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君と、もう一度。  作者: れんティ
文化祭編
55/126

文化祭:其の七

 料理研のイベントを終えたのが十一時三十分。それから、三年生が有志参加で製作した十五分程のショートビデオを見て、俺たちが昼食に部室へと戻ってきたのは、十二時過ぎだった。

 「けど、誰も模擬店はやってないのね」

「神高は、伝統的に模擬店禁止だぞ」

「あら、そうなの?」

「ああ。何でも、金銭トラブルが多発したらしい」

そんな訳で、神高文化祭は文化部の独壇場と化した。もちろん、運動部や学級で、エキシビションマッチを行ったり、有志製作を作ってみたりしているところもあるが、全体で言えば少数派だろう。

 というわけで、暗黙の了解として、十二時から一時間ほどは昼食休憩が取られている。もっとも、しおりに明記されているわけではないが。来校者向けのものには注意書きとして書かれているらしいが、見たことは無い。

 「お、来たな。先に食ってるぞ」

「あ、はい。お構いなく」

「朝陽、お弁当」

「ああ、ありがとな」

机の配置が変わってしまっているため、適当な場所に腰掛ける。話題は、すぐに決まった。

 「二人とも、大活躍だったな」

螢先輩が言葉で示したのは、十二時から流れ始めた、放送部によるラジオ放送。今は、料理研の部長がゲスト出演している。

『では、各コンビの講評をして頂きましょうか。辛口と言う事で、皆さんご覚悟を』

『はい。一組目、コンビ・みらくですが、一人の動きは良かったんですけどね。もう一人とのバランスが、いまいちでした。そこで少し全体としての評価が崩れてしまった形でしたね。ただ、汁物を最後に作って、温かいまま出したのはかなりの高得点です』

 「実況はここまで届いてましたからね」

「ええ。実況でしか状況を把握できないのが歯がゆかったわ」

「でも、妙味の料理は、間近で見ない方がよかったよ、栄介君」

「ホントに? さすがにそれは信じがたいんだけど」

ぱらぱらと会話をしながら、弁当を突いていく。机の横に置かれたダンボール内の文集は、残り四十冊程度か。まずまずだ。

『四組目の、妙味は?』

『あれは地球の食べ物じゃないです。審査台に置かれた二品は、片一方が若竹色、もう一方は紫色でしたからね』

『味の方は?』

『涅槃経が見えました。曽祖父に挨拶してきましたよ』

『……審査員諸君の存命を祈ります』

確かに、俺たちの盆の横に置かれた妙味の盆に載っていたのは、絶望の二文字をそのまま具現化したようなものだった。何をどうしたらあんな臭いがしてくるんだ。ぬれた獣みたいな臭いがしてたぞ。

 『それでは、大本命! 優勝した五組目、ブレイカーズは?』

「お、言われてるぞ」

螢先輩がニヤニヤとこちらを見る。それに気づかないふりをして、千鶴お手製の弁当を口に運ぶ。いつもながら、上手いな。これなら優勝なんて楽勝だろう、と遅ればせながら思った。

 ついでに白状しておくか。千鶴の手料理――半分は俺だが――が誰か他の人間に食われた事が、ちょっと悔しい。かき揚げ丼、俺も食べたかった。

 『……しかし、味もさることながら、ブレイカーズが他から突出していた点は、何といってもあのコンビネーションでしょう。ぶっちゃけてしまえば、味は二位のあじよしや、三位の生徒会書記とそこまで差があったわけじゃなかったですしね』

『ほほう、それが決め手だと?』

『ええ。即席キッチンは少し手狭で、二人が揃って料理をしようとするとどこかで肘や足、下手をすれば肩なんかも当たってしまうんですよ。けど、あの二人は一切ぶつからなかった。実況台から見ていた感想を述べさせてもらえば、あの二人、次に自分と相手がどう動くのか、二手、もしくは三手先まで分かってるような動きでしたね』

 まあ、確かに相手がどう動くかは、大体予想できてたけどさ。

 「あ、これ本当なんですか?」

「作る料理が分かってたし、朝陽は私のやり方と大体同じだもの。お互いのやってる事が分かれば、次にどう動くかくらいは予想が付くわよ」

 気がつけば、俺の弁当は空になっていた。先に食べ始めていた先輩や真澄たちもそれは同じらしく、雑談に興じている。とはいえ、現在の話題はこの放送一人勝ちだが。

 「朝陽、何で怖い顔してるのよ。美味しくなかったかしら?」

「いや。そんな事ない。悪いな。ちょっと考え事してた」

 千鶴の手料理を別の人間に食べられたのが悔しいなんて、口が裂けても言えないだろ。

『……つまり、他の組の料理には、手元が狂ったとしか思えないような切り方の具材があったり、溶けていない味噌の塊が入っていたりしたんですが、そういうのがブレイカーズには無かったんですね。どの料理も完成していて、そして美味しい。粗を探そうとすれば確かにありますが、どれも取るに足らないものでしたから』

 「辛口って言ってたけど、べた褒めだね」

「……だな。さすがに言いすぎじゃないか?」

「あさ兄ちゃん、照れてる?」

図星を指されて、急激に汗が噴き出す。妙に部屋の温度が高い気がするが、気のせいだろうか。いや、俺が体感的にそう感じてるだけか。

 「朝陽、顔真っ赤よ」

「……それ、黙っておいて欲しかった」

「あら、ごめんなさい?」

 『……と、言うわけで、ワイルドキッチン講評でした。この話を聞いて興味を持った皆さん!ワイルドキッチンは、明日の午前十一時から、もう一度行われます!今度はキッチン数も七つに増やしますから、頑張ってくださいね!』

 それを絞めに放送が終了する。ふと時計を見やると、丁度一時になるところだった。

「さて、じゃあ店番交代だ。朝陽」

「はい」

「レジスター代わりのクッキー缶はそこ。残りの在庫はそこのダンボールの中だ。十冊くらいは出して飾っておいた方が良い」

「了解です。楽しんでください」

「言われなくてもだ」

そういうと、三人は部室を出て行く。さて、店番の時間だ。

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