文化祭:其の一
「これで、全員分の原稿が揃ったわね」
トントンと、机に原稿用紙を打ち付けて形を整えながら、がわら先輩がそうひとりごちた。
「長かったのか、短かったのか」
「長かったんじゃないですか。少なくとも僕はそんな気がしますけど」
「終わったー!これで後一ヶ月、のんびりゆっくりだよー!」
「そうもいかないな」
「そうね。これから文化祭に向けてポスターを作って、ここが売り場になるから大掃除もしなくちゃならないわね。それと、シフトとかも決めなくちゃならないわよ」
「えー!まだそんなにあるんですかー!?」
「原稿書いて終わりだと思うなって事よ」
「朝陽、絵はどうなってる?」
「今日の放課後、つまりもうそろそろ蜜柑さんが持ってくるはずです」
その言葉を待っていたかのように、扉がノックされた。
「はい、どうぞ」
「あ、小笠原先輩。絵、持って来ました」
「ありがとう。忙しいのにごめんなさいね」
外面というか、外向き用の笑顔で対応するがわら先輩に、蜜柑さんは少し戸惑ったようだった。
「い、いえ、私の仕事は夏休み入ってすぐに終わらせましたから。下手な絵でごめんなさい。不評じゃないといいんですけど……」
「いえ、十分すぎるくらいよ」
「そうですか。よかったです。ありがとうございました!」
「お礼を言うのはこちらの方よ。何かあればまた」
踵を返して去っていく足音が聞こえる。それを遮るように扉を閉めたがわら先輩は、ほっと息を吐いた。
「本当に、十分よこれで。筒井さんとクオリティは変わらないわ」
そう言って見せてきたのは、先ほど蜜柑さんから受け取った表紙用と挿絵。今回目玉にしている俺と千鶴の話のワンシーンを抜き取った絵を背景に、右上と左下、主要人物と被らない位置に真澄と清水の、螢先輩とがわら先輩のがそれぞれ描かれている。確かに、例年と変わらないクオリティだ。これなら、特に問題は無いだろう。
「じゃあ、これとこいつらを業者に渡すから、お前らはポスターの案でも出しててくれ」
がわら先輩からまとめて受け取った螢先輩が、一言残して部室を出て行く。残された俺たちはといえば、沈黙するだけだ。
「……あの表紙絵、ポスターにも使いますよね」
ポツリと呟いたのは、栄介だろうか。
「あ!そうよ。ちゃんとコピーをとっておかないとダメじゃない!」
その呟きに弾かれたように、がわら先輩までもが部室を飛び出していく。遠くから、「けーい!」という叫びが聞こえたから、どうやら間に合いそうだ。
「とりあえず、ポスターの案を考えるか」
「そうね。あの絵を使い回せば、私たちが絵を描く必要もないもの」
「じゃあ、そういう方向で」
メモ帳兼ネタ張に書き込むと、千鶴が覗き込んでくる。
その時も少し硬い顔をしていて、少し悲しくなったのは秘密だ。




