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君と、もう一度。  作者: れんティ
出会い編
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くるみパンと牛乳

 「んじゃ、俺購買行って来るから、先に部室行っててくれ」

「お、朝陽購買?オレも行くわ」

千鶴に一言言い置いて、大股で購買へ向かう。その後ろを、良樹がついてきた。

「しっかし、お前以外に手が早いよな。もう安倍さんと名前呼びとか、羨ましいわ」

お前、菊池さんと同じ事言うんだな。根が似ているのか、何なのか。とりあえず、そういうことでないと明言しておかないと、歓迎すべきではないうわさが広がりそうだ。

「違うって。小四の時まで家の近くに住んでたんだよ」

「なんだ、つまんねぇの」

他人の人間関係で面白がるな。まあ俺も無意識にやっているから強くは言えないが。

 購買は例によって例のごとくかなり混み合っていて、急いで出てきたのに人気のものはあらかた無くなった後だった。

「うえー、何にもねぇじゃんか」

「別に良いだろ。普通のくるみパンも中々いけるんだから」

「お前のくるみパンびいきは知ってるけどよー、やっぱり焼きそばパンには負けると思うんだよ。うん。焼きそばパンは最強なんだからな」

「ない物ねだりはやめろって。出遅れたんだ、仕方ないだろ」

悔しそうに焼きそばパンが並んでいたはずのカゴを睨む良樹を尻目に、いつも通り人気の無いくるみパンと牛乳を、代金と共におばさんに差し出す。おばさんはといえば、軽快に笑いながら良樹を慰めている。

「いやー、悪いわねー!焼きそばパンはさっき売り切れちゃったのよー。その子の言う通り他のもおいしいから、元気出しなさい!」

「ほら、置いてくぞ」

おばさんからビニール袋を受け取り、いまだ空のカゴを恨めしそうに見ている良樹を急かす。このままだと俺が昼食を取る時間がなくなりかねない。

「あ、オレはもう少し悩んでくから、先戻って良いぞ。どうせ部室だろ?」

「ああ。悪いな。じゃあまた後で」

残り物の中からマシなものを見つけ出そうと目を凝らす良樹に背を向けて、部室へと足を運んだ。


 部室の扉を引き開けると、既に俺以外の部員は全員、めいめいの昼食を頬張っていた。予想はしていたものの、こうして目の当たりにすると疎外感を禁じえないな。とはいえ俺が面倒がって弁当を作らないのが悪いのだから、それを口に出せはしないが。

「あ、遅かったね。先食べちゃってたよ」

「いや、全然良いよ。購買まで行って帰ってくると結構時間かかるからな」

教室の中心に鎮座する大きな机の、一番窓際に向かう。ここが俺の定位置だ。そして、俺の斜め前が真澄、廊下側に先輩二人が座っている。

 はずだった。俺の定位置には何故か千鶴が座っていて、自前らしき弁当を広げていた。

「……あ、千鶴そこなんだな」

「ええ。一番気に入ったのよ。ダメだったかしら?」

「いや、全然。好きなところに座ればいいさ」

「そこは八神君の特等席だって言ったのだけど、来るまでは構わないでしょって」

とりあえずその隣に座って、くるみパンを広げる。謝ってくるがわら先輩に軽く返して、かぶりついた。

 「しかし、朝陽。いつも思うんだが、お前それで足りるのか?」

螢先輩の言葉に、自分の手元に広げた昼食セット一式に目を下ろす。購買で買ったくるみパンが一つと、紙パックの牛乳。それだけだ。

 「……ちょっと物足りないですけど、別に問題ないですよ」

「くるみパンと、牛乳?そうね、カロリー的には少し多いくらいだけれど、バランスも悪いくて量も少ないわ。改善したほうがいいと思うわよ」

何事か考え込んでいたがわら先輩が、俺のお気に入り昼食セットの改善を求めてくる。確かに、傍から見れば寂しすぎる昼食だろう。特に、隣が千鶴の彩り豊かな弁当ならなおさらだ。俺のは茶色と白の二色しかないし。

「じゃあ、あさ兄ちゃんも自分でお弁当作りなよ!料理は出来るじゃん」

「お前な、校内ではそう呼ぶなって言っただろ。それに、弁当作るのは面倒なんだよな。今よりかなり早起きしなきゃならないしさ」

材料とかの買い出しも行かなきゃならないし。やらなきゃならないことが格段に増えてしまう。できない事はないが、やらなくて済むならやりたくない。それに、金銭面の話もある。ただでさえギリギリの小遣いを、これ以上は減らせないのだ。まあ、本を買うくらいの使い道しかないのだが。

「あ、じゃあ、私が朝陽の分も作ってくるわよ?」

「は?」

「聞こえなかったかしら?私があなたの分もお弁当を作ってくるわよ?それならあなたは食べるだけで済むでしょ」

ごくりと喉が鳴る。目の前に広げられた弁当は俺のお気に入りたちが霞んで見えるほどおいしそうだし、千鶴の手料理が食べられるのも魅力的だ。だが、そこまで世話になって良いのかと疑問視する声もある。とりあえず、疑問の方を先に解決しよう。

「あー、ずるいー!じゃああたしもあさ兄ちゃんにお弁当食べて欲しい!」

「なんだ、朝陽。淡白そうに見えてモテモテだな」

「そんなんじゃないですよ。何か、俺皆に心配かけてたんだな。悪い」

そして俺はどれだけ淡白に見えてるんだ。一応健全な男子高校生なんですけど。今日だけで三人に言われるなんて尋常じゃないだろう。

「なら私も螢にお弁当作ってこようかな」

「え、マジで?頼んでいいか?」

「いいわよ。一人分も二人分もほとんど変わらないから」

何か、二人の世界が出来上がってるな。そして、一方的な睨み合いが続く背後を振り返った。相変わらず火花を散らしあう二人の仲裁に入る。

「で、話はどうなってるんだ?」

「あさ兄ちゃんが決めて!」

「そうね、当事者は朝陽なんだし、朝陽が決めてくれない?」

「うーん、真澄はちっとも約束を守らないから千鶴に頼むか」

「うえー!だって自然と呼んじゃうんだもん!」

「その癖を直してくれと言ってるんだよ。とはいえ、先に提案してくれたのは千鶴だから、千鶴に頼むよ。お願いな」

「ええ。任せて。食べれないものはないわよね?」

「ああ」

いまだ酷いと泣き叫ぶ真澄を宥めて、明日の昼食に思いを馳せる。ただ単なる生命維持活動だったはずのそれが、少し楽しみだった。

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