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君と、もう一度。  作者: れんティ
夏休み編
35/126

夏休み:其の七

 「おっはよー! あさ兄ちゃん! ちづちゃん!」

「おはよう、朝から元気だな」

「おはようございます、小笠原先輩」

「おはよう。顔赤いわよ。どうかしたの?」

「い、いえ、別に大丈夫です」

「そう? ならいいのだけど。八神君と安倍さんの席は、そこの二つだから」

「あさにちゃん、あたしの隣だよ!」

「ちづの隣か……」

「あら、私の隣は嫌なの?」

「そういうことじゃないけどさ……」

「あー! 二人でいいムード出しちゃって! さては何かあったね!?」

「い、いや、特に何もなかったぞ」

「ええ、何もなかったわ」

「朝陽、顔赤いぞ。何かあったんじゃないのか?」

「いえ、何もありませんでしたってば」

「ならいいが、先生のご厄介にはなるなよ?」

「変なこと言わないでください!」

朝、互いの顔を見ることなく準備を終えた俺たちは、昨日と同じ食堂に入ったところで、先に揃っていた四人のうち三人から血圧を上げられる出迎えを受けた。朝から元気なことだ。

「清水、元気ないな」

「僕、朝はテンション低いんですよ」

「そういうタイプか。まあ、この三人のテンションがおかしいだけだと思うから、気にするな」

「八神先輩にもっともらしいことを言われるなんて、ちょっとショックです」

「俺はお前にどう思われてたわけ?」

「末代まで呪うべき相手です」

「テンションは低くても、シスコン発言は絶好調だな」

「だから違いますって!」

「だいじょぶだよ! あさ兄ちゃんはあたしが護るから!」

「お前に護ってもらうほど俺は弱くないぞ。というか離れろ。味噌汁こぼすぞ」

「あたしはそこまで子供じゃないもん!」

「子供とシスコンはあてにならないって、知ってたか?」

「そんな言葉知りませんよ。新しいことわざに見せかけて創らないでください」

「お、シスコンは容赦ないな。俺どんだけ恨まれてるんだ」

「あたしは子供じゃないんだってばー!」

「子供の『子供じゃない』発言は一番あてにならないんだぞ。そう言って無理をした子供が、怪我をするんだ」

「あたしが子供な前提で話を進めないでよー! あたしのどこが子供なのさ!」

真澄の顔から、視線を斜め下に下ろす。わざとらしく寂しげに笑って、視線を元に戻した。

「……まあ、食おうか」

「今どこ見て笑ったのさー! 幼児体形とか思ったでしょ!」

「そんな失礼なことは思ってないぞ。ただちょっと成長が足りないだけなんだろ。お前の

親がそう言ってたしな」

「ううう、ママもパパも何てこと言ってるのさ……裏切られたよ……」

「朝陽、セクハラよ」

耳元で囁かれたと思うと、右脇腹に鋭い痛みが走った。

「痛たた! ちょ、お前抓るなよ!」

「あなたがセクハラまがいの発言をするからよ。成敗ね」

「こんな地味な成敗があってたまるか」

「あさ兄ちゃんの馬鹿! 今に見返してやるんだからね!」

「真澄ちゃんも、大豆がいいらしいわよ」

「ホント!? って、ちづちゃんまで!」

「真澄の場合は、両親の呼び方からだろ」

千鶴の勧めた味噌汁を睨みつけていた真澄は、俺の言葉にきょとんとした表情を作った。こいつの場合、顔に出た表情はそのまま今の感情だ。

「どういうこと? ママとパパじゃ子供なの?」

「一概にそうとは言えないけど、子供っぽい印象はあるよな」

俺のそんな感想に乗ってきたのは、こういうことには積極的な清水だ。

「そうですね。キャラとかも、子供とかはそういう呼び方ですし」

「そうなの!? じゃあ、栄介君は何て呼んでるの?」

「僕は、父さんと母さんだな」

清水の視線の先には、隣に座っていた螢先輩がいる。視線でバトンを渡された螢先輩は、気恥ずかしげに頬を掻いてから口を開いた。

「俺も、父さん、母さん、だぞ。亜子はどうだ?」

「私は、お父さん、お母さんと呼ぶわ。安倍さんは?」

「私も、お父さん、お母さんですかね。朝陽は?」

俺に振ってから、露骨に失敗した、という顔をする。そこまで気にしなくても大丈夫なんだが、千鶴にとって見ればそうもいかないのかもしれない。

「俺は、子供の頃はお父さん、お母さんだったな」

全員の回答をまとめると、男子は父さん、母さんで、女子はその上に『お』がつく。真澄と同じ呼び方の人はいなかった。

 その結論に、真澄もたどり着いたのだろう。愕然とした表情をしている。

「あたしの呼び方は子供っぽいの?」

「そこまで安易に結論付けはしない。けど、そういう印象も否めないってことだ」

「むむむー」

今度はなにやら難しい顔で考え込み始めた。大方呼び方の変更について大真面目に検証しているのだろう。

「とりあえず、食べませんか?」

「そうね、食べましょうか。それじゃあ、いただきます」

「「「「「いただきます」」」」

礼儀ただし苦笑はして、並べられた純和風な朝食を口に運んでいく。さすが本場の旅館というべきか、どれもおいしかった。

 なによりも、誰かと朝食を食べるという行為自体が、俺には珍しい。林間学校のときもあるが、あれは学校行事と言う印象が強すぎた。

 ふと、目の前に光景が浮かぶ。俺と千鶴と子供が仲良く食卓を囲む、心温まる光景。

 頭を振って追い払う。俺にしてはセンチメンタルな。そして、何故千鶴なんだ。

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