文化祭:其の十四
「さて、全員話を聞いてくれ」
文化祭が終わった後、初めての部活。六人が揃ったところで、螢先輩が立ち上がった。いつもなら読書や雑談、あとは文化祭の片づけを行うところだが、どうやらそれよりも優先順位の高い問題があるらしい。
ん? ああ、もうそんな時期か。
文化祭が終わった。それはつまり、部活として行う一年の行事が終了したと言うことだ。三年生は、引退となる。
「二つ、話がある。まずは、簡単に済む方。そろそろ来るはずだが……」
螢先輩が戸口を振り返り、それに釣られて全員の視線が集中する。見慣れた引き戸。
それが、ガラガラと音を立てて開いた。その向こうにいた人は、俺たちの視線に大仰なまでに驚いて、あわあわと焦り始める。
「え、えっと、その、今日からよろしくお願いします!」
蜜柑さんだった。
「今日から、美術部との兼部になる。基本的には月曜日と金曜日に顔を出すそうだ」
もう一度、蜜柑さんが深々と頭を下げる。螢先輩の神妙な表情に身構えていた四人は、一様に頬を緩めて蜜柑さんを歓迎している。ちなみに、がわら先輩は知っていたらしい。それもそうか。
「でも、この時期になんて珍しいな」
「あ、あの、文化祭のときに関わって、面白そうだったので……文章はそこまで得意なわけじゃないんですけど……」
「ああ、大丈夫だ。真澄も千鶴も、そこまで得意なわけじゃないから」
「そうね。私は、文章はほとんど朝陽に任せてたもの」
「あたしも、栄介君に任せてた」
半数が任せていたという状況に、蜜柑さんは数度瞬きをすると、安心したように笑った。
「そうなんですか。じゃあ、安心です」
「それから、本題だ」
その言葉に、四人改め五人の動きが止まる。正確に言えば、蜜柑さんはわけが分かっていない様子だが。
「俺たちの後を継ぐ、部長と副部長を決めたい」
その意味を正確に把握し、ありうる可能性をすべて考慮し終えたとき、俺と千鶴の表情が同時に凍った。
螢先輩と亜子先輩を抜いたとき、文芸部には俺、千鶴、真澄、清水、そして蜜柑で五人が残る。その中で部長と副部長ができる人間を選ぶとなると、まず一年生である真澄と清水が除外され、蜜柑さんは元から候補には入らない。つまり、俺と千鶴のどちらかが部長で、もう一人が副部長になるわけだ。
ちなみに言うと、所属時間の長さで選ぶと俺が部長になる。それを言われる前に、何とかしないとならないな。
「じゃあ、朝陽の方が一年長いんだから、順当に行きましょ」
……言われてしまった。これはもう、どうしようもないんじゃないだろうか。
「いや、こういうものは責任感でいこう」
「あら、あなた責任感は問題ないじゃない」
「じゃあ朝陽が部長、阿部さんが副部長な」
……あ、はい。




