がわら先輩の、分かっていなさそうな顔に、千鶴と真澄、栄介までもが苦笑する。俺も口元の引き攣りを抑えることができない。唯一、蜜柑さんだけは分かっていない顔できょとんとしているが。

「……がわら先輩、それ本気で言ってます?」

「ええ、だって、クリスマスパーティーでしょう?」

本気で分かってないのか。

 ふと螢先輩の方へ視線を動かすと、悟ったような顔で苦笑いしている。どうやら、長い付き合いの中で悟っていたらしい。

「副部長って、部長と付き合い始めたんですよね?」

「え、ええ……」

恥ずかしそうに俯いている場合じゃないでしょう。その自覚があって何故気づかないのか。

「だったら、恋人たちの聖夜はデートでもするべきです!」

ピンク色に染まる先輩たちを前に、その雰囲気を吹き飛ばす勢いで宣言したのは、真澄だ。余談だが、関係のない蜜柑さんまで怯えたような表情をしている。

「あ、え、あ……そういうことね。分かったわ」

「分かったならよろしいです」

何故お前は上から目線なんだ。彼氏ができた事も無いくせに。

 それは俺のせいでもあるんだった。

「彼氏いない暦イコール年齢の柏木は偉そうなこと言えないだろ」

「むむ、栄介君、それって綺麗にブーメランだよ?」

「ぼ、僕は別にいいんだよ!」

「小夜子先輩がいるから?」

「出たな、栄介のシスコン発言」

「清水君。今はそれで良いかもしれないけど、清水先輩だっていつかは恋愛して、結婚するのよ」

「そんなこと分かってます! 安倍先輩まで僕を病的なシスコン扱いしないでください!」

「違ったのか」

「違います!」

 「話が脱線しているわよ」

がわら先輩の言葉に、全員が黙り込む。

「じゃあ、十二月二十四日、夕方四時から亜子の家でいいか?」

「あ、俺たちがわら先輩の家知らないですよ」

「あ、じゃあ、山川駅まで来てくれたら、迎えに行くわ」

「準備手伝うので、三時にその駅で良いですか?」

「ありがとう、綾野さん。それでいきましょう」

 ポケットの中で携帯が震える。送信者は良樹。さりげなく会話から抜けて、ディスプレイに表示されたメッセージに返事を返した。

〈なあ、クリスマスに予定あるか?〉

〈今丁度、二十三日に文芸部でパーティーやろうって話になったところだ〉

まあ、次によし気が何を言ってくるかは大体わかる。

〈はいはい! オレも参加希望!〉

予想通り過ぎる文面に、思わず笑う。ひとしきり笑った後、手元から顔を上げた。

「がわら先輩、もう一人増えても大丈夫ですか」

「樋口君? 構わないわよ」

「ありがとうございます」

〈許可〉

〈そっけな! サンキュー、何時?〉

それから日程の確認を終え、携帯を仕舞う。

 「プレゼントは、三日後だから準備しなくていいわ。渡したいなら、後日個人的に」

「えー! プレゼントなしですか!? そんなぁー!」

「柏木、無理があるって」

「だな」

六対一にまで追い込まれた真澄は恥ずかしそうに黙り込む。

 クリスマスやら正月やら、誰かと騒いで過ごすのは久し振りだ。小夜子先輩と付き合ってた頃だから、三年くらい前か。

 少し、楽しみだ。

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