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君と、もう一度。  作者: れんティ
出会い編
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それでは引き続き昼食風景をご覧いただきます

 「おーい、朝陽。購買行かねぇ?」

「あ、悪い。俺弁当なんだよ」

「うえー、じゃあ、オレ今日部室で食わせてもらっていいか?」

その質問に、一抹の不安が胸を過ぎる。が、そんな心配は今更だ。頭を振って懸念を追い払い、頷く。

「分かった。先輩たちには言っておくよ」

「うっし、よろしく」

焼きそばパーン!と叫びながら購買方面へと走り去った良樹の後ろ姿にため息をつきながら、千鶴を振り返る。丁度、行く用意が出来たみたいだった。

「じゃあ、行くか」


 「こっちがあなたの分よ」

「お、悪い。ありがとな」

「昨日小笠原先輩が言ってたでしょ?一人分も二人分もあまり変わらないのよ」

「それでも、確実に手間は増えるだろ」

部室に到着し、昨日と同じ位置に腰掛ける。すぐに、隣から弁当箱が渡された。

「あーもう、やっぱりずるいー」

「何がだよ。真澄だっておいしそうな弁当じゃないか」

「でもー。あたしもあさ兄ちゃんに作ってあげたいー」

「心配ありがとう。けど、俺を気遣うならまずは呼び方を徹底してくれるとありがたいな」

「これは、いいの!あたしとあさ兄ちゃんの仲がいい証明なんだから!」

「それがよくないんだ。変な噂が立つとお互い気まずいだろ」

真澄が黙り込んだところで、千鶴が入ってくる。通常通り穏やかな、かつどこか含みのある声だった。筆頭はお前か。

「ホント、仲がいいのね」

「まあ、昔から一緒にいるからな」

「そうね。ほら、食べないと時間なくなるわよ」

 「悪いな、授業が少し長引いた」

遅れて先輩二人が到着したところで、弁当の蓋を開く。中身は、几帳面に整えられた数種類のおかずと主食から構成されていた。俺の敬愛するくるみパンが吹き飛ぶほどの彩りだ。

「こっちが螢の分ね」

「お、サンキュ」

それぞれが自らの弁当を手にしたところで、扉がノックされた。

「ああ、そういえば良樹がここで食べたいって言ってましたけど、大丈夫ですよね?」

「良樹なら構わないぞ。どうぞー」

後半は扉の向こうに向けたものだ。そして、招き入れられたのは当然良樹。お目当ての焼きそばパンが買えたのか、いい笑顔で入ってきた。

「こんちわ。じゃあ、失礼しますね」

そう言って、俺の椅子を一つ挟んだ隣に座る。そして、何の遠慮も気兼ねも無く、大口を開けてかぶりついた。

 それを合図に、めいめい自分の弁当をつつき始める。俺も、とりあえずウインナーを口に運んだ。

「ん、うまい。うまいよ、ちづ」

「あなたも気を抜くとあだ名が出る癖、直したら?それと、口に合ったなら何よりよ」

とりあえず、今しがた口にした単語を一つ一つ思い返す。……あ、本当だ。俺も真澄のこと言えないな。

「悪い悪い。つい、な。ありがとう、千鶴」

「どういたしまして。しょっぱかったりとかしないかしら?」

「ああ、全然。嘘とかお世辞とかじゃなくてうまいよ」

呼び方を直したら、千鶴の顔が心なしか不満げに曇る。が、すぐに嬉しそうに変わった。なんだったんだ。

 「ちょ、ちょ、ちょっといいか?」

黙々と食事を勧める中で、良樹が慌てたように声をあげる。ちなみに、大量に買い込んだらしい食事は、俺とは違いバランスが取れている。さすが、アスリート。自己管理はしっかりしているわけか。

「どうかしたのか?」

「もしかして朝陽の弁当って、安倍が作ってんの?」

「そうだけど?」

何を今更。今までの会話はそういう会話だろう。わざわざ確認してこなくても。

「いや、『何当たり前のこと聞いてんの?』的な雰囲気だしてんじゃねぇよ。何、お前ら付き合ってんの?」

「いや、ただの幼馴染」

「……そうね、幼馴染よ」

何で千鶴は一拍遅れたんだ?口に入ってたのか。別にここで肯定したらどうなるか、とか考えてたわけじゃないよな。

「そうだよ!あさ兄ちゃんとちづちゃんは特に何でもないの!そんなのありえないの!やっちゃダメなの!」

そして、何で真澄まで入って来るんだ。しかも否定が完璧に私情なのは何故だ。さっきおれもやったばかりだから強くは言えないが、呼び方、いい加減に直す兆しを見せてくれ。

「え、マジで?幼馴染だから弁当作ってあげるの?そういうもんなの?」

「そういうもんだろ。先輩たちもそうだし」

指差した先には、ニヤニヤと俺たちを観察している螢先輩と、食事中の大騒ぎに眉根を寄せるがわら先輩。二人とも、いきなり話を振られて驚愕と動揺を体で表している。

「あ、いや、これは、話の流れで、な?」

「そうだったんですか?俺には螢先輩が妙に食いついたように見えたんですけど?」

「あーや、その、な?」

「天野先輩、その言葉はどう意味なのか説明してもらえますかね?オレ、バカなんでよく分からなかったんですよ」

二人の集中砲火を浴びた螢先輩が、しどろもどろで言い訳する。そろそろ引き際だな。それじゃあ、第二走者、がわら先輩と行くか。

「それにしても、がわら先輩もいきなり言い出しましたよね。妙にウキウキと」

「へ!?あ、そ、それはその、皆楽しそうだったし、私も便乗しようかなって」

「楽しそうだから自分の手間を増やして誰かのお弁当を作ってくるんですか?」

「う、そ、それは、その、ね?」

「なーに天野先輩と同じ様な反応してるんですか!」

別に、これまでの鬱憤を晴らしたいとかそういうわけではない。少しでも先輩方の背中を押すための、俺なりの優しさなのだ。楽しんでいるわけじゃない。

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